黒い影

 バスの中ではもう完全に遠足状態だった。

 きゃいきゃいと女子組がはしゃぎながら最後尾を独占している。

 俺はもう何かを言うのをやめた。だってこんな黄色い声とぶところに何か言うなんて自殺行為はできないから。


 しかし—―

「いや~俺なんて玲子とさぁ~」

「アア、ソウデスカァ……」

 ――おかしい。通路を挟んで並んでるはずなのに三和と正晴のノロケを聞かされてるのは何故だろう?

これは湖の事よりも地獄のような気がしてきた……


「そろそろ着きますね」

 げんなりしていたところに救いの神が手を差し伸べてくれた。しかもすぐ隣にいたのです。伊織だ。

 その言葉でそれまではしゃいでた女子組が静かになる。

「な、なんか、ちょっと苦しいな……」

 

――同時に正晴に天誅!!—―じゃなかった異変が出てきた。


 前回この湖に来た時に降りたバス停とはちょおうど反対側にある神社。

 バス停で降りると正晴は更に調子がおかしくなっていた。三和がそれをかいがいしく介抱する。

 秋田真由美と遭遇したあの浜よりもここは空気が重く、そして黒い。そして気持ちが暗くなる。

 そこから神社までは歩いても数分の距離なのに、足取りが重く登山をしてるようだ。


「藤堂クンなんだか私も……」

「ちょ!! 三和さん大丈夫?」

 ただ違うのは三和には暗いモヤのようなものが体に覆いかぶさるようにまとわりつき始めていた事。

「ちょっと!! 二人とも大丈夫!?」

「シンジ君、一度どこかで二人を休まないと!」

「そ、そうだね。じゃぁあそこに!」

 二人をみんなで支えながら神社近くのお土産屋さんまで急いで移動した。


「玲子……すまん、お、俺と別れてくれ……」

「と、突然何を言い出すのよ!」

「こ、このままだと、お、俺は君を……」

「え!? なに?」

「君を……くっ! 言いたくない!! 」


 明らかに正晴はここにいるの影響を受け始めているようだ。

 まずはその元凶を突き止めなければならない。


「どこいくの?」

「すまん。二人を見ててくれ!!」

 直ぐに駆け出して、その元になっているであろう場所へと急ぐ。

 少し後ろから同じように駆けながら追いかけてくる足音。

 振り向くとそこに伊織の姿がある。

「伊織戻れ!!」

「ヤです!! お義兄ちゃんと行きます!! 今度こそごにょごにょ……」

 

—―最後は走ってるから聞き取れないけど、ウチの義妹が真顔で言ってきたら、お兄ちゃん的には断れませんよ。

 神社を過ぎて、階段を降り少しだけある浜辺へと近づくにつれ、それまでの義兄妹きょうだいの温かい感情が冷めてしまうくらい。強くて暗い感情が流れ込んできた。


「あんたらが元凶か?」

 そこには一人うずくまる男とその男を鋭い目で見降ろす女の霊がいた。

 男はこちらの問いかけには反応することなく、ただひたすら下を向いてブツブツ、ブツブツと言っているだけ。

 女は――顔はすごく悲しそうなのに目は赤黒くランランとしていた。


『なんの話?』

「なんのって……」

—―この感じ。話してるだけで気持ちが沈むような冷めた感覚はヤバいの感じだ。一瞬で体から汗がブワァッと噴き出してくる。もう脇の下なんてびしゃびしゃだ。


『邪魔しないでくれるかしら。私はオトコの人が必要なのよ』

「なぜだ!! なぜそこまでしてオトコだけを連れていく!!」

『この人よ。この人が私を見てくれない!! だから私だけを見てくれるオトコだけがいいの!!』

 かなり興奮してきている。このままでは離れたところにいるとはいえ、あの二人にも少なからず影響してくるだろう。正晴があの時の状態を考えたら、これ以上になったら行動が予測できなくなる。

 何しろここ最近の六人の男性はみんな亡くなっているのだ。

「まずは落ち着いてくれ」

『あの女といい、あなた達といい、私を邪魔するつもりなら――』

 ヤバい何か来る。とっさに伊織をかばうように背を向ける。

『ここから消えなさい!!』

 ブウォンッ!!


「うおあぁ!!」

「きゃぁ!!」


 あっさりと吹き飛ばされた。


「大丈夫か? 伊織」

「うぅ、だ、大丈夫。お義兄ちゃんは?」

「俺は平気だ。俺よりも伊織の方が大事だし。今日はお兄ちゃんっぽいだろ?」

「う、うん……」


—―義妹よ、なぜ赤くなる?


「シンジク~ン!!」

「カレン!! みんな!!」

 お土産屋さんにいたはずのカレン、響子、理央がすぐそばまで走りながら近づいて来ていた。

「どうして!! あの二人は!!」

「大丈夫!! バドミントン部の二人が付いててくれるから」

「それにお二人では何かあった場合どうしようもないでしょ?」

 と響子。

「それに私達はカレシはいないしね」

 理央が微笑みながら言う。


「ありがとうみんな!!」

「これからでしょ!?」

 カレンに背中を「バチーン!」とたたかれた。それと同時に沈みかけていた感情がみるみる復活してきた。


 ブブブブッ、ブブブブッ


 正面を向き直った俺のズボンのポケットでケータイが震えだす。

 誰だ! こんな時に!! 軽く舌打ちした。

 画面の表示は[藤堂慎吾]。父親からだった。

「父さんからだ—―。はい、もしもし」

「ああ、真司。例のだけどな、わかったぞ」


 この電話がこの件を解決するカギを握っていたのだ。





※作者の後書きみたいな落書き※

この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

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