みんながいるから

「伊織、感じてるか?」

「はい。これは厄介な空気が出てますね。皆さんに少し下がってもらった方が良いかもしれません」

 予想外の人物から返事が返ってきた。


 振り向いた俺が見た顔は――

「大野くん?」

「なんでしょうか?」

 まるでそこにいるのが当たり前のように俺のすぐ後ろに彼はいた。

 そして顔は真面目な中にも少し少年感を残してるような優しい笑顔をたたずませていた。

 伊織はその後ろで複雑な顔を浮かべている。


「え~っと……。ちょっとみんな戻ろっか……」


 クルっと体の向きを変えて、今来た場所を家のリビング方向へと戻っていく。

 自分の指示でみんなが戻っていくのを見るとなんか恥ずかしくなってくる。誰も異を唱えずに指示に従ってくれてるがなんだか申し訳ない感じもして。


—――俺はそんなキャラじゃ決してないんだけど、なんか本当にリーダーみたいなんだよね。


「ちょ、ちょっと伊織話があるんだけど……」

「あ、う、うん」

 少し離れたところに二人で歩いて行く。

「彼って何者?」

「えぇ~っと、実はね、彼……お義兄にいちゃんのファンなんだって」


 —―なっだってっぇぇぇぇ!!

 思わず飛び上がる。


「な、なんで俺? ファン?」

「あのね!! 今までの私が関わったことをちょっと友達に話しちゃったんだよね。 そしたら大野クンがお義兄ちゃんと話してみたいって、今日のことも話してたからついてきちゃって……」

 かなり困惑気味に下を向きながらぼそぼそと話す。

 こんな意外な姿の伊織を見るのが初めてな俺も結構困惑している。

「か、カレシとかじゃないの? 伊織の」

「ふあぁぁ!? ち、違うよぉぉぉ!!」

 じたばたする伊織。


「そうなのか?」

「ぜっっっったいい違います!!」

「お、おう!! わかったよ」


――か、顔が近いです伊織さん。まぁとりあえずこっちの話はいいとして……


「大野くん、君に一つだけ聞いておきたいんだけど、君ものかい?」

「「「え!?」」」

 俺の一言でみんなの視線が一斉に彼に集まる。

 これには伊織もビックリしたみたいで隣で目を見開いて彼をみていた。


「あはは、ハイ。よ」

 迷いもない一言。


「お、おう。そ、そうか」

「ええ、藤堂さんから話を聞いて、お兄さんも視える人だと知って嬉しくて!! しかも活躍してるって言うじゃないですか!! これはもう会ってみるしかないなって思って今日無理して連れて来てもらったんです!!」

 かなり熱のこもった説明だけど。ウチの義妹いもうとが「呼んでないもん!!」って唇を尖らせてるけど、分かってんのかな?

「で、君は何がしたいの」

「え?」

「いやだから、君はついて来て何がしたいんだい?」

 唐突な俺の質問に大野クンは固まった。少したっても彼の口から言葉が出ることはなかった。


 —―ふぅぅ。

  俺は一つため息をついた。


「いいかい大野クン。ついてくるなとは言わないし、俺の事気に入ってくれてるのもありがたいけど、俺はそんな大していい人間じゃないんだよ」

「ちょ、ちょっと何言って……」

 カレンが挟んだ言葉を「いいから」ってさえぎる。


「俺はここまでここにいるみんなに助けられてきたんだ。間違えないで欲しい」

「そ、そんなことないですよお兄さん。僕は――」

「うん。君がを何に使おうとしてるのか分からないけど、俺がすごいんじゃないんだ。みんながいてくれたから今ここにいられるんだよ……それだけは忘れないで」


 その場が静まり返る。


「じゃぁ、いこうか」


 みんなの前を通り過ぎる時、俺の方をみんなが「ぽん」っと一つ肩をたたいてくれた。嬉しくて泣きそうになった。

 俺の心はここにいるみんなにはちゃんと届いている。それがとても嬉しかった。



 そして先ほどの扉の前。

 今度は後ろに見慣れた顔と姿、伊織の姿がある。


「お義兄ちゃん」

「い、行くぞ伊織」


 ガチャ


 扉を開けたそこには今までに感じた事のない負のオーラが漂っていた。


 そこに少女が一人。


 ただただ小さくうずくまっていた。


「くっ!! これは……」

「ダメですね。この場所ではこの方はこのままです」

 横で並んで入った伊織もすごく辛そうな顔でその少女を見ていた。

「どうする伊織」

「事の最初を調べてみましょう」


 悔しいけど。何もできず、話しかけることすらできずに再びその扉をしめた。


 リビングへと引き返し、皆から話を聞くことにした。


「ここは……初めを調べてみたいんだけど、みんないいかな?」

「シンジ君と伊織ちゃんがそう決めたなら了解かな」

 カレンがいつもの調子で返してきた。

 それぞれが同意してくれてその家を後にする。

 もちろんお母さんにはちゃんとお礼を言ってから。


 再び集合した駅へとやってきた。


「じゃぁまた連絡するから」

 その場を放れていく大野くんと菜伊籐さん。

 いつものメンバーだけがまだそこに残った。


 そんな中、いつものふんわり口調の言葉が発せられた。

「あのう……、伊織ちゃんもるって何の話?」

 俺達を見渡しているのは声の主、響子である。


 そして俺は思った。

 

――言うの忘れてたぁぁぁ!!





※作者の後書きみたいな落書き※

この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

誤字脱字など報告ございましたら、コメ欄にでもカキコお願いします。


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