涙の理由 


 正体を明かし、カレンを連れて行こうとしていた理由が千夜せんやから語られようとしている――


『まずは、カレンさん』

「な、なによ!」

 名前を呼ばれてビクッと身体を震わせたカレン。

『康介はあなたが好きでしたと伝えてほしかったそうです。そしてあなたが望むなら向こう側に連れてきてあげて欲しいと』

「結構です!! あたしは行かない!!」

 今にも飛び掛かりそうな勢いで返すカレンを、響子と理央が押さえて「どうどう」って感じでなだめる。

 

――カレンはフーフー言ってるから牛っぽいけどね。言えないけど……

 

 その様子を微笑みながら見ている千夜。

『大丈夫ですよカレンさん。あなたを連れていくのはもう考えてませんから。それに、こちらの話はという事が前提ですからね』

「そ、そうなの?」

「じゃぁ……」

 カレン・響子・理央の三人は顔を見合わせながら、「良かった」って笑いあう。

 

気になることが残る。そもそも何故この千夜が康介とそんな約束をしたのか。そもそもあの写真に写ったときの様子では、その事だけがあったからじゃないはず。

 真司は考えたことを問いかける。

「それだけじゃないだろ? 康介に何があったんだ?」


 それは、悲しみに顔をゆがめた千夜せんやが語り始めた――



 

僕はもうすぐ死んでしまうらしい――

 入院している病院で、主治医の医師せんせいに呼ばれた時から何となく気づいていたんだ。

僕は工藤康介――友達と呼べる存在がいない――この病気のせいで。

 

[余命は持って五年です]


 あの時から僕の人生は止まった。

 楽しく通っていた学校も、楽しく遊んでいた友達も、楽しかった勉強さえ、今の自分には必要だと思えなくなった。

 そんな時、通月途中で見かけたんだ。小学生の時に好きだった[日比野カレン]さんを。久しぶりに見かけた彼女は、僕の知る頃とは比べ物にならないくらい輝いて見えた。話しかけてもたぶん今の自分には気づいてもらえないだろう。体も顔もあの頃とは変わりすぎてる。

 しかも君はアイドルの卵になってるみたいだし。

 だからせめて、陰から応援することにしたんだ。

 そんなある日、体の状態が良くなくて病院へ行ったら、そのまま意識がなくなった。

 気がついたら目の前に僕と同じくらいの歳の子がいて、「まだ早いよ」って言ってきた。

 次に気がついたら病院の天井が見えた。

 生きてる事が嬉しくて泣いちゃった。

 その二日後にまた意識がなくなって、またあの子が現れたんだ。だから僕はお願いした。

 [僕の残りの命を、誰かに分けてあげて欲しい]って。

 その子は笑ってたけど、「じゃぁ何か約束しようって」言ってきた。僕は想いを一つだけお願いして、その子と約束をしたんだ。


 僕は次の日目が覚めて、両親がビックリしてた。[危篤]だったんだって。

 体調も驚くほど良くなって、次の週には退院した。

 それから数日は学校へい行ったり、友達と遊んだり受験勉強したり楽しかった。


 でも、その日はやってきた。

 突然に――

 

 通学途中のいつもの道で気がついたらまた目の前にあの子がいた。「また戻れるの?」って聞いたら今度は首を横に振って「迎えに来たよ」って。

 その時に、ああ、約束を果たしに来たんだってわかった。

 だから僕は今、こっちにいる――


 

 話をする千夜に向かい、俺を含めたみんなが顔を向けて下を向いている。

いつの間にかすすり泣く声が聞こえてた。カレンも響子も理央も、そして隣の伊織も、顔を伝って落ちる涙を拭こうとはせずに。ただ流れ出るままに。

そして話を続ける千夜を待った。



淡々と千夜は語る――

『僕はその[約束]を果たしに来たんだよ』

 涙を流した俺も応えられない。

『康介との約束……。それは[僕が死んで1年たって僕が忘れられてたら、僕が生きてた証を証明してきて。そして思い出を残してきて]だったからね』

「だ、だから君は僕らに調べる時間を与えたのか……自分たちで思いだしてほしいから」

 こくんとうなずく千夜。


『それに、初めに言ったでしょ? って。それにはんだよ』

「お前、死神なのにいいのか? 連れていくことがお前の……」

 力ない声で俺が訴える。

 それに少しはにかむように返ってきた答えは。

『負は正の力には敵わないんだよ』

 だった。


『これで約束も果たしたし、君たちともお別れだね。楽しかったよ。なるべくならすぐには会いたくないからみんな、ゆっくりしておいでね』


 ニコッとすごい満面の笑顔を残して千夜は少しづつ消えていきながら――

『そうそう、伊織ちゃん。その君の力すごいね!!』

「「「「え!?」」」」


 爆弾発言を残し今度こそ消えていなくなった。

 皆の視線が伊織に集中し、伊織は下を向くことしかできなかった。



 その時伊織は――

『そうそう、伊織ちゃん。その君の力すごいね!!』

「「「「え!?」」」」


 ――って、あの死神さん最後に爆弾投げていったぁぁぁぁぁ!! 

 

自分に向いているみんなの視線がなんだか痛くて、恥ずかしくて下を向くしかなかった。



「伊織……まさか……」

うめき声にも似た小さな声が口から洩れる。しかし俺の小さな声は誰にも聞かれることが無かった。





※作者の後書きみたいな落書き※

この物語はフィクションです。

登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。

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