ラノベにおけるキャラクターの創作論

 雑居ビルの二階にあるメイド喫茶ストレンジ。


 昼下がりのこのメイド喫茶店に赤松 リョウヤはいた。


 赤松 リョウヤはメイド喫茶の売り上げに貢献しているらしいのか、合法ロリ店長や殺し屋気取りの毒舌メイドから色々とサービスを享受を受けれるようになっていた。


 ラノベ講座は意外と好評らしく、噂を聞きつけた専門学生とかが店に足を運んでくるようになり、メイド喫茶に金を落とすようになっていた。


 最近は景気が良いのか店舗拡大か移転を視野に入れてるらしい。


 それはともかく赤松 リョウヤは何時もの端の方のテーブルで女子高生の獅子堂 レオナ、新塚 カリンの二人と相談をしていた。


「魅力的なキャラクターの作り方?」


 それが赤松 リョウヤに女子高生二人から告げられた悩みだった。


「はい。魅力的なキャラクターの作り方が分からなくて―」


 赤髪のツーサイドアップの女学生の獅子堂 レオナが言う。

 休日であり、今はバイトのシフトでもないせいか、ファッション誌に出れそうな、首や肩周りが露出しているカジュアルな私服姿になっていた。


「私もどうしても何かこう、見た事があるキャラクターになってしまうのです」


 特徴的な口調と声の金髪ツインテロールの女学生、新塚 カリンがレオナに続く。

 彼女も休日であるせいか私服姿でミニスカの洒落た、セレブ系キャラを連想させる純白のワンピースファッションだ。格ゲーで見た事がある。何かのコスプレのつもりかもしれない。

 

「そう言えばそこら辺あまり説明しなかったな・・・・・・」


 キャラクターの立て方の見分け方については少し教えたが、魅力的なキャラクターとかの作り方についてはあまり触れなかった。


「いわゆるキャラ立てって奴に詰まってるんだね・・・・・・酷い言い方をすれば昔のジャン○漫画とかを参考にしてくれればいいんだけど」

  

「だけど、どう参考にすればいいのか分からなくて――」


 と、レオナが言う。

 リョウヤも「それは最もだな」と思った。

 キャラ立てと言うのは物語の作り方と同じくある程度の段階の創作者なら一度はぶつかる壁だ。

 

「ラノベでも凄いのは凄いですよね――どうしたらあんな魅力的なキャラクターを描けるんだか・・・・・・」


 カリンもそんな事を言っていた。

 リョウヤは一先ずクイズ形式で悩み解決へ誘導するようにした。


「不良漫画はどうして世間で受け入れられていると思う?」


「え? どうして不良漫画?」


「レオナさん。この質問は私達の疑問を解決に導く意図があると思いますわ」


 レオナの当然な疑問にカリンはそう返した。


「そりゃ・・・・・・面白いから?」

 

「ここで重要なのは何が面白いのかと言う部分ですの」


「えーと不良が活躍するから不良漫画でしょ?」


「あー出題ミスったかな?」


 レオナの混乱する様子を見て、リョウヤは苦笑する。


「新塚さんは分かったの?」


「私はあまり不良漫画は見ませんが・・・・・・正直、不良漫画に憧れて不良になったと言う人は聞いた事はありますが現実の不良は不良漫画みたいな格好いい不良はいないと思いますの」


 新塚 カリンが愚痴交じりに言った。

 そこまで言ってカリンはハッとなって「もしや」と呟いた。


「気が付いたようだね」


「え? 分かったの?」


「いえ、言葉では上手く言い表せませんが・・・・・・その、現実には存在しないから魅力的に感じるとか?」


「惜しいな――でも限り無く正解に近い答えだよ」


 カリンの答えにリョウヤはそう褒める。

 レオナは「えっ!?」となった。


「じゃあえーとキャラクターの立て方ってその現実にはありえない設定を持たせるとか?」


「それも正解に近いし、ある意味正解かもね」


 それを聞いてレオナは「やった」と喜ぶ。


「もしかして誤解しているかもしれないからそろそろ正解言うね?」


 カリンが「と、言いますと?」と話を進めるように促す。


「これもとある漫画で語られていて、ハウツー本とかでも書かれているかもしれない内容だけど、手っ取り早い方法は真逆の要素を入れるんだよ」


「真逆の要素――ああ、もしかして不良漫画を例にしたのは」


 ハッとなって出題の意味に気付いたようだ。


「そうだ。今はどうかは知らないけど不良漫画の主人公は現実にはありえないような格好いい不良だからね。不良的な部分はあるけど、不良じゃないみたいな。そう言う真逆な要素に読者は惹かれるんだよ」


