交換条件
『……私だって、私だって好きでこんなモノになったわけじゃない! それに言っておきますけど、私はまだ生きてるはずですぅ!』
――何言ってんのかなこの娘は? その状態になってまで生きてるってことはまずない。まぁたまに死んだ事が信じられなくてさまよい続けてるやつもいるけど。
考えられるのは……
「え!? なに、もしかして生き霊さんですか? あれ? 体から離れちゃったはいいけど戻れなくなった系? それとも自分から生きて霊になっちゃった系?」
うわぁ~って感じの生暖かい視線でカレンを見る。
すると霊体だから赤くなってるかはイマイチわからないけど、急に俺のいる周りが寒くなってきたのでチョット怒りモードになっていることがわかる。
『ちーがーいーまーすぅー! なっちゃった系とかそんなんじゃなくて、真面目に聞いてよ!』
「はい」
冷気に押されて素直にうなずく。
『よし! では説明するね。一週間前くらいかなぁ、いつものように授業が終わって帰ろうとしてたのよ。で、校門のところで友達から声を掛けられて普段では使わない学校からの帰り道を二人並んで歩いてたわ』
「へぇ~、お嬢様って豪華な車で毎日送迎とかしてもらってるんじゃないのか?」
『普段から毎日じゃないわよ。それに送迎されてもらってるのは、本当にお嬢様って感じの人たちだけよ 』
そう言ったカレンが俯いて、顔が少し困ったような、怒っているようなそんな表情を一瞬だけした。それからすぐに俺の方に向き直って続きを話し始める。
『でね、私は途中の駅で電車に乗らないといけないから友達と別れて駅に向かって、数分で駅について電車を待って、乗らなきゃいけない時間になったからホームに歩いて行ったわ』
そこまで話し終えるとカレンは一息つくようにため息を漏らす。
『そこから、そこから記憶がないの。ううん気が付いたらこんな姿であの路でずっと立ってた。助けてって話しかけたり、つかもうとしてすり抜けたり、毎日続いてたの』
この娘は、もしかしたらそのホームから落ちて亡くなってしまっているのかもしれない。でもその前後があいまいなせいでそれが受け入れられず、こうしてさ迷い歩いている。そう考えた俺はやっぱり悲しくなった。自分の死は受け入れられないにしても、自分の体に戻してあげたいと思った。
「じゃあ、俺は何をすればいいんだ?」
もちろん体に戻りたいというのであれば探せないわけじゃない。
あれ? 待てよ? でもそれならば自分でふわふわと行けるはず。もしそこで死んだならばこの娘は駅にいなければおかしいのである。
『私は死んでない。ぜったいに。だって自分の温かさを感じてるもの。だからお願い、私の体を一緒に探してほしいのよ』
そして俺は頭を抱えることになる。
「それで?」
『え? それで? ってなに?』
「いやだから、君の体を探すのはいい。百歩譲って亡くなってない事にしょう。で、探してあったなら良かったなぁってなるけど、なかったらどうするの?俺はまだ中学生だよ?できることも行ける範囲も限られるのに……」
『そうねぇ、マズは生きてるって事を君が信じてない事には今は目をつむることにして、まずは探してくれるだけでもありがたいわ』
あぁ~やっぱり関わらなきゃ良かったと心に思う。そしてやっぱりお嬢様だな。こちらの都合は考えてないみたいだ。
「俺にメリットは?」
『メリット?』
「そうだろう? メリットがなきゃ何で初めましての幽霊ちゃんに従って、あるかないかもわからない体を探さなきゃならない?」
『!! ……確かに、それもそうよね 』
――だろ?そりゃかわいそうだとは思うけど、初めて会った幽霊ちゃんに義理はない。まして今は妹を先に行かせたままの買い物の道中なのだし。伊織を待たせたままなのは凄く気が引ける。
それにたぶんその願い事に付き合うことになったら一日や二日では到底難しいだろう。
だからこそ俺じゃない誰かを頼ってほしい。俺には何も力はないのだ。
『わかったわ 』
「 へ?」
『わかった。たぶん当分はかかるでしょう、その間私はあなたにできるだけ協力する。そばを離れずに』
「おまっ!!」
ぜんぜんわかってねぇ!! やっぱこの子はお嬢様だった!!
『それからもう一つ』
「なんだよ?」
俺は帰りたくなっていたのだけど、多分ついてくるなと言っても、この手のタイプには通用しないだろうと諦めてため息をつく。
『もし、無事に身体があって、元に戻ることができたら…シンジ君、あなたの彼女になってあげるよ』
ニコッとはにかむカレン
「ぶふぉっ!! お、おまえ、何言ってんだよ」
ニコッとなんて俺にしてんじゃねよ!!かわいいなって思っちまったじゃねかよ。幽霊なのに。ほんとに幽霊なのか?
『だって、いないんでしょ? カ・ノ・ジョ』
焦る顔を見られたくないから、飛ぶくらいの勢いで座っていたベンチを後にする。
「あぁ~、とその……わ~ったよ。探すの手伝ってやるよ」
『ほんと?! ほんとに探してくれるの? 』
「ああ、そのかわり伊織には手を出すなよ?それが条件だ」
「やったぁ。やっぱりシンジ君優しいね。思い切って声かけてよかったぁ」
本当に嬉しそうに鼻歌交じりに上機嫌についてくるカレン。
頼みを引き受けた理由――カレンのことがかわいそうだと思ったこと。
――まぁ同情心ってやつが湧いて来たってのもあるし、そのルックスや「彼女」という言葉に下心が動いたのも間違いじゃない。
でもそれ以上に感じたこと。今まで出会ってきたそのモノ達はすべてとは言わないが、ほぼ後ろ暗い感情で沈んだモノたちしか居なかった。しかしカレンは全開で前向きである。そう見えるだけかもしれないけど、彼女からは特有の感情が感じられなかった。
だから俺は本心では関わりあいたくないと思っても、母さんの言葉を思い出して彼女の前向きさに役に立てたらいいなって…そうそうおもったんだ思ったんだ。
『ところでシンジ君、
「お前、何言ってくれちゃってんのかな? 」
『違うの? なら大丈夫ね』
「何が大丈夫なんだよ?」
『なんでもなーい』
くすくす笑いながらやっぱりふわふわと後をついてくる
「義妹には何もするなよ?」
『もし何かしたら?』
「成仏させる」
『でぇきないくせにぃ~』
あはははぁ~と笑うカレン
――くそっ! やっぱりかかわらなきゃよかったと思う。
買い物予定のお店の前でショルダーバッグを下げて待っている伊織を見つける。
こちらに気づいた伊織がぶんぶんと手を振ってくれた。
自然と駆け出す俺。
仲のいい兄妹に戻った瞬間だが、先ほどまでとは違い俺の後ろにはふわふわ浮いたカレンがいる。
伊織が見えていないことを心の中で祈るしかなかった。
※作者の後書きみたいな落書き※
この物語はフィクションです。
登場人物・登場団体等は架空の人物であり、架空の存在です。
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