第7話 信じたものを裏切り、裏切った者を信じる
「……岬さん。」
とても悲しそうな、そして悔しそうなそんな声が屋上から響いていた。
「ハァ、ハァ、やっと着いた。」
ここまで全力疾走してきたからマジで足が痛い!絶対これ、明日筋肉痛になるやつだろ。それにまだ、階段がある。マジ辛い、青森の脅し並みにきつい。
それでも行かなければ行けないので階段を駆け上がり屋上のドアを開け、様子を見る。そこには青森と佐藤先輩を守るように岬の姿があった。
お~、やってるよ。と言うか、凄い光景だな。降られた相手に守られてる降られた男の光景なんて人生でそう見るもんじゃないな!ラノベでもやらんぞ、こんなこと。
「……萩本君。」
そんな中青森が期待の眼差しでこちらを見てくる。
「何しに来たの?萩本君も青森さんも……用がないなら帰ってもらえないかな。」
岬はこちらを一瞥すると青森に視線を戻し敵対するように言いはなった。
「そうだな。じゃ、これだけ伝えたら帰るよ。」
「何?」
「………告白の答えは後日にしろ。そうすれば何かが起きるから。」
「は?何いってるの?そんなん信じるわけないじゃん!あの時に見捨てた貴方のことなんて!」
ヒステリックかよ。何、俺ってそんな信用ないわけ?それに見捨てた覚えもなければ、そもそも岬さんに興味も無かったんだけど。
「岬さん、本当に、本当に今回だけは信じてほしい。確かに彼に信用性なんてものは皆無かもしれない、けれど、それでも今回だけは信じてほしいのよ。」
おい!俺にも多少なりと信用性はあるだろ!?今回の件だって少しは負い目を感じたから手伝ってんだぞ?
「ふざけるな、君達が岬さんを裏切ったんだろ!?そんな言いぐさ通るかよ!」
「……なぁ、岬さん?先に俺達の事を疑って裏切ったのはどっちだ?」
「そ、それは………。」
「あんたの方だよな?それなら岬さんが裏切っただのて言うのは違うんじゃないのか?」
「………………」
「それに裏切ったのはお互い様だ。もう、お互い様一度は裏切った仲だ。だとしたら、もう一度だけ信じてもいいんじゃなのか?次は、今度こそは………助けチェやるよ。」
「最後噛んだわね。」
うるさい!俺の決め台詞がァァァァァ!!また、新しい黒歴史を作ってしまった。
「………ぷ、あはははは!な、何で最後で噛んでるの。駄目、笑っちゃう。」
岬さんから笑い声が発せられた。それは先週の時のように岬さん本来の一面だろう。
「で、こ、答えは。」
「何、恥ずかしがってるのよ。ま、恥ずかしかったけど。」
青森さん、一言余計だからね。ホント余計だから。マジで俺帰るよ。帰って布団の中で悶え苦しむよ?
「………わかった。もう、一度見捨てられたし、次また見捨てられてもそこまで多分、心は痛くないから、今回は、今回だけはちゃんと信じる。」
「岬さん、そ、そんな!だってコイツらは岬さんを……」
「先輩、心配ありがとうございます!でも、それでも、私の趣味を最初に認めてくれた二人なんです。後一回くらいなら信じてもいいと思いましたから。」
そういうと岬は青森の前まで行き、手をとり告げた。
「今度は……助けてね。」
「ええ、分かってるわ。」
「……なぁ、ちょっと二人とも先に行っててくれるか?」
青森と岬にそう告げて佐藤先輩に一歩近づく。
「え?でも」
「岬さん、行きましょうか。明日また会えるでしょ?」
そう言って岬を引き連れ青森達は屋上から出ていった。最後にチラッと青森の顔を見たが、凄いこっちの方を睨んでたな。
まさかとは思うけど、俺じゃないよね?先輩の方だよね?………まさか?
「で、な、何のようだい!?」
佐藤先輩が怯えたような声音で此方に話しかけてくる。今の状況から言ったら確かに怯えてもおかしくと思う。知らないやつにいきなり割り込まれて、挙げ句の果てに俺なんかと一緒に残るはめになるんだから。
「………先輩がやったんですよね?」
一瞬、顔が強ばり明後日の方向を向く。その瞬間に一気にたたみかける。
「岬さんの写真、あれを学校のLINEアカウントに張り出したのって先輩ですよね?」
「な、僕はやってない!」
「そうですか、なら何で十八禁コーナーになんていたんですか?」
先輩はさらに表情が強ばり、顔色がどんどん悪くなっていく。多分、今の一言である程度の状況がわかったのだろう。
「……僕は十八禁のコーナーになんて行ってない!決して、駅前のゲームショップなんて行ってない!」
「なら、何でゲームショップてわかったんですか?」
「な、何をいってるんだ!あの写真には確かにエロゲーが載ってたはずだ!」
「そっちじゃないですよ。何で駅前のってわかったんですか?貴方は十八禁コーナーの中に入ったことがないはずですよね?なのに何で十八禁コーナーの中の写真で場所までわかるんですか?」
もう、これぐらいでいいよな?脅しとか好きじゃないけど、これだけ脅しとけば十分だろ。
「先輩……明日が楽しみですね。」
俺はそれだけ言い残し屋上を去った。屋上からは泣き声と何かを叩く音が響きわたっていた。
……………………………………………………
「で、二人揃ってなにしてんだ?」
「何って、萩本君を待ってたんだよ?」
屋上から降りて玄関で靴を履き替えて学校の正門まで行くと二人が立って待っていた。
「貴方が先に行っててくれと行ったのでしょ?あれって待っていろと言う事ではなかったのかしら?」
「先に帰ってて良かったんですが。」
「なら、最初からそう言いなさい。それとも貴方には語彙力と言う物がないのかしら?あら、あったらボッチでいることなんて無いわよね?気づいてあげられなくてごめんなさい。」
「マジで辛辣だなお前は!ちょっとは俺にも優しくしろよ!岬さん位の扱いにしてくれよ!」
岬さんの方に指を指し言った。しかし、直ぐに指を掴まれ少しずつ立てに曲げられていく。
「痛い、痛い!ちょ、たんま!折れる、折れるから!」
「人を指で指すなと、言われなかったのかしら?それと貴方を岬さんと一緒ぐらいに扱うなんてゴミと宝石を同じ扱いにしろと言ってるのと同じよ?」
「誰が、ゴミだ!?」
「………貴方以外誰がいるのかしら?」
やめて!その、さも当然だと言いたいかのような言い方!
「俺じゃなかったら死んじゃってるから、お前。」
「人は選ぶわよ?」
選ばないで!俺を選ばないでください!俺も人間、ヒューマンだから!
「まぁまぁその辺にしておこうよ!二人が仲良いのは分かったから。」
「何が分かったのかな?これのどこが仲良く見えるの?岬さんの目は節穴ですか?」
「そうよ、こんな男と仲がいいなんて死んでも嫌よ。」
「………典型的な、エロゲー主人公とヒロインみたいじゃん。」
エロゲーで例えないで!
「岬さん、流石にこの状況をエロゲーで例えないでもらえるかしら。」
「え~でも、実際に同じようなシーンがあるし。」
「「……………」」
ああ、何となくだが分かる。青空の気持ちがわかる気がする。
こいつ全然懲りてねぇ!確かにエロゲー事態はそれほど気にしてないけどこの、何でもエロゲーで例える癖はどうにかしてもらいたい。
「………はぁ、そんな事よりも萩本君は何をしていたの?」
「ちょ!私の話は!?」
「ああ、ちょっとな、先輩に一声かけてきただけだ。」
「ねぇ、だから、私の話を無視しないで!」
「そう、明日は大丈夫なんでしょうね?」
「後は学校と店の問題だしな、これ以上の介入は無理だ。」
ま、でも大丈夫だろ。もう、あっちの方の手もうってあるし。
「何をニヤけているのかしら?気持ち悪いわよ?」
「うるせぇよ、そんな事よりもお前の後ろ泣きそうだぞ?」
「え?」
振り返った青空の後ろにはさっきから無視され続けた岬が涙を溜め込みプルプルと震えていた。
「ご、ごめんなさい。つい、萩本君をバカにすることを優先してしまって。」
「……知らない、二人で仲良くしてれば!」
ツンデレか!何か岬さんの性格ってコロコロ変わるな。こう、何て言うか、めんどくさい女の典型例みたいな。
「本当にごめんなさい。お詫びをするから……」
「……そう、じゃあ今からちょっとだけ付き合ってよ。」
「え、ええ。それくらいなら。」
それを聞いて岬は青森から顔を反らした。
お~と、今ちょっとだけ見えたけど岬さんの顔が笑ってたぞ。騙されてますよ青森さん。
「で、何処に行くのかしら?」
「私の家!」
「俺、帰るわ。じゃ!」
「ちょっと待ったー!」
振り返り帰ろうとした瞬間に後ろから袖を掴まれた。
「お、俺は関係ないだろ?」
「………タスケチェヤルヨ。」
「…………行きます。」
「うん!それに安心して今日は親がいないから!」
それ、絶対エロゲーの台詞を言っただろ。世の男が一度は言われてみたい言葉ではあるが。
「安心して良いわよ。貴方が何かをしようとした時に直ぐ警察に電話してあげるから。」
何にも安心できないんですけど?それにもっと信じて、俺のことをもっと信じて!
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