「そう言われて説明してみれば成る程と思いましたね。不覚でしたわ」

  

 と、カリンは悔しそうにするが赤松 リョウヤは「いやいや、そんな事はない」とカリンを擁護する。


「レオナさんもそうだけど君達ぐらいの年齢でそれに気付けるのっては凄いことなんだよ」


 レオナは「そ、そうですか?」と照れてカリンは「それでも未熟な事には変わりはありませんの」と引き締めるように述べ、二者二様の反応を見せた。


「キャラクター創作でもその人の創作者としての実力は分かったりするからね。他の作品のキャラクターを参考にして自分なりのアレンジしたり複数ミックスするのがまあ普通だな。何も考えずに他作品のキャラクターに対抗意識燃やして設定したり、物語の破綻とか考えずに最強設定するのは悪い例だ」


「あ、ごめんなさい。ちょっと――心の傷が」


 レオナの顔色悪くして頭を抱える態度に呼応するかのようにカリンも「レオナさん――私もですわ――」と同じく顔色を悪くして頭を抱えていた。


「ごめん、後半は創作者なら殆どの人が通る道だからあまり気にしないで・・・・・・」


 気分悪そうに顔を手で覆っている二人を慌ててリョウヤは慰めておいた。


「気を取り直してちょっと前回の復習するね? キャラクターの立て方は様々です。成功例や良い例を見分ける方法があります。これは前回話した通り―右腕にあらゆる異能力を打ち消す右手を宿した不幸な少年」


 まるで早押しクイズに答えるように「あ、そのキャラクター分かります。有名ですよね?」とレオナが言った。


「とまあ説明だけで分かるのが重要になってきます。これが前回ちょこっと触れた事の復習。それでは魅力的なキャラクターと言うと・・・・・・これもまあ有名な作品、せっかくだし「とある魔○の禁書目録」とかを参考にしようか―」


「確かに魅力的なキャラクターが多いですもんね」


「ですけどレオナさん。それを感覚的だけでなく、ちゃんと分かるようになるのが今回の目的ですのよ?」


 そうレオナに釘を刺すカリン。


「まず、主人公の上条君。なにが魅力的かと言うと不幸で日常生活に役に立たない、あらゆる異能の右腕だけしか持ってない以外は普通の高校生です。そんな彼が魅力的である由縁は他者のためなら例えどんな困難が相手でも立ち向かう姿勢です」


 リョウヤは「続いて第二の主人公の一方通行」と前置きして話を続ける。


「彼は学園最強の能力者で目的の為なら一万人の少女のクローンを殺す冷酷かつ残虐な一面を持っています。しかし彼は上条君に負け、無敵の能力者になると言う目的を阻まれ、そしてある少女と出会い、人の為に死にかけながらも――引き替えとして皮肉にも殺す予定だったクローンの少女達の力を借りて生きて、そして大切な者のために立ち上がるようになります」


 更にリョウヤは「最後は第三主人公浜面くん」と畳み掛けるように説明する。


「彼は正真正銘無能力者で学園の自治組織に厄介になる程のワルであり、不良グループに所属しています。しかし友人の死をキッカケに正真正銘の闇の世界へと堕ちます。闇の世界の不条理に嘆き苦しみましたが、とある少女に助けられ、その少女のために立ち上がり、例え相手がなんであれ命を賭けて守るために戦う事を決意します」


 作品に出て来る、三主人公のキャラクターの魅力を解説しました。


「とまあ長々と語ったけど――魅力的なキャラクターの作り方と言うのは反対の要素を入れると一気に魅力的になるんだ。キャラクターの引き立て方とかそう言うテクニックとかも計算する必要も出て来るけど」


「と、説明されても難しいですね」

 

 レオナの弁にカリンは「そうですわね」と同意する。

 

「これは過去の人気作品のキャラとかを地道に分析してくしかないね。確かネット検索掛ければ、年度別にラノベの人気キャラクター投票の結果とか出て来る筈だからそれを参考にして分析してみるのもアリだよ」


「確かにどう言うキャラクターが人気が丸わかりですが・・・・・・被りそうですわ」


「カリンさんの言う通りですよね・・・・・・」


 二人はその点を不安がる。

 リョウヤ出した答えは。


「そこで前回の上手い物語の盗み方が出て来る。それをキャラクターに置き換えるんだ」


「え? でも大丈夫かな?」


「そこは作家の腕の見せ所でしょう」


 不安がるレオナに対してカリンは自信ありげに語った。


「他にも色んな方法もあるが――ここは一つ学園物を例にしよう」


 レオナが「学園物ですか?」と言う。


「そうだ。物語の主軸となる主人公やヒロイン、友人ポジのキャラクターとかのお約束の枠、更にそこへ必要に応じてクラス委員長や生徒会長、教師と言う枠に合わせてキャラを造形する。学園物はファンタジー同様にやり尽くされてるジャンルだがファンタジーよりかは難易度は低いし、プラス要素や視点の変更次第などの作者のセンス次第で十分面白い作品は作れる可能性は高い。またラノベは狙いである読者の年齢層の都合上、大体学園要素があるから一度挑戦してみるのもありだ」


