第20話 妹と姉と兄
「………何か言いたい事はあるか?」
現在、妹の病室にて西浦姉と妹が申し訳なさそうな表情をして正座している。
「え、えっと、アハ!」
妹とよ、お兄ちゃんはそんな笑顔じゃ絶対に騙されないぞ?絶対に………いや、多分。
「話始めたら段々楽しくなってきて気づけば……」
西浦姉がチラッと時計の方を確認した。確認した時計は十六時を指していた。
「で?俺を十三時から十六時の約三時間待たせたとそう言いたいわけか。」
「「………はい。」」
「はぁ、もういいよ。と言うか、西浦姉はそろそろ帰らなきゃじゃねぇのか?」
「あ!ホントだ、そろそろ帰るわ。」
そう言って西浦姉は鞄を持って立ち上がり妹方を向くとヒソヒソと妹と何かを話していた。
「おい、何ヒソヒソ話してんだ?」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
………解せぬ!何で俺が妹にここまで言われなきゃいけないんだ!こんなに妹に尽くしてる良いお兄ちゃんなのに!
「…………うん。それじゃ私いくね。またね、凛」
「はい!また来てくださいね、里美さん!と、お兄ちゃん!里美さんを駅までお送りしてあげて!」
お兄ちゃんはボディーガードですか?
お!今のタイトルみたいだな……って一人で何言ってんだろ?
「……いや、私は一人で帰れるよ。」
「いえいえ!こんな愚兄はこんなことしか出来ないのでどうぞ、お使いになってください!」
「……ちょっと~お兄ちゃん道具じゃないんだけど。」
と、いった瞬間妹の方を見ると……なんと言うか凄い眼光で此方を見つめてきていた。
そう、まるで……「早く行けよ」とでも言いたげな眼差しだった。
「……わかったよ、さっさと行くぞ。」
「え、あ、わかった!?じゃ、じゃあ、またね、凛!」
西浦姉は手を振りながら妹の病室から出た。それに続き俺も病室を出て西浦姉の一歩後ろをついていった。
……………………………………………………
「………今日はありがとう。」
駅の方に向かい大通りをぬけ住宅街にはいるといきなり西浦姉が突然お礼を言ってきた。
「何に対してだよ?」
「色々とよ。妹に会わしてくれたこととか、その間、いなくなっていてくれたこととか。」
感謝されることじゃないと思いますけど。それにそのお礼を言う相手は俺じゃなくて妹だと思うんですけどね。
「ねぇ、そう言えばさ、今日会ったときにあんたが聞いたじゃんか……私が何で東京にいるのかを。」
「………ああ。」
「その理由なんだけどさ……私、声優業を辞めようと思って事務所の方に話にいってたんだよ。」
わかっていた気がする。いや、正確には田島さんと話終えた後に気づいた。
「……あんまり驚かないだね。」
「まぁ……な。」
「そっか、まぁこれでまた……一つ逃げちまったな!」
西浦姉はそう言うと両手を高く振り上げて背筋を伸ばした。
「………何でやめることにしたんだよ。」
「……簡単だよ。向いてなかった。現実、やりたいことと向いてることは全然違う事が多くいるはずだし、私に声優は向いてなかった。」
「ただ、それだけ」と言って西浦姉どこか遠くを見据えるているように空を見上げていた。
「…だからさ、私はあんたの妹の凛と話せてようやく決心がついた!これで私は逃げられるよ!」
西浦姉の横顔は少し悲しそうにしかし、どこか吹っ切れた表情をしていた。
「……お前のは逃げじゃねぇよ。それは逃げなんて言わない。」
そうだ、こいつのしていることは逃げなんてものじゃない。こいつのしてるのは……。
「お前のは現実を向いたって言うんだよ。逃げなんてものじゃない、勿論立ち向かう事や挑戦するなんてことでもない。」
「……じゃあ何だよ。」
「だから、現実を向いた、それだけだよ。お前は現実から目をそらしていない、だからこそお前には自分の事がよく自分でわかるだろ?」
世の中、結局現実を見れたやつが生きていける。成功する人や、偉業をなす者達は現実を見たからこそ、それを否定しようとして何かをなすのだ。
「……お前を今逃げたなんて言うやつはいないよ。もし、そんなことを言うやつがいるのならそいつこそ逃げてるやつだよ。」
「そっか、そっか。……重ねがけで悪いけどありがとう。やっぱりあんた達と話せてよかった。」
そう言うと西浦姉は振り返り笑顔を此方向けてきた。
「本当にありがとう!」
純粋に、全く裏表のないお礼……そんな言葉を聞いたのはいつぶりだろうか?俺が少なくとも覚えてない位前のことだと思う。
「俺はなにもしてねぇよ。」
「それでもだよ!と、そろそろ駅だからここまでで良いわ!」
そう言うと西浦姉は一度止まり此方にもう一度振り向いて一言だけ不適な笑みで何かを言った。
「………それじゃな、先輩!」
「……先輩って?」
しかし、その問いに答えが返ってくることはなかった。
「また、凛に会いに来るわ!よろしく伝えてくれ!」
そう言って西浦姉は駅の方に走り去っていった。
「先輩ってどういう意味だよ?」
西浦姉の後ろ姿が消えるまで、さっきの疑問と西浦姉の問題が解決したことの安心感が混ざりあって頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。
そして西浦姉がさっき言った言葉の意味を知るのは当分先のことである。
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