ラノベの書き方と金髪ツインテロールのお話

 大阪のオタク街。

 大阪日本橋。

 オタロード、でんでんタウン。

 

 そこにある雑居ビルの1フロアを貸りきって経営しているメイド喫茶「ストレンジ」


 客足がいいのか、最近もう一フロアを借りようかと言う話しが出ている。

 それぐらい店の経営が繁盛していると言う証拠だろう。


 にも関わらず自分――自身の事をこう言うのも何だがうだつのあがらないラノベ作家である、赤松 リョウヤは今日もストレンジの一テーブルを借りてラノベ志願者の推敲作業をしていた。


 最近は秘密のサービスとして、「ラノベ作家が原稿みてくれるサービス」があるとかないとか話題になっている。


 勿論、赤松 リョウヤの事である。


 どうやら獅子堂 レオナとの持ち込み作業を見ていた脚の誰かがSNSで流したのだろう。


 こう言う事が起きるのもSNS時代ならではだろう。


 店側にも協力して貰っているが何時まで秘密が持つだろうか。


 と言うかラノベを見せたいならネットに挙げるか、編集部に投稿するか、ラノベの専門学校にでも持ち込めばいいだろう。


「獅子堂さん? 隣の方は?」


 今日も制服を着た獅子堂さん――学校帰りのようだが今日は友達連れのようだった。


「学校の同じ部活の子」


 金髪ツインテール。

 両房はロールにしている。

 そしてナイスバディ。

 どっからどう見ても絵に書いたような、て言うかコテコテ過ぎて現実に存在したのか? と思いたくなるほどの漫画的なお嬢様キャラだ。


 獅子堂さんと同じ制服を着ているところを見ると同じ小説家らしい。


「新塚 カリンと呼んで欲しいです」


「はあ・・・・・・で、何の御用でしょうか?」


「勿論ラノベのお話ですわ」


 内心(ですわって言う人初めて見た)と思いながら「具体的には?」と返した。


「百聞は一見に如かず。私が書いた短編小説を読んで欲しいのです」


 そう言って彼女はタブレットPCを取り出した。

 そこには縦書き書式で文章が並んでいる。 

 自分は「はぁ」と返して文章を見た。


(ジャンルは現代を舞台にした異能バトル物・・・・・・流行のジャンルだな・・・・・・)

 

 特殊能力を持った少年が事件に巻き込まれ、少女を救うために奔走すると言うラノベ的な展開だ。

 王道と言って良い。

 だが読み辛い部分や短編であるせいか、少々冒険しきれてない箇所を感じた。

 短編と言う枠を意識しすぎているかもしれない。


「これは題材が短編に向いてないのが原因かな? ちょっと短編と言う部分を意識しすぎてる部分があるね。ここまで書けるのならいっそ出版社向けに書いてみたら?」


「漫画の担当編集者みたいにボロクソに言われる覚悟してたんですけど、そうは言わないんですのね」


 そう言う人もいるだろうが「酷い作品ではないからね」と答えておいた。

 実際悪い作品ではない。

 良く出来ている作品だ。

 だが雑誌とかに掲載できるかどうかと言われると「うーん」と悩まざるおえない。


「基礎は出来ているからね。もうちょい深く踏み込んだ話をした方がいいかな?」


「それって私に話した上手い話の盗み方みたいな感じの奴ですか?」

 

 と、獅子堂さんが話に割って入ってきた。


「ラノベのハウツー本は読んだ事はありましたがそう言う今すぐ活用できそうなテクニックはありませんでしたね。まあだからこそ興味を持ったと言いましょうか」


 新塚さんがここに来たのはそれが理由か。

 元々はとある漫画家さんのアシスタントを題材にした漫画で出て来たお話なんだけどな。


「まあそんな感じかな? 今回はお話を作りの最低限必要な要素を教えておこうと思う」


「それはテクニックですか? 5W1Hみたいな?」


「それも重要だけど違う。もっと簡単なの」


 5W1Hとは?

 

 いつ(When)

 

 どこで(Where)


 だれが(Who) 


 なにを(What)


 なぜ(Why)


 どのように(How)

 

 と言う情報伝達の規則事項であり、新聞の記事だけでなく小説の世界でおいても物語の状況を解説するために必要な鉄則であり、小説の難しい部分はここにある。

 

 漫画の場合は絵の一コマで上の5H1Wを説明出来るが、小説の場合は長々と語らなければならない。


 例えば学校に登校するシーンの場合、「朝、ボクは学校に通うために制服を着て同じ制服を着た生徒達に混じり、まだ早朝のためにシャッターが降りている店が建ち並ぶ通学路を歩いている――」と言う感じになる。


 これを上手いこと分かり易く頭に入るように説明するのがラノベ作家の腕の見せどころである。


「確かに5H1Wも重要だけど、そう言うのは大体ネットとかハウツー本で語られていると思うから、もっと単純で別の事を教えるね」


「例えば?」


 新塚さんは尋ねた。


「物語に登場させる人物の最低限の人数と要素だ」


「え、それって・・・・・・」


 獅子堂さんは困惑したように聞いてきた。


「ラノベの定義は人によって違うけど、大体主人公とヒロイン。これだけでも物語を作る事は出来る。ヒロインを悪役に置き換えてもいい。人によっては主人公だけで物語を産み出せるだろう」


「成る程――ですがあまりにも登場人物を絞っては面白い話は書けないのではありませんか?」


「新塚さんの言う通りだけど、やはり必要最低限の人数と言うのは決まっているんだ。特に賞を本気で取ろうと言うなら尚更だ。だからこう言うキャラクターがいたら面白いんじゃないかな? と考えて設定とか色々と書き出していって――それで物語に合わせて省いていくんだ」