 リョウヤは「それは踏まえた上で」と前置きし、


「日常物にするにしろ、異能バトル物にするにしろ、主人公とヒロインはなるべく性格は対比するようにするのが好ましい。今となっては古い作品だがとらド○とかが分かり易い例だな」


 レオナは「あ、それ分かります」と納得し、カリンは「成る程、とらドラですか――」と此方も合点がいったようだ。


「この対象の法則はいわゆるライバルキャラにも適用する。主人公を巡って恋の争奪戦をするライバルヒロインとかもそうだ。そこへ更にお嬢様、不良少女、ギャル、委員長、外国人美女などの定番の枠を必要に応じて追加し、メインとなるヒロインとか――とにかく他のキャラと被らないようにキャラクターを造形する」


「どうでもいいけどハーレム物なんですね」


「すいません獅子堂(レオナ)さん。自分ラノベ作家で即興で考えてるもんでつい・・・・・・話を戻して、ライバルキャラは今回お嬢様にする。ここでキャラクターをどうするかは作品の都合と要相談だがここは分かり易くお金持ちで上から目線の常に自信満々の女の子で主人公を勝ち取る為なら金は惜しまないとかお約束設定を入れる反面、実は純情で努力家だとか筋違いな真似はしないとか、そう言う真逆的な部分も描くと読者から共感を得られる筈」


「なんかお嬢様キャラの造形気合い入ってますわね。実は好きですか?」


「あ、すいません新塚(カリン)さん。偶然です。はい――とまあこんな感じでキャラクターを計算して作っていくわけですよ・・・・・・ふう」


 リョウヤは語り終えて深呼吸し、「即興でお疲れ様です」とレオナが労をねぎらう。


 話を締め括るようにリョウヤは「もっとも――」と前置きして持論を展開する。


「こう言うの云々抜きにして、特に考えずに好きに書いて多くの読者に読んでもらえたらそりゃ嬉しいよな。特にアマチュアのWEB小説の場合は設定とかある程度似通っていてもアクセス数次第じゃ書籍化とかされる時代だしね・・・・・・と、愚痴言ってごめんな」


 レオナは「いえ・・・・・・参考になりました」と返し、カリンも「丁寧にお教え頂いてありがとうございました」礼をする。


 二人は赤松 リョウヤからプロになった作家ならではの苦労を感じ取り、息を合わせるように気付かなかった態度をとった。

 リョウヤはどう思っているのか「ははは」と苦笑する。


 

 Side 獅子堂 レオナ


 メイド喫茶での講義が終わり、レオナとカリンの二人は近くの本屋で見て回る。

 この日本橋は西のオタク街。

 現在のサブカルの主流を肌で感じ取れる場所だ。

  

 ラノベも今は何が人気なのかも分かる。


 それにラノベを手に取る客の話題も参考になる。

 例えば「この作品は~~だから」みたいな意見だ。

 作品の資料においてリアルの体験に勝る資料はないのでこう言うのはとても貴重だ。

 

「・・・・・・今回も中々ためになる授業だったわね」

 

 と、レオナが今回のリョウヤのアドバイスを思い出す。

 言われて見れば思い当たる要素のキャラクターがとても多い。

 それが魅力であり、個性なのだろう。


 しかし最後の「好きな作品を書いて多くの読者に読んでもらえたら」の下りは――自嘲あるかもしれないし、勘違いかもしれないが、自分やカリン、二人に向けたメッセージのようにレオナは感じた。


「確かにこれを意識するかどうかだけで随分と世界は変わりますね。前回の物語の上手い盗み方もそうでしたが・・・・・・しかし最後の赤松さんは何か悲しげでしたわね」


「ええそうね――」


 レオナは初めて出会った時に言われた事を思い出す。

 あの時は穏やかな口調で厳しい現実を突き付けるように言ってきた。

 

 赤松 リョウヤは失礼ながらラノベ作家としては売れっ子とは言い難い。

 だけど彼から教わっている事は多い。


 プロの世界の過酷さと言うのを端的に垣間見たようにレオナは思った。

 

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