正体
そろそろ時間も余りないな。
この状態でそう長くいることはできない。僕たちはこの世界にあまり手をだしてはいけない。
だけど、これだけはどうしてもやっておきたいんだ。
とある塔の最上部に康介は立っている。
そろそろ動かなければならないと。
きらめく街灯りを眺めながら考えていた。
その頃――
「ねぇ、そこのショウユ取ってくれない?」
「おお、ほらよ」
カレンに言われて手渡す。
「お
「はい。重いから気をつけてな」
伊織に言われてまた手渡す。
のんびりな雰囲気を醸し出しながらウチの近くにあるファミレスに五人で集まっていた。
何かここだけ華やいで見えるくらい豪華な顔ぶれに、さえない男が混ざっている事で、周りが何かヒソヒソ話している。
まぁ、考えてる事は分かる。[伊織・カレン・響子・理央]の四人がそろってるだけで絵になるのに、そこに邪魔がいるんだからな。現にケータイをこちらに向けているヤツもいるし。
ただ、カレンはいつもの女子高生仕様だから、お下げに赤いメガネ姿だけど。
「しかし、こんなにのんびりしてていいのかしら?」
響子がのんびりした口調で話す。
「いいんじゃない? 今のところ工藤くんが来るって確証もないわけだし。あ、その彼ってまだ工藤くんって呼んでいいのかな?」
理央も響子と同じくらいのんびり口調だけど、声質が少し低い。
「いいんじゃない? まだ本当の彼の名前を知らないんだから」
どうでもいいみたいな口調なのがカレンだ。
ちなみに伊織は俺の隣でオレンジジュースをおいしそうに飲んでいる。
こうして人の多いところに集まる事で少しでも康介が現れにくい環境にいることが大事だ。
こういう時間帯、学校帰りは響子・理央コンビが付き添って帰り、アイドルモードの時はメンバーがカレンと一緒に行動してくれていて、何かあれば連絡が回ることになっている。
――しかし……その中心に俺がいるってのはどうも不思議に感じるなぁ。そういえば気付いたけど、最近俺の周りには女の子が集まってきた。これってリア充ってやつかな?。
俺の気持ちなんて知らないでいつの間にかガールズトーク? ってヤツで盛り上がってるし。
「ところで、今日集まった理由って何なんだ?」
トークの目標が伊織に集中してきたことで、困っていた義妹が眼で「助けてお兄ちゃん」って言ってるように見えたからを助け船を出すつもりで、俺のクチからようやく言葉が出た。
「あ、そういえば楽しくてつい忘れてたよ」
てへって顔してカレンが反応した。
「その康介の話なんだけどね、シンジ君に頼まれてたコト聞いて来たんだよ」
「そうか……。何かわかったのかな?」
「う~ん。わかったようなわかんないような……。今まで私たちが知ってる事とは変わりはないんだけど……」
カレンが眉間に手を添える。眼鏡が少し押し込まれていく。
「そうねぇ~、あまり変わった話はなかったみたいだけど」
と響子。
「う~ん、そうねぇ。中学生になってから学校を休む事が多くなってたくらいかしらね」
と理央。
なにか、ホントに何かがフッと突然俺の頭に浮かんできた。そういう表現がぴったりだ。
その浮かんだものと、先日見た写真が合わさった。
ガタタッ
「あぁぁぁぁ!! そうか……そういう事か!!」
突然立ち上がって大声を出した俺を、一緒にいたみんなも周りいたお客さんも一斉に注目した。
慌てて席に座り直す。
――すっごい恥ずかしい。
それから「えぇぇ~」って顔してる(特にカレンが)三人に康介について聞いてきた事を詳しく話してもらい、伊織を加えた四人に俺が考えついた事を聞いてもらった。
「そ、そんなことって……」
「あくまでも今の段階での俺の考えだけどね」
俺はそう言ったけど、内心では確信に思いがあったからだ。
しかし、それが事実だとするならば、俺達が今の康介に出来ることははい。その事はみんなが理解した。
俺を含めた五人はそれから黙り込んで飲み物をクチに運び込む事しかできなった。
康介は待っていた――
彼らがここに来ることは分かっている。
昨日突然に彼から呼び出され、今日、この時間に来るようにと言付かった。
彼らは自分に会う事を願いながらも恐れている。なのに自分たちから会いに来いという。
本当に人間とはわからないものだ。
イヤ、自分はもう忘れてしまっただけなのか……あの遠い記憶を……
そして思う――
今日、この日が彼らに会う最後の日になるだろうと……
俺たち五人は歩いていた――
店を出て誰も話をしないままもう十数分になる。
行先はウチの近所にある公園だ。この時間帯なら、遊ぶ子供たちもいないだろう。
住宅街にある本当に小さな公園。
