第9話 ソシャゲから始まる青春ラブコメはどうもおかしい。

 あれから土曜日までほとんどあの二人に付き合わされた。


「あいつらマジで毎日のように放課後、俺のとこに来てゲーセンとかゲームショップとかに付き合わせやがって。」


 現在、とある理由で駅から電車にのり東京に向かっている途中である。最近になって思うが、本当にスイカて使いやすいよな。


 いちいち、切符買う必要もないしもしもスイカのチャージが切れてもに近くのコンビニとかでチャージが出来るから便利だよな。


 そうこうしているうちに電車は止まり東京につく。東京駅から少し歩き目的の場所に移動する。


「……毎度、毎度思うけど。やっぱり東京て暑いな。人がいっぱいいるせいもあるんだろうけど。」


 アスファルトの上は正直五月のはじめの方でも暑い。それに行き交う人たちは足早に俺の隣を通りすぎていく。


 足はぇ~、東京民マジパネェすわ。俺絶対あんな速度で歩けねぇは。


 辺りの人通りを見ながら俺は目的の場所に着いた。そこは……病院だ。


「あ、萩本君じゃない!お~い、こっちこっち!」


 病院の中に入った瞬間、受付の方にいた看護師の女の人が手をふり此方を呼んでくる。


「お早うございます、田島さん。」


 この人はいつもお世話になっている看護師さんの一人だ。


「おはよう!毎週、毎週偉いことで。今日もお見舞いかな。」


「はい、果物とかも買ってきましたし、もしよかったら一緒に食べます?」


「え、いいの!?やった、私もこれから行こうと思ってたし、一緒にいこうか!」


 田島さんは一度、受付の方に入り用事を済ませると此方に足早に戻ってきて歩き出した。


「そう言えば昨日メールをあの子に送ってあげなかったでしょ?」


「き、昨日は色々あって。」


「もしかして彼女かしら?」


 笑みを浮かべながらそんなことを聞いてきた。


「何でそうなるんですか。全く違いますよ。俺にだって用の一つや二つありますよ。」


「また、また。君に用事があるわけないじゃん。」


 この人も大概失礼だな。全く俺の周りはもう少し俺に優しくしてくれてもいいと思うんだけど。


「と、ほら、110号室ついたよ!先に開けて顔を見せてあげなさいよ。」


 そう言って田島さんは俺の後ろに着いた。それを見て俺は病室の扉を開けた。そこにはベットの上で座りながら窓の外を眺めている少女がいた。


「……あ、お兄ちゃん。」


「よ、会いに来たぞ。」


 手を振りながら病室に入る。そう、それがこの病院に来た理由、それは妹に会うためである。


「…………ふん!」


 一度こっちを見たと思えば直ぐ様また首をふり窓の方を向いてしまった。


「何で怒ってるんだよ。」


「お兄ちゃん何てもう知らない!」


 何で怒ってんだよ、真面目に。俺なんかしたっけ?覚えがない。


「凜ちゃん、お兄ちゃんが困っちゃてるよ。」


「田島さん!だってお兄ちゃんが昨日私のメールを無視したんですよ!?信じられないですよ!」


「……お前、そんな事で。」


「妹を無視するなんて兄として最低だよ!」


 妹からの愛が物凄く重いんですけど。


「はぁ、じゃあこの果物類はお預けだな。」


 そう言って妹に見せつけるようにリンゴを取り出した。


「な!そんなのずるい!」


「ズルくないだろ。」


「う、お兄ちゃん、いやお兄様、大好きだから私にその果物ください。」


 こいつ、本当に調子いいよな。


「はぁ、わかったよ。剥いてやるから、少し待ってろ。」


 俺は持ってきた荷物を一度妹の近くまで持っていき、ベットの隣にある棚に衣服などを入れていく。そんな中、暇そうにしていた妹が俺の肩を叩き話してきた。


「……お兄ちゃん、そう言えば最近田島さんが言ってたんだけど。」


「ん、何だ?」


「ちょ、凜ちゃん待った!そ、それは言わない約束じゃ!」


「田島さんこの前彼氏出来たっていってたじゃんか、それ嘘だったよ。」


 妹を押さえつけようとしていた田島さんが足元から崩れていった。


「いらん情報ありがとう。後田島さんが可哀想だからもうやめてやれ。」


 俺は妹の荷物を全部しまい終え、リンゴを取り出して持ってきた荷物から果物ナイフを取り出して剥き始めた。


 そう言えば、今いる部屋は個室で、妹だけしかいない。流石にお金はかなりかかっているらしい。


「なぁ、凜。最近勉強はちゃんとやってるか。」


「当たり前だよ!勉強しとかないと退院後に勉強に着いていけなくなるからね!」


「そうだな、凜は頭がいいから学校に行けるようになれば直ぐに学年トップになれるよ。あ、皿とってくれ。」


 リンゴが剥けたので皿にのせ二人の前に出した。


「美味しい!やっぱり果物ならリンゴだよね!」


「そうね、リンゴは美味しいから!」


 そう言って二人は笑いながらリンゴを食べていた。数分もすると皿からリンゴがなくなり、満足そうに笑顔を向けてきた。


「と、私はそろそろ仕事に戻るわね。」


 田島さんは立ち上がり病室から出ていった。


「ねぇ、お兄ちゃん。最近お母さんはどう?無理してない。」


「ん、ああ、宇治姉もいるしそこまで無理はしてないよ。」


「そっか」と呟きが窓の外を見る。


 ……妹がここの病院に入った理由、それは妹が十代では珍しい癌にかかったためである。


「……にちゃん?お兄ちゃん!」


「ん、ああ、すまん。ちょっと考え事をしてた。」


「もう、こんな可愛い妹がいるんだから私の事だけを考えてればいいんだよ!」


 す、凄いなこいつ。自分で可愛いって言っちゃってるよ。


「そうだ、ちょっとだけ外に出るか?」


「え、いいの!?出る出る!」


 妹は今年の冬に大きな手術をするためこの病院に移動させられた。しかも、十代で癌にかかるのが珍しいため発見が遅れた。


 そのために妹の癌は少し重い。手術の成功確率は五十パーセントくらいだと医師に言われた。


 五十パーセント……正直低い。なのに妹は凜は何でこんなにも明るいのだろう。もしかして自分が死ぬかもしれないと言うことがわかってないのだろうか?


「………はぁ。」


「お兄ちゃん、私の横でため息つかないでよ。私の運まで逃げてくじゃんか!」


「………ごめん。」


 外に出てきた俺たちは病院の中庭に出てきていた。中庭には噴水や木々、見ていて落ち着く風景が見てとれる。


「……お兄ちゃん、そう言えばこの前私がお世話になったてお爺ちゃんがいるっていったじゃんか。」


「確か…お菓子とかくれたお爺さんか?後でお礼をいいにいかなきゃな。」


「ううん。そのお爺ちゃん昨日癌でなくなったんだ。その前の日まで会話を普通にしてたのに……。」


 妹は涙を流しながら俺の腕に顔を当ててきた。


「普通に喋って、普通に笑って、普通に過ごしていた普通の日常が前触れもなく消えてった。私さ…やっぱり怖いよ。」


 死ぬかもしれないと言うことがわかってないのだろうか、違う。妹はわかってるんだ、自分が死ぬかもしれないことを。


「そうか……。怖いよな、恐ろしいよな、俺がわかるなんて簡単なことは言えないし、言う気もない。けどな、怖かったり、恐ろしかったりしたらちゃんと言え、俺も宇治姉も母さんだってお前の味方だから。」


「うん、うん。ありがとうお兄ちゃん。」


 一時間くらい中庭で過ごし、その後妹の手を取りながら病室に戻った。


「今日は帰るんだっけ?泊まってけばいいのに~。」


「今日はこの後母さんが来るからそれまで辛抱しろ。」


 チェと、妹がふて腐れそっぽを向く。


「じゃあ帰るけど、看護師さん達に迷惑をかけちゃダメだぞ。」


「……分かってるよ!」


「そっか、じゃあまた来週な。」


「お兄ちゃん!」


 病室の扉を開けようとしたとき妹に呼ばれ振り向く。


「お兄ちゃんも頑張ってね!勉強とか、家の事とか、青春ラブコメとか!」


「最後のはラノベの読みすぎだ。」


「お兄ちゃんがラノベばっかりすすめてくるからだよ!それに最近お兄ちゃんが青春してると噂を聞いたから気になって!」


 そんな噂を誰がながしたんだよ。……宇治姉だな。


「頑張ってね!お兄ちゃんの青春ラブコメに幸福を!」


 そう言うと妹はベットの方に戻っていった。


 青春ラブコメか。


「もし、俺がラブコメのラノベを書くとしたらタイトルはきっと……」


 ソシャゲから始まる青春ラブコメはどうもおかしい。


 そんなバカなことを考えながら俺は病院を後にした。

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