第3話 『私』
『私』
欲しいものなんてなかった。
物欲は少ない方なんだと思う。特に欲張ることもなく最低限でいいと思っていた。私にとって何かを欲しがることは美しくなかった。私は美しさとは何かについて考えていた。生まれ持った潜在値は可もなく不可もなく、特に気にすることもなかった。だが、ある時のことだった。高校時代の友達が一緒に韓国に行って整形をしないかと持ちかけて来た。私の持論では欲に従うことは美しくはなかった。しかし、美しくなるための資金であればいいのではないかと思い始めた。今まで我慢してきたし…。私はそう思い、その友達と一緒に韓国に行った。整形は当然初めてだった。事前に調べた金額では二重にするのに大体180万ウォンした。日本円で約18万円程。なかなかするなと思っていたが、今まで我慢してきたと思えばなんてことはなかった。韓国の美容外科クリニックに到着すると友達と別室で手術することになり、しばらく別れることになった。お互い顔わからなくなるかもね、そう冗談を言って別々の部屋に入っていった。私は突如不安になった。友達は韓国語が喋られていた。私はというとそうではない。私は拙い英語で対応するしかなかった。しっかり伝わっているか不安だった。自分の顔のことだ、不安にならない方がおかしい。青いペンで私の顔に線がひかれていった。これから顔を切るのか、私は当初二重だけのつもりだったが顎のラインも治すことにした。今まで我慢してきたならこのくらいの出費は大したことがないと思った。麻酔を打ち、私は眠りについた。目が覚めたら私は私じゃなくなってるのだろう。そう思うと楽しみと不安が入り混じった変な感情になった。眼が覚めると私は包帯を巻いていた。しばらくして包帯を取るとシュッとした二重の私がいた。私は嬉しかった。よかった!成功だ!金額は相当だが、それくらいの価値はあった。そもそも美しくなる1番の近道なのかもしれないとさえ思った。そういえば友達はどこへ行ったのだろう、まだ連絡がつかないでいた。クリニックの事務の人に拙い英語で一緒にいた日本人は今どこにいるかと尋ねた。事務の人はまだ手術中と言っていた。私はずっとこの場にいるのも恥ずかしかったので外に出た。外に出たら出たでクリニックには引き返せなくなっていた。外でぶらぶらしようかな。しかし、外国で1人になっていることに気づき不安になった。だがそれと同時に、今の私は私でないのだと思い始めた。今の私は顔が変わった。美しくなった、そう、私は美しくなったのだ。今ならなんでもできる気がした。私は強気だった。私は外貨両替を出来るだけした。今の私の身の丈に合うものがとにかく欲しかった。今身につけているものではしょぼすぎた。高級店に入り直感で服を買いあさった。今まで我慢したのだ。今日全財産を使い切ってもいいと思った。買い物がおわり、電話が鳴った。友達からだった。近くの駅前にいるらしい。今すぐ向かうよと告げて電話を切った。駅前に移動中、化粧品店のガラス張りに自分の姿が映った。これは誰だ…
『日常の謎』短編集 ホリセイ @horisei
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