アンチ・ラブコメ、長谷川 千歳と言う少年

 Side 長谷川 千歳


 世の中は不平等で当然。


 それが普通なのだ。


 だけど多くの大人達はそれは間違っていると言い、平等にしようとする。


 だけど、どう足掻いても絶対的な平等な世界なんてのはありえない。


 もしもそれが実現したとしたら、それはディストピアな世界と言う奴だろう。


 だから長谷川 千歳は言う。


 俺は金持ちの家に生まれて良かったと。


 俺は金稼ぎの才能に恵まれて良かったと。


 だから俺は高校生の身分で美人メイド付きでそれなりの規模の住宅に住んでいる。


 漫画に出て来る様な豪華な屋敷ではないが、現実的に考えればデカイ規模の――二人暮らしするには広い家。 


 千歳は頭の悪いゲーミングPC(数十万する奴)が置かれた自分の部屋でゲームをしていた。

 最近話題のクソゲー呼ばわりされている核兵器で世紀末となったアメリカの復興を題材にしたオンラインゲームだ。どっかのイカレ野郎達が核ミサイルを発射し、一人がやったのか複数でやったのかは知らないが計三発発射してサーバーダウンした時は大爆笑した。


 棚にはまあ漫画とかフィギュアとかそう言うのが色々と並べられている。

 ベッドに広いクローゼットルームの中にはメイドとSEXする時に着せる衣装とかが入っていた。


「長谷川様――本当によろしいんですか?」


「なにがだ?」


 ふと長谷川の後ろに立っていたメイド服の美女が語りかける。  


 赤毛で後ろを髪の毛で束ねている目鼻立ち整った背丈の高い美女。

 胸も大きくて童貞を殺しに掛かっている。

 佐伯 美津子さん。(別名、型月のブーティ●)定期的に犯している。勿論ブーティ●の衣装も試した。


 彼女が語りかけている長谷川と言う名前は自分の名前。


 長谷川 千歳。

 女の子っぽい名前だが別に男の娘でもない。

 メガネをかけて、アホ毛があって、お下げにしてて、体格もそこそこ。

 自分の事をこう言うのもなんだがとてもお金持ちとは思えない。


 昔の人気連載漫画の人気キャラと容姿と名前も被っているがこれは偶然だ。


「婚約者を手放しても?」


「ああ? まだ言うんだ?」


 婚約者を手放した。

 

 まあ彼女の立場を考えれば気になるのも仕方のない話だ。


 存在意義に関わる事出し。


 名前は忘れた。


 ギャルゲーの美少女お嬢様キャラみたいな名前だったのは覚えているが縁談を勝手に申し込んで勝手に断った。


 理由は知らない。


 確か向こうから会社の融資の条件で女を差し出すみたいな感じで話してきた。


 自分よりかは歳食っているクセに金稼ぎが下手だなとか、娘を自分に差し出すとか親の情とかあるの? とか色々と長谷川は思った。


 それに――


「なんかあっちも相当揉めてるらしいし関わるのも面倒だからもう縁談その物を無かった事にした」


「と言いますと?」


「言葉通りの意味だよ――大方親とお嬢様とで揉めてるんだろう。相当激しいラブコメでも繰り広げてるんじゃないのかな?」


 そう言って千歳はゲーミングPCをシャットダウンした。


「あの? 今からどうします?」


「まだ休日の昼だぞ? セックスするには早過ぎる。それにセックスって気持ちいいんだけど、疲れるからね。体鍛えた方がいいかな。車回して――」


「は、はあ・・・・・・じゃあ着替えて参りますね」


「どうでもいいけど、なんでメイド服なのかな? 別に着用義務とかないんだけど――」


「き、気にしないでください」


 と、顔を赤らめて美津子は立ち去った。

 

(結構酷く扱ってる筈なんだかなぁ・・・・・・マジでなんなんだ?)


 と、千歳は首を捻った。




 Side 佐伯 美津子


 佐伯 美津子にとって長谷川 千歳は怪物であると同時に人生の救世主だった。

 

 佐伯 美津子は順風満帆な人生を歩んでいた。


 勉強していい大学入って。


 自衛隊に入って退職した。


 自衛隊を退職したのは想像と現実のギャップが酷かったからだ。


 普通の日本国民は先人達の努力で自衛隊に対して良いイメージを持っている。

 だがその裏では厳しくて過酷な訓練をやっているのは想像出来た。

 だけど憧れて入隊した。


 だが予算不足のツケの設備不足やら、風俗通いで破滅する隊員やらを見て失望してしまったり、パワハラ――自分の胸で罵倒されるのは覚悟して来たが訓練の一貫だとか称して触ってきたりして我慢出来なくなっていた。


 本当は恐い、自衛官と言う奴だ。 


 だがこうした経験の御陰で長谷川 千歳の採用基準に引っかかる事が出来た。



 いっそ除隊しようかと思った矢先、佐伯 美津子は多額の借金を背負い込んでしまった。

 


 どうやら家族がバカやったらしく、そのツケを支払う事になったのだ。


 自衛隊の薄給では支払う事が出来ない額なので除隊し、キャバ嬢とかAV女優とかの世界に足を踏み入れようと考えていた矢先に長谷川 千歳に拾われた。


 何でも金持ち向けの人材を調べて来る裏の会社と言うのが存在するらしく、長谷川様曰く某国とかもよく使っている会社らしく、その気になればフリーランスの殺し屋とかも紹介してくれるとかどうとか。


 自分の個人情報もどうやって調べたかは分からないが長谷川様曰く「日本は情報管理がザルだから楽勝なんだとさ」と、まるで漫画みたいな台詞が返って来た。


 最初に会った時に言われた言葉は「このまま身体を売るか、俺に買われてメイドやるかだけどどっちがいい?」だった。


 ムッとなったが精神的に追い詰められていた美津子はアッサリと雇用契約書にサインした。


 後になって雇用契約書を見直したが「万が一不備、不満があったら契約書の見直しを行う」と言う一文があった。

 この時から既にもう私を大切にしてくれるつもりだったようだ。


 それからメイドとして働き、長谷川様の家の部屋に専用の住居まで用意してくれた。

 住居を用意してくれたそもそもの発端は――借金を背負った家族と関わりたくなかったのが原因だった。

 

 長谷川様はお盆休みとかそう言う休日の日まで作ってくれて、その理由を尋ねたら「家族との付き合いとかもあるだろ?」と言う理由だった。

 ここで知ったが借金が出来た詳しい原因までは調べていないようだった。


 それを知って長谷川様は「ごめん・・・・・・悪かった」と謝った。


 返すように佐伯は長谷川様の家族の事について尋ねた。


 長谷川様はどうやら青春時代の殆どを金稼ぎに費やし、両親の経営不振すら立て直したりしたらしい。 


 だがそれが家族達の気に触った。


 だが長谷川様は――母親とは違う他の女と出来た家族の三男坊であり、驚くべき事に経営のトップはいわゆる世襲制であるそうだ


 

 どうやら捻くれた男に育ったのはこの辺りの家庭環境にあるようだ。


 実際愛情を求めるようにかなりの女性に手を出しては捨てていたようだ。

    


 それからこの広い家に閉じ籠もるように生活を始めた。


 自分の両親がどうなったか興味すら持たなくなったようだ。


 にも関わらず私とその両親の仲を気にするのは長谷川様に残った良心のような物かもしれないと思った。



 そして――長谷川 千歳は幾多の異性に手を出してなお愛情に飢えていた。


(SEXの時も何だかんだで優しくしてくれる)


(時折、「今日はセックスはいいから隣で寝てくれ」と言う)


(その時の無防備そうな顔が一番、長谷川 千歳と言う少年の心の奥底が垣間見れる瞬間でとても好きだ)

 

(私がここまで長谷川様に心酔いするようになったのは――やはりあの事だろう)

 

 佐伯 美津子は思い出す。

 

 長谷川 千歳は世界的に有名な女性格闘技団体「ファイティングエンジェルス」の試合にはよく足を運んでいた。


 自分がスポンサーになったファイターの様子を見るためだ。


 後で奴隷にするための品定めなのだろうかと思ったがそうでもないらしい。


 なんでもタイ人の女性ファイターで貧乏な家族を養うために「ファイティングエンジェルス」のファイターをやっているらしい。


 他にも孤児院育ちの中国人のファイターのスポンサーになっていた。

 とにかく色々と訳アリの子に金を出していた。


 当時の佐伯は皮肉を言うように「ああ言う女性が好みなんですか?」と言った。  

  

 長谷川は即答して「うん」と言って逆に驚いてしまった。


「世の中は不平等なんだよ。それが当たり前なんだよ。それを分かっていながら人を助けたい時、どうすればいい?」


「それは――」


「金と言う形で解決するのは便利だ。後腐れ無く解決する場合とか特に有効だ。だけどそれ以上を求める場合はただ金を与えるだけじゃダメなんだ――いや、そもそも人間の人生は金に縛られている。金が全てとは言わないけど金がなければ生きられない。だから俺は金を必死に稼いだ。殆ど働かなくても金が入る仕組みを作り上げた・・・・・・」


 長谷川様は「だけど――」と言って言葉を続ける。


「――人との繋がりは金では手に入らない。それを理解した時、絶望を感じると同時に、逆にホッとした」


それ以来だろうか。

 

 長谷川に異性としてより深く愛情や興味を抱くようになったのは。


 確かに長谷川は世間の基準からすればダメな部類の人間だろう。


 だけど心の底から悪い人間ではない。


 ただ不器用なのだ。


 長谷川 千歳と言う人間は。


 そんな長谷川 千歳を佐伯 美津子はこれからももっと知りたくなった。 

  

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