第21話 皆の知っている宇治村先生と俺の知っている宇治姉

「……眠い。」


 現在、早朝七時に学校の図書室にいる。周りを見渡しても俺以外の人物は……。


「黙っていなさい。」


 いるのである。

 そして、これが俺と青森が今日会って初めての会話である。


「お前、挨拶には返事を返さないのにこういうときは早いのな。」


「あら?貴方の挨拶は睨み付けて、『なんだ来たのか』と言う挨拶なのかしら?」


 ちゃんとその後に言ったぞ、おはようって。……小さな声で。


「と、言うか。何で俺たちだけここにいるんだよ?岬さんはどうしたんだよ。原因の岬さんは?」


「………はぁ、何も知らないのね?そもそも今日の集合時間を知っているのかしら?」


 集合時間、宇治姉は確か七時に図書室っていってたはずだけど?


「学校の図書室に8時に集合のはずよ?宇治村先生に聞いてないのかしら?それとも三歩歩いたら忘れたの?」


「俺は鶏じゃないし、宇治村先生には七時に集合って言われたぞ!?」


 あのバカ姉はまともに連絡も伝えられないのか?

 従姉ながら残念だぞ、俺は。


「誰が残念だって?」


「う、宇治姉!?」


 後ろに振り向くと宇治姉が何らかのプリントの束を持って立っていた。

 いや、その前に何で俺の考えてることがわかるんだよ?


「まぁ、この事は後にするとして。お前達に先に集まってもらったのはこれを早めに始めていて欲しいからだ。」


 そう言って手に持っていたプリントを机に置いた。


「……これは?」


「各部活の部費予算なのだが少しばかり手伝って欲しいんだ。」


 プリントには数字が無数に書かれたプリントと枠組みだけが書かれたプリントの二つが並べられた。


「……普通、それって生徒会とかがやるんじゃねえのか?」


「普通はな。だがな、現在の生徒会の人数を知っているか?」


「六人じゃねえの?」


 生徒会長に副会長が一人ずつ、書記が二人に会計、会計監査が一人づつだよな?


「普通ならな。だけど……」


「生徒会長……のせいですか?」


 宇治姉は溜め息をつきながら頷いた。


「ああ、そうだ。副会長と書記一名、会計と会計監査が辞めてしまったんだよ。」


「それぐらい止めれば良いじゃねぇかよ?」


「それが出来ないから困ってるんだよ。辞めたやつからが何て言ったか知ってるか?」


 俺と青森、首を横にふりあまりにも宇治姉の顔が真剣だったため息を飲んだ。


「辞めたやつらはな『あの人と仕事をするくらいなら学校を辞めてやる』っていたんだぞ?そんなこと言われたら止めるに止められないだろ?」


 その生徒会長ってどんだけすごいんだよ?生徒に一緒に仕事をするくらいなら学校を辞めてやるっていわれるって。


「まぁ、今生徒会は二人しかいないんだよ。だから今日は少し四人に手伝って貰いたいから呼んだんだよ。」


「……俺、帰るわ。」


「そう、私も帰ろうと思っていたところよ?」


「ちょ、ちょっとまて、待て!何でそうなるんだよ?」


 何でってそんなの決まってるよな?俺が帰る理由なんて一つだけだろ?


「働きたくない。」


「ド直球だな、おい!」


「私はそんな理由ではないけれどそれでも私がやる必要性があまりないような気がします。」


 ちょっと青森さんは何でいつも俺の意見を否定するのかな?そんなに俺のことがスキナノカナ?


「……まぁ、青森は良いが。萩本、それにそこにいる岬はこれをやってもらわないと困る。」


 宇治姉は振り返り図書室のドアを開けた。

 そこには岬さんと西浦が後ろ向きに歩き立ち去ろうとしていた。


「な、何でいることが。」


「女の勘だ。」


 勘だけじゃ普通は気づかねぇよ。やっぱ、宇治姉は超能力者か何かかな?


「お前ら二人は前回の件で私達教師から大なり小なりあるだろうが信頼を失った。その意味がわかるか?」


「だからってこの仕事をする意味があるのか?そもそも俺は元々その信頼がないんですけど?」


「「「確かに!」」」


 よしお前ら、西浦を除いて全員表出ろ一発づつ殴ってやる。


「それは置いといて、岬と萩本に関しては必ずこれをやってもらうぞ。反論、抗議など一切を受け付けない。」


「………人生何かに立ち向かうことは必要です。」


「萩本君、急にどうしたの?変な口調になってるし何言ってるかわからないよ?」


 岬さん、君にも今からこの言葉の意味がわかるはずだ。


「………人生において立ち向かうことは必要だ、しかし!こんな言葉を知っているか!逃げるが勝ち!」


 俺は言葉を放つと同時に鞄をもって全力疾走で図書室のドアから飛び出た。

 はずだったのだが。


「グヘ!」


 飛び出た瞬間何かに躓き思いっきり頭から転んだ。


「ッタ!何に躓いたんだ!?」


 振り向いたそこには一人の小柄な少女が立っていた。


「おお、来てたのか!」


「全く、宇治村先生が呼んだのであろう?……と、それにしても廊下を走ろうとするとはお前は誰だ?」


 こ、この少女は何だ?どう見ても中学生にしか見えないのにうちの制服着てるし、宇治姉のことも知ってる。


「……宇治姉の子かな?」


「おい、私はまだ二十二だし彼氏すらいないんだぞ。」


「「「「「「知ってる。」」」」」


 そこにいた全員が声を揃えて同じ言葉をはっした。


「お前ら!揃いも揃って私をバカにしてるのか!泣くぞ、このバカ野郎!」


「……はぁ、それで先生は何がしたかったのだ?」


「ソレデデスマサレタ、ワタシッテイッタイ?」


 宇治姉……皆からこんな扱いされてたんだな。まぁ、可愛そうとは思わないけどね。


「………萩本、岬、お前らにこれから話す内容に拒否権はない。」


「「は?」」


「因みに拒否をした場合お前らの成績は……どうなるかわかるよな?」


 いや、内容も言われてないのに拒否権がないだとか成績がなんだとか意味がわからないんですけど?


「お前らは………生徒会に入ってもらう」


「「…………………はい?」」

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