クソアニメとその原作のお話


 関西、大阪のオタク街。

 日本橋。

 主にでんでんタウンやオタロードを含めた周辺を指す。

 

 笑いの殿堂グランド花月、ランドマークがある新世界、人で賑わう南海なんば駅周辺や難波パークス。 


 豊富なサブカルショップだけでなく、飲食店などもそれなりに豊富なども特徴だ。

 

 その日本橋から少しだけ離れ、雑居ビルの一フロアを使っている名店「ストレンジ」

 

 入り口から離れた隅の方の席で赤松 リョウヤは今日もPCで創作活動をしていた。

 

 赤松 リョウヤはうだつのあがらない兼業ラノベ作家である。

 打ち切りして新作のプロットを練っている最中だ。


 その傍らで自分に持ち込みするラノベ作家志望者の作品見たり、昨今のWEB小説とかヒット作品とかをチェックしたりしている。


「うーん・・・・・・」


 赤松 リョウヤは考え込んでいた。

 以前、クソ小説と貶した作品を熟読していた。

 こうして読んでいるウチに「本当はこれクソ小説じゃなくね?」と思ってきていた。


「なに読んでるんですか先生」


 ふと、赤いツーサイドアップのヘアースタイルで強気そうな瞳の目鼻整った顔立ちの歳不相応なグラマラスな容姿をした――外見だけならアイドルでも普通にやっていけそうな美少女女学生が現れた。

 

 名前を獅子堂 レオナ。

 赤松 リョウヤに小説の持ち込みをしてくる少女だ。

 

 ついでにこのメイド喫茶「ストレンジ」で働いている。

 メイド服ではなく、学生服であるのを見ると学校終わってスグ来た感じだろう。

 ストレンジでのバイトも今日は非番と思われる。 

 

 そんな彼女が「なに読んでるの?」と言われたのでこう返した。


「クソ小説と言われてるWEB小説」


「よ、読んで面白いんですか?」


「そうだな――ちょっとその辺語る前にある話をしようか」


 そう言って獅子堂 レオナを見る。

 体――特に胸が色々と目に毒なのでなるべく顔を見るようにした。

 

 女性と言うのは些細な事に敏感だ。

 自分の職場でも男の体の変化を見てたいして見掛けは変わらない筈なのに「痩せたわね」とか言うぐらい。


「ちょっと前に――大体君が初めて自分に小説を持ち込んだ時期にある作品のアニメの話題をした事があるんだ。そのアニメはクソアニメ、クソ小説とボロクソ叩かれていて、そのくせ円盤の売り上げはいいとか言われて――俺も正直嫉妬してたよ」


「で? その作品を見てるんですか?」


「うん。アニメを見た時の不快さは感じないんだ――情けない話だけど、嫉妬していたんだろうな。どうしてこんなクソ作品が円盤の売り上げもいいんだってな・・・・・・んでふと思ったんだ。小説はどうなんだろうかって・・・・・・早い話が原作の小説読まずに評価下してたって事なのさ」


「普通――アニメが面白くないんなら小説も面白くないんじゃ?」


 リョウヤは首を横に振った。


「いや、よくよく考えれば自分の評価が早計過ぎたんだ。アニメは面白くない、漫画やラノベなど原作の方が面白い作品とかは沢山あるんだ」


「私――実はと言うと、あんまりアニメとか漫画とかに詳しい方じゃなくて・・・・・・その辺よく分からないんですけど・・・・・・原作が面白いからアニメ化するわけで・・・・・・とにかく、面白くなきゃダメなんですよね?」


「だけどクソアニメがどうしても産まれる。これは事実だ」


「あの、その辺詳しく教えてくれませんか?」


 今の子達は全員そうなのか、アニメ業界についてはあまり詳しくないようだった。


「そうだな。まず今のアニメ業界だけど正直火の車の様な財政状態になっている。にも関わらず数打ちゃ当たる感覚でアニメ化するからな。深夜アニメはその影響がダイレクトに受ける。つまりアニメ事態の質が低下するのは当然の事なんだ」


「い、今そんな風になってるんですか?」


「有名な話だよこれ? ちなみにラノベのアニメ化が多いのはWEB小説の書籍化と理由は同じである程度の売り上げみたいなのが期待出来るからさ。それに企画会議とかも円滑に進むからね」


「企画会議?」


「漫画とかもそうだけどプロの作品と言うのは一人で作るわけじゃないからね。ラノベの場合だと、イラストレーターとかの打ち合わせとか、発売スケジュールとかの管理とかもあるから――人気タイトルの新刊が発売されるのが数ヶ月以上とかになるのはこの辺りが関係しているんだ」


「そ、そうなの?」


「うん。とある作品は毎月新刊出してたけど、それは特例だね。三ヶ月に一冊ペースでも異常で正直人間じゃない。年に二、三巻出ても早いって言われるペースだよ」


「そ、そうなんだ・・・・・・」

 

 この辺りはラノベ業界を題材にしたラノベとかを読んでいれば分かる知識である。

 より深く解説すると、一つの出版社が一月に出版できるタイトルは限られており、それは数ヶ月先まで事前に決められていたりするのだ。


「さて、話戻すけど――今クソアニメと呼ばれた作品の原作を見ていると言ったね」


「うん。面白いんですか?」


「意外な事にね。少なくともクソ小説ではないね」


「面白いのと面白く無いのと見分け方とかあるんですか?」

 

 何か地雷に踏み込んでいくスタイルだなこの子・・・・・・まあいいけど。


「これは経験則だけど、面白い作品って奴はすらすらと読めるし手が止まらなくなる。逆につまらない作品は頭の中に内容が入らなかったり、読むのが苦痛になったり、飛ばし読みし過ぎてどんな内容か全くわからなかったりするんだ――まあ色んな作品読んでいけば分かると思う」


「そ、そうなんですか・・・・・・そ、それで」


「?」


「私の作品はどの部類に?」


 言い難い事を聞いてくるな、おい。

 まあそう言う関係だし、仕方ないと思って正直な事を口にする。


「以前よりかは大分マシになったけど、正直まだ既存の作品の二次創作感が抜け切れてないからその辺が課題かな?」  


「そうですか・・・・・・」

 

 見て分かるぐらいションボリとした。


「だけど、その歳で作品をちゃんと完成させているのは凄いと思う」


「そ、そうでしょうか?」


「うん。そこは誇って良い」


「は、はい」


 急に顔を赤らめて頷く。

 そんなに嬉しかったのだろうか。

 なんか見てるこっちも恥ずかしい。


「で・・・・・・何処まで話たっけ?」

 

 とりあえずリョウヤは話題を戻す事にした。

 だけどその話題を忘れてしまったので、目の前で嬉しそうにしている少女に尋ねる事にした。


「えーとダメなアニメの話だったと思います」


 リョウヤは「そうだな」と返して話を戻した。


「昔はどうだったか知らないけど、正直アニメ化と言うのはリスキーな部分が多い。アニメ業界の惨状についても語ったけど、ラノベをアニメ化するとどうしても避けられない部分があるんだ」


「それは?」


「深夜アニメは大体1クール、十二、三話だ。超人気作品になると二クールで放映される事もある。だけどラノベのアニメ化必ず原作から変更点が加えられると思っていい」


「いわゆるアニメオリジナル展開ですか?」


「まあそれもあるね。週刊連載漫画とかの夕方アニメだと多いけど深夜にやるラノベ原作の一クールのアニメだとそれをやる余裕はほぼ無い。あったとしても「省力の辻褄合わせ」をする場合だ」


「省略の辻褄合わせって・・・・・・実際どんぐらい省力するんですか?」

 

 それを聞かれてリョウヤは色んな作品を思い浮かべる。


「そうだな・・・・・・例えば重要キャラではないサブキャラを省略したり、物語を簡略化したりとか――酷い場合だと小説一巻分の話を二、三話で終わらせてしまった話もある」


「そんなに短く!?」


「別に珍しい話じゃないよ。基本、アニメの第二期・・・・・・続編を作るのは円盤の売り上げで決定してしまうからね。どんなに面白くても円盤の売り上げが悪かったら二期は作らない。クソアニメでも円盤の売り上げが良かったら二期はありえる。そう言う業界なんだよ」


「ああ、成る程――だからクソアニメとかクソ小説どうこうで愚痴ってたんですね・・・・・・」


 同情したような目線で見詰めてくる。

 その視線が痛々しいがリョウヤは小声で「察して貰えて助かる」と返した。


 正直、アニメ化経験したラノベ原作者はぶち切れても良いと思ってる。

 それ程、とあるWEB小説のクソアニメの円盤売り上げは理不尽にリョウヤは感じていた。


「んでまあ暫くたって、そのクソアニメの原作である小説を見てみたんだが意外と面白かったんだ・・・・・・」


「それはアニメ制作会社の責任では?」


「一概にそうとも言えないな・・・・・・そもそも件のWEB小説は色んな層の作品を受け付けているサイトだ。素人の創作者だっている。件のWEB小説の場合、物語の進行と一緒に作者自身も成長していったんだと思うし・・・・・・何よりエタらずに続けているのが凄いと思う」


 彼女は「エタる?」と首を捻ったので「作品の更新がストップするって意味」とリョウヤは答えたら「そう言う意味なのね」と理解した。


「それって凄いの?」


「作者の熱意はそれだけ本物だってことさ。何よりも流行のチート主人公はどうしても物語の展開にメリハリが付けられず、飽きが来てしまうと言う弱点を抱え込んでしまうからね。それに異世界物なら尚更だ」


「異世界物っていけないんですか?」


「WEB小説で書く分には構わないけど雑誌に投稿するのは止めといた方が無難だね。物語のアイディア自体、もう出尽くされてるから。上手く既存の物語を盗むテクニックとかも重要になってくると思う」


「き、既存の物語を盗む?」


「そう。とある漫画家が漫画家アシスタントを題材にした漫画で語ってた方法だね。これを使えば面白い作品の物語を盗む事が出来る」


「た、例えば?」


「そうだな・・・・・・例えばVRMMOの世界に閉じ込められてゲーム上の死は現実でも死、クリアしないと現実世界に戻れないと言うのがあっただろう?」


「うん。私でも知ってる作品ね」


「悪い例は閉じ込められた世界が剣とファンタジー世界から銃とディストピアな世界に変えただけにする事だね。誰でも分かるパクリの例だ」


「では良い例の場合は?」


「正直自分でも自信が無いけど――まず現実世界にダンジョンを出現させて、そのダンジョンを一定期間内にクリアしないと世界が滅亡すると言う風にするんだ」


「え? もう原型なくないですか?」

 

 確かに彼女の言う通り、原型がないかもしれない。

 だけどこれはリョウヤにとって嬉しい評価だ。


「詳しい設定を語る必要はあるけど、一応要素は残ってるよ。まず第一にデスゲームである事も残ってる」


「確かに一定期間内にクリアしないと世界が滅ぶって意味ではデスゲームですよね」


「そう。それに敵もファンタジー系のモンスターばかりで地球の既存の武器ではダメージが通り難いとか、ダンジョン攻略者達は戦えば戦う程強くなっていくとかそう言う設定もある。それに一定期間内にクリアしないと世界は滅亡すると言う設定は物語に緊迫感を与えてくれる」


 嬉しい事を言ってくれたのでついついリョウヤは口調が饒舌になってしまう。


「緊迫感・・・・・・ですか?」


「そう。バトル系の物語を作る上でこの緊迫感と言うのはとても大切で間違えると日常物の平和な物語と変わらなくなってしまうんだ」


「どうしてですか?」


「あまり登場キャラを殺しすぎると、そう言う展開に読者が慣れてしまうからだ。ああ、今度はこいつがくたばったのか・・・・・・みたいに」


「確かに言われて見るとそうですね。短編とかならともかく長期連載になると新鮮さが無くなっていきますもんね」


 彼女の言う通り、キャラクターの死と言うのは諸刃の剣なのである。 


「――さて、話を元に戻そう。例のWEB小説の話だ。あのWEB小説はスラスラと読めた。少なくともクソな作品ではない。だけどアニメのせいで悪い意味で有名となり、その結果自分もその流れになって叩いてしまった。自分もまだまだだね」

 

「だけどネットの情報を鵜呑みにしてしまう人って沢山いますし――」


「まあそれはそうなんだけど、一番許せないのは自分は作家であるにも関わらずそうなってしまった事だよ。いわゆるプロ意識が許せないって奴かな? ともかくネットの評価ってのは真に受けるのはよくなって話だね」


「大変なんですね・・・・・・」


「さて、長話してしまったね。今日も相談かい?」


「ええ。ストーリーについてなんですけど・・・・・・けど、今迄話してくれた内容とても参考になりました。その辺を整理した上で相談したいです」


「そ、そう?」


「では先ず――」


 こうしてリョウヤは何時も通りに彼女の作品制作の手伝いをする事に――

 

「そろそろ注文お伺いしてもいいかな?」


 中性的な声の可愛らしい長い金髪の男の娘メイド、鳴海 マコトがヒョッコリと現れて俺と獅子堂さんはビックリした。


 どうやら話の区切りがつくまでずっと待っていたらしい。

 取り合えずリョウヤも獅子堂さんもドリンクをオーダーしておいた。


 END

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