第17話 64て面白いよね!

 現在俺は何故か西浦の姉と西浦の家のリビングで64をやっている。


「何でだぁぁぁ!!何で勝てないのよ!」


「………何でこうなった?」


 数十分前のことである………。


「こ、これは64じゃないか………。」


「え、うん。それ僕が買ったやつだよ。もしかしてやりたいの?」


 64か、前は持ってたんだけどやっぱり壊れちゃうんだよな~一、二年放置するとどうしても。


「あ、ああ。やらせてもらえるのなら。」


「いいよ、やっても別に?」


「……なぁ、青森、岬さん。俺ちょっとこれやってて良いか?」


 俺が訪ねるように青森と岬さんに頼むと青森は呆れたようにため息をついた。


「はぁ、貴方はどうしてこう……」


「あ、あはは。」


「いいわ、貴方は勝手にやってなさい。」


 青森から許可が出たので西浦にセットしてもらい、青森達は西浦につれられ西浦の部屋にいった。


「……何やるかな。」


 そう言い西浦に渡されたソフトを見ながら呟いていると後ろのドアが開いた。

 ん?西浦達が戻ってきたのか?


「……あんた何してんの?」


「………64。」


そこには西浦の姉がたっていた。


「へぇ~ひとん家で勝手にゲームやるなんて良い度胸してんじゃない。」


 いや、許可取ったからね。後受話器とらないでね。


「おい、待て!何で受話器取ってんの?」


「警察に電話しようと思って。」


 うん、ちょっと待ってね。警察に電話しようとしないでね。


「西浦に許可取ったからね!」


「私も西浦だ。」


「弟の方に許可取ったんだよ!」


 西浦の姉は受話器を元の位置に戻してこちらに近づいてきた。


「………あんたさ、二鷹の友達なのか?」


 突然西浦の姉は不思議な質問をしてきた。俺はその質問の意図が読めなかったため答えようがなかった。


「……違うのか。」


「まぁ、違うな。けど、青森と岬さんは多分西浦、あ、弟の方な、あいつらはどうやら弟の方と仲良くなりたいみたいだぞ。」


「じゃあ、あんたは何で二鷹と一緒にいるのさ。」


 ……ふぅん。こいつさては弟が心配なんだな。俺も妹がいるからわかるけど確かに兄妹てのは心配だよな。


「俺はボッチだ。あの二人とも西浦弟とも俺は友人じゃない。そもそも友人を作る気にもなれない。」


「私一つ分かったことがあるは。」


 西浦の姉は納得したように一人で頷いた。


「あんたは友人を作る気がないんじゃない、作れないんでしょ?」


「………あながち間違ってない。」


「……私もそうだったから。ねぇ、今からそれやるんでしょ?ならこれやろうよ。」


 西浦の姉は俺の横まで来てソフトをロクヨンにセットした。


「そうだ。ねぇ、ちょっとだけ賭け事しましょう。」


「賭け事?」


「ええ、貴方が勝ったら何でも答えてあげる。けど、負けたら私の質問に答えて。」


 西浦の姉は真剣な眼差しで此方を凝視してきた。


「……ああ、良いぞ。ただし、手加減しないからな。」


「ええ!私だってこの対戦ゲームをやりこんだんだから、負けないわよ。」


 こうして………現在に至る。


「何でよ!私は電気ネズミを使ってんのよ!?何であんたのキャラに負けるのよ」


「こういうゲームに関してはやり込みのさが大きく影響してくる。」


 それにこの某対戦ゲームに関しては上に叩き上げれば勝てる。ほぼ確実に。


「じゃ、質問な。」


「……何よ。」


「お前の年齢」


 正直俺は西浦の件よりも今はこいつの年齢が知りたい。この身長と童顔で二十歳なんて言われたら叫ぶかもしれない。


「……十八よ」


「へぇ、そうなんですね。」


「何で急に敬語になるのよ。」


 だって、二歳も離れてると思わないじゃんか!てっきり一歳上だと思ってた。


「敬語じゃなくて良いわよ。どうせ私は逃げた組だから。」


「……逃げた組?」


「そうよ、私は逃げたのよ。中学のときから友人付き合いが出来なくていつも一人でいた、一人は楽で良いから。」


 西浦の姉はそう言って顔を下に向けた。そしてため息をついて話を続けた。


「でも、途中からいじめられてることに気づいたのよ。ま、確かに私は一人でいたから狙いやすかったんでしょうね。……でも」


 そこで西浦の姉の声は涙声に変わった。多分今顔を見たら涙目になっているのだろう。


「でもさ、私にだって付き合いが出来ない理由があったんだよ。」


「理由?」


「……私が何の職業してるか知ってる?」


 俺は首を横に降る。

 本当は知っているのだが、ここで俺が知っていると言えば何故かこの話が終わってしまいそうな気がした。


「声優よ。ただし、売れない声優だけどね。」


 自虐染みた笑みを浮かべて俺の方に視線を戻した。


「中学の頃から声優になるために事務所探して養成所にかよってそんなことしてたら当然友人付き合い何てしてる暇なんてない。」


「………」


「へへ、笑えば良いさ。言い訳にしかなってないってさ。友人付き合いが出来なかった言い訳を声優業のせいにして……それに高校も行かなかった。」


 静かに俺は西浦の姉の方に体ごと向けた。


「私は逃げたんだよ。友人付き合いからじゃなくて……自分自身から。」


「……はぁ、なんじゃ、そりゃ?なに、逃げた?友人付き合いが出来ない?おまけに自分自身から逃げただ?」


俺は一度ため息をついて再度話を続けた。


「人間、誰しも出来ないことがある。けどな、逃げたちゃだめなんだよ。自分自身からは。」


「………」


「自分を肯定できないやつにそもそも何かが出来るわけないんだよ。だからさ、自分のことを嫌いになるなよ。………て、普通のやつなら言うんだろうな。」


俺がそう言うと西浦の姉は不思議そうに此方を見つめてきた。


「………何で逃げることを否定する。逃げることの何が悪い?そもそも、逃げずに立ち向かう事が挑戦することが全てなのか?」


「けど、周りは逃げる事を否定するじゃない!」


「確かに立ち向かう事や挑戦することを周りは否定しないだろう。何たって挑戦することや立ち向かう事は意義があるからな。」


そう、立ち向かう事や挑戦することは意義がある。


「だけど、そうなら逃げることには意義はないのか?俺は立ち向かう事や挑戦することに意義があると言った……けどな、立ち向かう事は挑戦することはそれは結局現状からの逃げじゃないのか?」


そうだ、結局立ち向かうや挑戦することも逃げなのだ。人間結局何を選ぼうと逃げ何じゃないだろうか。


「つまりだ。結論から言うなら逃げる事を否定した社会が悪い。」


「………」


ふふ、良いこと言ったかもしれない!


「…………」


「……いや、何か反応しろよ。」


はぁ、とため息をついて呆れたような表情をして眉間を押さえた。


「あんたは結局社会が嫌いなだけじゃない。」


「……それりゃ、俺を働かせようとする社会を嫌いになるのは決まってるだろ?」


「決まってるのかよ。ま、あんたの話に共感はしないけど……少しだけ楽になったかな。」


そう言って西浦の姉はコントローラーをテーブルにおき台所の方に歩いていった。


「あんた何か飲む?ま、冷蔵庫に入ってるのは麦茶しかないけどね。」


「それ最初から選ばせる気ないよね?」

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