第2話 『声』
『声』
誰かの笑い声が聞こえた。
誰の声かはわからないが性別は男だとわかった。独特な低い声質だった。真夜中の路上に響いたその声は私をイラつかせた。酔っ払ってでもいるのか周りの迷惑も考えない大きな笑い声だった。どうしてそんなことができるのか、あげく歌い出したらもうどうしようもない。耳を塞ぎこむ私を見て、君は肩をポンと叩いた。怖かったんだと思う。でも君が肩を叩いたことで1人ではないのだと気づき心が落ち着いた。落ち着いたついでに言葉がこぼれた。
「ほんと迷惑!きらい!」
私の言葉に君は「まぁまぁ」となだめてくれた。なんていいやつなんだ。君のそういうところが好きなのかもしれないと私は思った。私は彼のことが好きだった。付き合ってはいないが帰りはほとんど一緒に帰る。なんとなくそろそろ付き合う頃合いなのかなと妄想もしたりもした。でも、特に進展もなく、そのなんとなくが続いていた。そろそろ次のステップに行きたいけど自分から言うのは恥ずかしい。彼の言葉を待ちたかった。私にはそれくらいの自信もあった。いつもの帰り道、とある駅で私は彼とお別れをする。
「じゃあね、また!」
私がそういうと彼は両手を上げて手を振る。
なんてあざといやつなんだ。でもそういうところも好きだった。
夜一人で帰るのは少し怖かった。だからお守りがわりに携帯を常に持っている。何かあったら110番、そう心がけていた。もし、110番を使う時が来たら彼に電話をするのもありかな、そう妄想をしていると聞いたことのある笑い声が聞こえた。独特な低い声だった。突然怖くなった。今は肩を叩いてくれる彼もいない。家まで走って帰りたかったが足がすくんでいた。あぁどうしよう。助けて。かといって110番に電話をかけるのも筋違いなのはわかっていた。そうだ、彼に電話をしよう!それしかない!私は彼に電話をかけた。その時前から何人かの男が近づいて来ていた。
「本当にヤっちゃっていいんすか?」
あの笑い方の声質の男だった。
「うん、もちろん。」
聞き覚えのあるその男はそう言って携帯を耳に近づけた。
「もしもし」
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