 その前に舞台設定なども重要になるのだがそこは今回は触れないでおく。


「それで、登場キャラはどれぐらいが限界だと思いますか?」


 獅子堂さんが最もな意見を投げ掛ける。


「難しい話だね。だけど腕に自信がなかったら少ないに超した事はない――異能バトル物だと愛塚さんが書いた短編作品みたいに主人公やサブキャラ、ヒロイン、敵役などを含めて五、六人程度に留めた方が良い。この五、六人のラインは絶対じゃないけど、ヒロインや敵役――とにかく活躍させたいキャラの数で難易度はあがると思った方が良い」


「それ経験あります・・・・・・」


 と、獅子堂さんは項垂れた。


「まあ、ともかく面白さとか度外視するなら一人だけでも物語は成立する。だけど連載――例えばWEB連載とかになるとやっぱりどうしても登場人物は必要になるね。だけど、一度に登場人物――ここで言う登場人物は名前や外見描写があるキャラだと思ってくれていい。それが一気に出ると読者は混乱する。そう言う意味でもなるべく登場キャラは少ない方がいいんだ」


「やけに拘りますわね」


 愛塚さんの言う通り拘りもする。


「ラノベ作りは沢山重要な事はあるけど、中でも最も重要なのは主人公とヒロインだ。それをアイドルの様にプロデュースして売り出す事も重要になってくるんだ。そのための尺も必要になってくる」


「ふむ・・・・・・私の作品はその辺りも弱かったと?」


「うん。出来るなら名前を出さなくても特徴や能力で分かる主人公やヒロインが好ましい。イラストだとシルエットで誰か判別出来るレベルがいいかな。突き詰めて言うとラノベと言うのはキャラクター達の活躍を文章で読者を惹き付ける媒体なんだよ」


 そこが普通の小説とラノベの違いだろう。

 よくラノベは「小説の出来損ない」とか「文章力が小説に大幅に劣る」とか馬鹿にされるが、それはラノベに求めている物とは違うといわざるおえないだろう。 


 ぶっちゃけ地文よりもキャラクターが重要なのだ。

 だからと言って地分を蔑ろにしてもいいわけではないが・・・・・・



 Side 獅子堂 レオナ


 レオナはカリンと一緒に帰り道――ではなく、ネタの収拾のためにオタロード近辺を歩いていた。

 オタロードに出向けばアニメショップもあり、そこに立ち入れば今はどう言うのが流行なのか一目瞭然であるため、作家志望者としてはとても助かる。


「批判するだけでなく、ちゃんとしたアドバイスもくれる。中々面倒見の良い先生ですわね」


 カリンはそう言いながらアニメショップの一つに立ち入り本などを見て回る。

 平日の夕方に差し掛かろうと言うのに人が多くいる。

 流石は大都会のオタク街と言うべきか。


 レオナも本を物色しながら「うん。それは確かね」と答えた。


 彼はうだつのあがらないラノベ作家ではあるが、言ってる事は確かだ。

 同時にプロの世界の厳しさと言うのを理解させられる。


「あの、カリンさんはどうしてラノベ作家を目指そうと?」


「私昔はラノベを馬鹿にしてた口なんですけど、まあ色々とありましてね。興味を持って踏み込んだら今の世界に~と言う感じですの」


「へえ・・・・・・」


 そんな経歴があったとは知らなかった。


「そうそう、あの赤松 リョウヤさんとはどう言う関係なのですか?」


「どう言う関係って・・・・・・ただ小説見て貰っているだけですけど」


「本当にそれだけですの?」


 この人は何を言いたいのだろう?

 まさか付き合っているとかそう言う風に思われてるのだろうか?


「私と先生とはそんな仲じゃ・・・・・・大体大人と高校生よ!?」


「違うと言うのならそんな風にてんぱらなくともよろしいのに・・・・・・」


 確かに彼女の言う通りだ。

 おちつこう。

 おちつけ私。


「話題を変えましょうか? どんな作品を雑誌に投稿するおつもりで?」


「そうね・・・・・・ファンタジー物はやめとけって言われてるし・・・・・・少なくともそれ以外かな?」


 ファンタジー物は作者の素の実力が試される困難なジャンルらしい。

 どうしても書きたい以外は止めといた方がいいと釘を刺された。


「私はちょっと考えが変わりましたわ。特に上手い物語の盗み方のお話で色々と考える部分が出て来まして」


「上手い物語の盗み方かぁ・・・・・・」


 先日私が言った事だ。

 確かに先生の例は原型が残らないぐらいに上手く盗んでたと思う。

 

「ええ。例えばの話、海賊王を目指すゴム人間の少年のお話も上手く盗めば――伝説のお宝を目指して宇宙を掛け巡る海賊のお話とかにも出来るわけですよね」


「うん。カリンさんも上手く盗めてると思う。それその場で考えたの?」


「ええ、即興ですよ?」

 

 カリンも凄いがこのテクニックは本当に凄いと思う。

 漫画やラノベの専門学校とかでも教えてるんだろうか?

 とにかく物語作りの基礎テクニックとして紹介したいぐらいだ。

 これを最初に考案した人は本当に偉大な人物だと思う。


(本当に頑張らないと・・・・・・)


 プロになるのは厳しい。

 だけどプロで居続けるのはもっと厳しい。


 自分はそう言う世界に挑戦しようとしているのだ。

 もっともっと沢山勉強しなければならないだろう。


 そのためにも頑張ろうとレオナは思った。

 

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