第16話 姉と弟とそしてボッチ

「ここよ。」


 青森に案内されてついた場所は白い壁の団地だった。

 この場所って……俺のバイト先の近くじゃねぇか。


「萩本君どうしたの?」


 隣に立っていた岬さんが心配そうにこちらの表情を見ていた。


「あ、ああ。ちょ、ちょっとな。」


「………?」


「二人とも早く行きましょ?」


 青森が入り口に向かいながら俺達に声をかけてきた。俺と岬さんも青森に続き団地の中に入っていった。


「確かここよ。」


「お前何で部屋番号まで知ってるんだよ。」


「それは流石に彼に聞いたわよ。」


 そう言って青森は階段の方なら歩いてくる人物の方を指差した。


「………はぁ、本当に来たんだ。」


「約束は守るのよ。私と岬さんはね。」


「……どさくさ紛れて俺を省くのはやめろよな。」


 本当にやめてね。俺そういうのになれてないから!今までの仲間内に入れて貰ったこととかないからそういう省かれる経験とかないから!


「ま、いいや。聞きたいこと聞いたら帰ってよね。」


「勿論よ。」


 西浦は持っていた鞄の中から鍵を取りだしドアを開けた。その前俺たちを玄関に案内してスリッパを用意してもらった。

 それにしても入ってから気づいたが玄関には靴が俺たちのを除いて二足しかなかった。それにもう一つ気になったことがある。


「お前妹がいるのか?」


「ん?僕には姉しかいないけど?」


「じゃあ、あの子は?」


 俺が示した方向に全員の目線がいった。そしてそこにはこの中で一番小さい岬さんの身長よりも低い中学生くらいの少女がいた。


「な、萩本君!!今すぐ謝って!」


「は?どういう意味だよ?」


 西浦がいきなり大声をあげて俺にうったえてきた。俺は意味がわからなく西浦の方に目線を戻した瞬間、先ほど見ていた方向から走り出すような音が聞こえた。


「だ・れ・が・妹じゃぁぁぁ!!!!」


 そう言って怒声を吐きながら走り出した少女は俺の方にドロップキックを決めてきた。


「ヌゴ!!??!???」


「あら、良い感じに決まったじゃない。」


 最後に青森の声だけが聞こえ、そのまま俺は意識を失った。

 ……………………………………………………


「…え…ゃん」


「……し…わる…な…ぞ!!?」


 段々と意識が戻り西浦と知らない少女の声が聞こえ始めた。


「こ、こいつが私のことをチビだからって妹と勘違いしたのが悪いんだよ!」


「姉ちゃんそれでもドロップキックは……。あ!萩本君、大丈夫!?」


 西浦と岬さんが駆け寄って心配そうに確認をしてきた。

 あ、と、何があったんだっけ?思い出せ、思い出すんだ。俺が倒れた………。


「………そこのチビのせいか。」


「なんだと!!誰がチビだ!」


 こいつは元気くんか。と、言うかどうみてもチビなんですが。


「………ちっちゃいよな?」


 俺は確認をとるように西浦の方に目線を向ける。しかし、西浦は答える前に一度姉の顔色を伺い俺の方に目線を戻した瞬間、首ごと横にそらし……。


「……大きいんじゃないかな。」


 と、一言だけ言ってこちらを見ようとしない。


「………何処がだよ。」


 俺は容姿をもう一度確認するため少女の方を向いた。背丈は何度も言うが小さい。例えるなら中学生くらいもしくは、小学六年生位だろう。

 他には髪型は短髪の金髪。顔はまぁ、悪くはない。客観的に言えば可愛いと言えるだろう。

 しかしだ!とある部分だけに関してはどう見ても少女の大きさではない。

 何処とは言わないよ?わかるよね?


