ウサギ上司vs私
水分活性
第1話
〜♪
目覚まし音が私を起こした。
一人暮らしも5年目に入り、慣れたもんである。
出勤の準備をいつも通り済まし、玄関の扉を開けた。
ボフッ
突然、毛足の長いちょっと硬めのクッションのようなものにぶつかった。
「…???」
一歩後ずさり、ぶつかったものを確かめる。
目の前に胴長でピンクの巨大なウサギがいた。目つき悪っ
切れ長の…ギロッとした人を殺してそうな目で私を睨み、ウサギは立っている。動かない。
「え?嘘でしょ?玄関の扉開かないんだけど!?」
ウサギが突っ立っているせいで扉が開かず、仕事に行けない。
「上司になんて言おう…」そう考えていると、
「おい、ねーちゃん。人参ないか?」
ドスの効いたまるで893な声が聞こえた。
このウサギから発せられたようである。恐い。
「あとな、さっきから扉の角が当たってる。痛い。なんとかしろ。」
そっちがそこにいるのが悪いんじゃないの?とは言えず、玄関の扉を閉める。自然にウサギが見えなくなる。
「おい!ふざけんな!!お前無視か!?人参寄越せっつってんだろ!!!」
「なんとかしろって言うから…そこどいてもらえないと扉開かないんですよ。無視してるわけじゃないです。あと人参ありません。」
「ああん!?俺はここのボスだぞ!!言うことが聞けねーのか!?」
ふと、ウサギの口調が上司に似ていることに気づいた。というか昨日言われた文句そのままだ。人参とかはともかく、横柄な態度と乱暴な言葉はそっくりだ。
だんだんムカついてきた。ウサギのせいで仕事に行けないではないか。そして遅刻したら上司にまた怒られるのだ。自分のミスは棚に上げて私に当たり散らしてくるあの無能な上司から。
「おい!!お前!!!人参ないならどこにあるか知らねーのか?女のくせに気が利かねーな!!」
キムラ課長、その言葉、今世間を騒がせているパワハラとかセクハラとかになりますからね?私が言わないだけで。言ったらどうなるか分からないから恐くて言えないだけで。
って今はキムラ課長じゃない。今の相手はウサギだ。っていうか、なんでこんなでかくて恐いウサギがいるの。これは夢なのか??夢だとしたら現実もそろそろいい時間帯なはず。遅刻してられないから早く覚めてほしい。
「おい〜加藤〜ほんとに人参の場所知らね〜のか〜?言うまでここにいるからな〜?」
今度は下手な猫なで声になった。キモっ
「ちょっと部屋隣の奴とかにさ〜人参ありませんか?って聞いてきたりさ〜してほしいんだけど〜」
あー出たよ。課長もいつもこんな感じでお願いしてくる。断ったら鬼のように怒って機嫌が悪くなって周りに当たり散らす。なんでこんなのが課長になってるんだうちの会社。
「ほら〜?お前、女の色気とか使ってさ〜?イケるイケる!ほら!行ってきな!」
もう聞きたくもない。黙ってほしい。
これ夢だろうしウサギだし断っても平気だろ。って事で
「嫌です。い・や・で・す!!!!!人参くらい自分で探しに行ったらどうですか?私は会社に行きたいので、そろそろそこどいでいただかないと困ります!!!どいてください。」
言った。
よし。現実じゃ無理だけど夢でなら言えた。よし。
お?ウサギの毛が逆立ってる。恐いけど、夢だし。どうせならウサギめがけて天からお湯とか降ってこないかな。お望みの人参がドッサリとかでもいいけど。
と思ったら、本当に大量の人参+お湯が降ってきた。ちょ、玄関!!そこ玄関!!邪魔!!!
「待って待って!!それなら移動して!!降ってくるなら移動!!えーっとそこの公園!!」
言った瞬間、ウサギ課長と人参とお湯が公園に瞬間移動し、公園からは
「あ゛ぢー!!!!!!」
という絶叫?断末魔?が聞こえた。これは…面白い。ちょっとじゃなく、とてもいい気味だ。なんでウサギなのかはさて置き、私の中であのウサギは課長になっている。その課長の慌てふためく姿なんて…見たいじゃないか!!!
ウキッウキで扉を開けた。
途端、何故か持っていた書類が風で舞い散り、パラパラと落ちる紙を見ていたら、目が覚めた。
現実世界は、目覚ましが鳴る5分前。
扉を開ける時、ちょっと確認したけど何もいなかった。公園をわざと抜けて出社した。もちろん公園にもウサギはいなかった。
「なーんだ」と思いながら、ちょっとスッキリした朝だった。
※ちなみに課長は手と足に謎の火傷を負っていた。笑
ウサギ上司vs私 水分活性 @nagare_4696
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます