憑(つ)かれる

 ソコは静かな水面に不釣り合いなくらいすごく空気が重かった。

 湖に近づくにつれて雰囲気は悪くなり、それまでははしゃぐ声も聞こえていた女子組からも、その声は小さくなり聞こえなくなった。


「着いた……みたいだけど、みんな体調悪くなったりしてないか?」

 振り返って確認すると、みんな声は出さずにコクンとうなずくだけで返事する。

 ここにいる人達はみんな一度はソレを経験して、ここの空気が重い事を感じているみたいだ。

「それで、ここでどうするの?」

「えと、水に入った後で皆さん変わってしまったと言ってました」

 カレンと伊織が荷物を置いて浜を降りていく。

「あ、待って待って」

「やる時はみんな一緒にだよぉ~」

 市川姉妹もその後に続く。

 俺も急いで荷物を置きみんなのいる場所へと向かった。


「せぇのぉ~三…二…一…はい、今!!」

 ぽちゃっ

 ドボンっ

 ちゃぷ

 いろいろな方法でいろいろな個所を各々が湖に体をつける。

 そのまま五分――


「よし、みんな湖からいったん離れてくれ」

「はぁーい」

 なんかこういう時みんな素直に従ってくれるんだよね。やりやすいからいいんだけど、なんかくすぐったい感じがする。

「どう? 何か変わったりした人いるかな?」

 女の子四人で顔を見合わせている。

 俺が見たところ変わった様子は無いみたいだけど油断はできない。


「そういえばさぁ……。私達って誰もカレシいないんじゃなかったっけ? これって検証になるの?」

「いや、その検証も大事だけど、俺はこの場所を見たくなったんだよ」

「へぇ~、どうして?」

 と、こちらに振り返った響子に聞かれる。カレンの言った事は間違いなくその通り、カレシも彼女もいない俺達ではソノ検証は出来ない。それは知っていた。なのに響子からの疑問[なぜ来たかったのか]には、俺も疑問に思ったのだ。俺は自分から行きたい場所なるものが限定的で行動範囲ですら広くない人間なのだ。ましてはそういうモノが出る場所、いる場所には好んで出かけるようなタイプではない。

 では何故なのか――


「『私がお呼びしたんですよ』」


 その言葉にビックリして振り向くといつの間にか横に立っていた理央。しかし微妙に声質が違う。

 周りにいた三人にもその奇妙な感じに気づいたのだろう、カレンと響子はなるべく離れないようにしていてる。

 そして伊織は、俺と理央の間に素早く入り込んできた。

――また伊織に助けられる形になってて、お兄ちゃん少し悲しいぞ。


 間違いない。理央から半垂れてる感じは本人の物ではない。理央は何者かに憑依ひょういされているようだ。


「『あらあら』」

 クスクスと笑う理央。


「『、大丈夫よ。そこの男の子に私は何もしないから。そちらのかわいらしいお二人にも何もしません。もちろんこの娘こにもね』」

「あ、あなたは……誰ですか?」

理央の方へ恐るおそる声をかける俺。

 その女性は少し考えるようなそぶりを見せてからこちらに向き直った。

「『わたしはまゆみ。秋田真由美よ』」

 目の前にいる理央の気配は全くしない。完全にこの真由美という女性に飲み込まれているみたいだ。これは完全に俺のミスだ。理央は過去に体の中に人では無いモノに入られていた事がある。あれから心も身体も持ち直したとはいえ、こういう事態が起こらないとは言えなかったのに。

 不甲斐なさに唇をかむ。


 しかしそれにしては妙なのだ。目の前には幽霊がいるのに、なぜかそんなに嫌な気分になったり寒気が襲って来たりと言う事がないのだ。だから憑依されるまで気づかなかった。しかしそれは言い訳にしかならない事は分かっている。

「『あなた方がここにこうして来たという事は、最近の誰かに預けたメッセージが届いたのねぇ』」

「どういうことですか? 今の言い方だと俺達と話をする意思がある、というか話を聞いて欲しいみたいですけど」

グッと恐怖心を抑え込みながらなんとか会話を続ける。

「『そうですねぇ、こうして話を聞いてくれる方がまた来るとは限らないもの。こういう機会はもうないかもしれないから、あなた方に聞いてほしいかな』」

「この場を作るためにあの三人に近づいたんですか?」

「『三人? 変ねぇ……。私が近づいたのはあの時は二人だったはずだけど……』」

 このひとが言う言葉には嘘は感じられなかった。

「ちょっと、理央は、理央は無事なんでしょうね?」

 カレンが強気に真由美に噛みついた。

「『う~ん。こういう事ってしたことないからどれだけの影響が出るのかわからないけど、私の方から危害を加えたりはしないから安心して』」

 まだすごく真由美をにらみ続けるカレンに目線で「落ち着け」と促した。

「『それに……そのお嬢さんがいるからあんまりこのままいられそうにはないしね』」

 俺はこの言葉を聞き流した。今はを気にしてる場合じゃない。


「話を聞きましょう。みんないいよね?」

「いいわ」

「わかった」

「うん」

 それぞれが返事を返してくれた。

 それにうなずいて返事をする。


「『ありがとう。優しい方々。そもそも私はもとよりあなた方のような人に害をなそうとは思っていないのです。私はこの湖からは離れられそうもないのですが。最近が何やら騒がしく動いているようなのです」』

「え? それじゃ、ここで五人の女の子に変な事してるのは別の……」

「『いえ、それは私です』」

 ウフフって感じで微笑む真由美。


 う~ん、なんかこの真由美って人は元々が響子のようなタイプだったのではないかと思う。

「『だって、私の事を噂とかで広めてくれるなら女の子じゃないとね。私も経験あるし』」

話を聞いてる女子がうなずき始める。

「あぁ~そういう事かぁ」

「なるほどねぇ」

「言ってる事はわかりますね」

 女子組が納得してるしてるみたいだけど、俺にはさっぱりわかりません。


「で、話ってなんですか?」

「『そうねぇ、あなた達ならどうにかできるかもしれないわね。うん。実は私以外に人に害をなしてるモノをどうにかして欲しいんだけど、できる?」』

 先ほどの柔らかい微笑みとは違い、真顔になって問いかけてきた。


「やるわ!!」

「そうねぇ」

「ですね!!」


――えぇぇぇぇぇぇ!! 返事すんの早!! 


「いいでしょ? シンジ君」

カレンの言葉に二人もジッと見つめてくる。


――この人たちに見つめられると弱いんです、俺。

「うん……いいんじゃない?」

 なんて考えなしで返事しちゃいました。だってなんか疲れたんだもん……





※作者の後書きみたいな落書き※

この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

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