「……」


「コロスゾ」


「何でだよ!!!」


 少女はいきなり手を組み合わせ俺から自分を守るような態勢を取った。


「それよりも二鷹何でこんな奴らを家に入れたんだよ?」


「……あ、ああ、ちょっと僕に用があるみたいで。」


「は、なら私の部屋には入れんなよな!!」


 そう言って少女は部屋から出ていった。


「何だ、さっきの少女は。」


「……僕の姉だよ。」


「………マジ?」


 ウッソン!!!!??あのチッこいのが?それにアレは姉と言うよりも妹が兄の友達が来たときとる態度じゃないのか?

 友達が来たときもいたときもないけど。


「で?聞きたいことってなに?」


「そうね、そろそろ本題に入ろうかしら。」


 そう言うと青森と岬さんは一度目配せをして二人で本題にはいった。


「「貴方の部屋を見せて!」」


「「は?」」


「いや、何故貴方が驚いているのかしら?」


 いや、だって俺聞いてなかったし。

 そう思い岬さんの方へ目線をやるとバツのはるそうな表情で苦笑いしていた。


「……岬さん。」


「いや、だって!伝えようとしたけど萩本君のLINE知らないし!」


「昼休みに言えばよかったのでは?」


「うるさい!」


 うるさいって、貴方のミスですよね。俺が怒られるようなことしてませんよね?


「……で、何で僕の部屋を見たいの?君達の事だからてっきり。」


 チラッと姉が出ていったドアを西浦が見た。


「そうね、確かに貴方に彼女の事を聞こうと思っていたわ。」


「じゃあ何で?」


「簡単だよ?私達が西浦に嫌われたくないからだよ!」


 岬さんは笑顔でそう答えた。何の恥ずかしげもなく、そして表裏のない真っ直ぐなその言葉に西浦だけではなく俺も驚いていた。


「………君は真っ直ぐ何だね。」


 西浦がボソッとなにかを呟いていた。何を呟いたのか聞こえることはなかったが……少しだけ西浦の表情が緩んだような気がした。


「ねぇ、西浦君!私はね、もう西浦君が聞くなって言うなら聞かないよ。だからさ、今度は西浦君の事を教えて。」


「…………」


「私は西浦君と……友人になりたい!勿論、嫌だと言うなら無視にとは言わないよ。けどね、今は青森さんと萩本君、そして西浦と四人で仲良くしたいんだ!」


 聞いてるこっちが恥ずかしくなってきた。正直岬さんにはいつも驚かされる。青森との言い合いの時もそうだけど今も岬さんは真っ直ぐ何だと思わせられる。


「……はぁ、岬さん貴方の勝ちだよ。分かったよ。友人になれるかどうか分からないけど、少なくとも僕は君たちを嫌わない。」


 西浦はそう言って笑顔を見せた。

 岬さんは凄いな。本当に西浦と和解するとは。


「で?それよりも僕の部屋をなんで見たいの?」


「ふ、ふ、ふ。よくぞ聞いてくれました!」


 先ほどまでの暗い空気から一変して岬さんのテンションがいきなり上がった。と、言うよりも爆発した。


「男の部屋!しかも声優!つまりゲームも好きだよね!?」


「え、ああ、うん。まぁ好きだけど。」


 西浦は岬さんのテンションについていけないのか少し引き気味な表情をしていた。

 うん、まぁそうなるよね。いきなりそんなテンションをあげられたらついていけないよね。


「じゃ、じゃあ!エロゲーもあるよね!?」


「え、エロゲー!?」


「………青森頼んだ。」


 俺が岬さんの事をどうにかしろと青森の方に目線を向ける。

 青森はそれを見てため息をつきながら岬さんの方に歩いていった。


「え、えっと。」


「岬さんストップよ。西浦君が困っているわ。」


「え?あ、ご、ごめん。ついオタ友が出来るかもと思ったら」


 オタクでもエロゲーを必ずやってる訳じゃないと思うんですが……。いや、確かに俺もやってたけど。


「え、だ、大丈夫だよ。うん、大丈夫、大丈夫なはず。」


 西浦は西浦で一人で意味不明なことを呟いていた。


「……はぁ、前途多難だな。」

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