ファーストフード店での出来事のあった日に康介と接触した俺は、今日、康介をそこに呼び出しているのだ。
そして連絡を取り合い俺たちは向かっている。
公園は静かだった。子供たちが遊び楽しそうな声を上がていただろう時間からはまだ間が無いだろうはずなのに、今はその面影すら感じられないくらいに。
「待たせたかな?」
一人の少年と思われし[幽霊]が公園の中ほどに立っている。
俺が足を止めると、後ろをついて来ていた四人も同じように止まった。
『いえいえ、時間などあってないようなものだから』
そう言いながらこちらに少し歩み寄ってきた。
「もう、皆に姿を見せてもいいんじゃないか? できるんだろ?」
康介が微笑んだ。
ぶわっっと一陣の風が舞う。
そこに姿を現したのは、黒に統一されたスーツを着た少年。
「あ、あなたが工藤くん?」
響子が話しかける。
『まだ、その名前で読んで頂けるとは思いませんでしたね』
「あなたは誰なの?」
と理央。
『う~ん、どう説明すればいいのか……』
「康介の名前まで使ってあたしを連れてきたいなんて、どういうつもり?」
カレンが噛みつく。
困った顔をしながらも微笑む康介。
「君は……君は死神……なんだよな?」
「「「「え!?」」」」
四人の視線が康介から俺に集まる。
――ちょっと恥ずかしいな。あ、そういえば康介が死神だってことはあの時説明するの忘れてたな……
みんなの驚いた顔を見て気づいた。そして恥ずかしさとも追う仕訳けない気持ちを悟られないように俺は話続ける。
「見たんだ、康介が事故に巻き込まれた直後の写真を。そこに霊体になった康介と思われる人物と君が写っていたんだよ」
『そうですか……。知られてしまったんですね。ならもう隠すこともありませんね。そう、真司君の言う通り僕は死神の
腰を折りながら深々とお辞儀する。
俺は心の中で舌打ちした。やっぱりな。今まで会ってきたモノ達よりもはるかにチカラがあるとは思っていた。[死神]という言葉を俺はそのモノたちから聞いた事があった。こちらでさまようか向こうに行くかの選択をさせてくれるが、その際にある約束をする。破ったものには容赦はしないのだと。
今その[死神]が目の前にいる。
俺は悔しいけど、一歩も動くことができなかった。
その時伊織は――
――死神って? 嘘でしょ? そんなのどうしたらいいの?
お義兄にいちゃんも動けないみたいだし。何より私の力があまり効いてない無いみたい。どうする私!!
と、真司と同じように動けないでいた。
『前も言いましたが、僕はあなた達に危害を加える気はありません。あれば今頃は皆さんこの世にはいないよ』
たしかに千夜の言う通り。やるきになれば俺たちなど、初めの時点で消えていたはず。
――それに今ヤツは――あなた達にって言ったよな。まさかコイツ初めから……
『カレンさんを連れてとは思いましたが、あなたは嫌と言いました』
「そ、そんなのあたりまえでしょ!! 生きてるんだもの!!」
カレンの改めた猛反発に千夜は微笑んでいた。
『そうですね。もちろんそうだと僕も思うよ。それに、その言葉を聞いた事で[約束の半分]は果たせたしね』
俺はその言葉ですべてが繋がったように感じた。
「そうか……そうだったのか。あの事故の時の写真、そして二人……。その時、康介と約束を交わしたのか!!」
千夜は少し驚いたようで、俺の方を見ながら微笑んだ。
『いいや、約束したのはもっと前さ。康介が病気で苦しんでいる時にしたんだよ』
「病気?」
小さい声で理央が聞いた。
『そう、康介は十三歳ころから重い病にかかり始めた。何とか学校にいきたいからって頑張ってたみたいだけどね。そんな中、康介が危篤に陥った夜があった。僕と康介はその時初めて会ったんだよ』
「そんな思い病気だなんて……し、知らなかった……」
力ない声をだした響子。
『だろうね。康介は誰にも言わなかったよ。友達にもね。いや……言えなかったんだ。もうすぐ自分がいなくなるなんて。だから、僕にだけ話してくれたんだ。そして約束した』
「その約束って何だ?」
俺のそばでは伊織も真剣な眼差しを千夜に向けている。
俺も何かあったときの為に話をしながら態勢を整える。
『その約束とは……』
どこかにいる康介に語り掛けるように千夜は空を見上げながら話を続けた――
※作者の後書きみたいな落書き※
この物語はフィクションです。
登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。
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