第5話 現実は非常にも笑みを浮かべる。

「じゃ、ゲームソフトの件はまた来週と言うことで。それじゃあお先に失礼するわね。」


 そう言い、ゲーム機を持ち立ち去ろうとする青森を見てため息をついてしまった。


「お前………本当に自分で持ち帰れるのかよ?」


「ええ、これくらい余裕よ。それにもう十九時なのだからあまり、萩本君の親御さんにも迷惑をかけられないしね。」


「じゃ、じゃあ!私が持つよ!こう見えても以外と力持ちなんだから!エロゲーを大量に買った時とか一人で持って帰ってたし!」


 自慢できることじゃないと思うんですが…。


「岬さん、自慢できることじゃないわよ。」


「え、あ。うん。そ、そうだよね、あはは。」


「それじゃあ俺は帰るわ。」


「ええ、また来週。じゃあお願いね。岬さん。」


「うん、任せて!それと、じゃあね萩本君!」


 二人の後ろ姿が消えるまで見届け俺も帰路につく。それにしても十九時までに家にいないのは不味いかな……。


 絶対にあの人がいるだろうな~やだな、面倒だな。帰りたくね~


 そう思いながらも俺は早足で帰宅した。


 家につくと部屋は明かりがついており玄関には見慣れた靴が一足散らかり脱ぎ捨ててある。


「はぁ、子供じゃないんだから揃えろよ。」


「あんたはガキなんだからもっと早く帰ってきなさいよ。」


 靴を揃えようと屈んだ瞬間俺の頭の上に足が乗っけられ、グリグリと押し付けられる。


「おい、足をどけろ。それと、靴くらい揃えて脱げ。こんなにガサツだから結婚相手が出来ないんだ。」


 いきなり、体が持ち上げられその瞬間腹部に激痛が走った。それはもう一瞬の出来事だった。


「グハ!?い、痛い、痛い!!マジで痛い!!」


「おい、ガキ。言葉には気を付けろよ、また宇治村スペシャルをくらいたくなければ。」


「こ、これが仮にも教師のすることかよ。宇治姉。」


 そう、家に住んでいるのは宇治村先生である。宇治姉は俺の従兄弟にあたる、母方の姉の子供である。


「もう、二十二歳だろ。いい加減大人しくしろよ。そうすれば、顔と胸だけはいいんだから。」


「ふ、私は自分を包み隠す気はない!それにこんな私を認められない奴などに私はやれん!」


 お前は親か!しかもあんたの場合はある程度は包み隠せよ!


「と、そうだ。今日はあの子に連絡しないのか?多分待ってると思うぞ。」


「………ああ、これからするつもりだよ。」


「そうか、ならいい。それと、こんな時間まで何してたんだ?」


「あ?青森と岬さんに捕まってたんだよ。」


「な、なんと言った、今?」


「は?だから、女子二人に捕まってたんだよ。」


「………コロスゾ?マジで。」


 いや、何でだよ!?そこは喜べよ!ラノベだと大体、「お、お前にも一緒に居てくれるような人がいたんだね」て、喜んでくれるぞ!


「女子二人と、こんな時間まで、キャッキャウフフしていたと言うか?うらやましい!私なんて男といたら二分も持たずに相手が帰ってしまうと言うのに!」


 いや、二分てどうなんだよ。来てすぐに帰ってんじゃねぇかよ!普通、あり得ないだろ。


「腹がたったぞ!早く飯を作れ!腹へった!」


「食欲はあるのかよ。……はぁ、メールしてから何か作ってやるよ。だから大人しく座って待ってろよ。」


 宇治姉はブツブツ何かを言いながらリビングに戻っていった。俺もそれに続きリビングに行き、携帯を取り出して手早くメールをうち送った。


「さてと、なに作るかな。俺は軽く食べてきたしな。それに今日は金曜日だし、あんまり材料がないしな。」


 確か、冷蔵庫に卵とニラ、ベーコンに根生姜があった筈だから今日は………。


「簡単にニラ玉丼でいいかな。」


「手抜きするなよ。」


「……じゃあ自分で作れよ。」


「私が出来るとでも?」


 じゃあ、文句言うなよな!


「ちゃちゃと作るから文句言うなよな。」


「しょうがないわね。」


 宇治姉に構っててもしょうがないし、五分くらいで出来るだろうから、さっさと作っちゃお。


 材料を切り、調味料を混ぜて鍋に入れ根生姜と一緒に温めて甘酢だれを作り、ニラとベーコンを炒めて卵でとじ、先に丼に入れておいたご飯の上にニラ玉をおき、最後に甘酢だれをかけて出来上がり!


「ほれ、どうぞ。」


「普通に美味しそうね。」


 パクパクとではなく、ガツガツと食い始めた宇治姉は五分もしないうちに食べ終えてしまった。


「もっと噛んで食べろよ。」


「うるさいわね。貴方は私のお母さんか!」


「………あながち間違ってないんじゃないか?」


 だって、ご飯食べさせて、身の回りの世話もしたりしてるしな。


「………否定できないわね。あんたが私の旦那になれば問題ないのでは?」


「嫌だよ。俺はもっとしっかりした女性と結婚したい。」


「友達の一人も出来ないあんたが?」


「………と、友達なんていなくたって、あ、あいつがいるし!」


「あの子はあんたしかいないんだからしょうがないからノーカンよ。」


「……この話はやめよう。多分俺と宇治姉どっちも傷付くだけだし。それと、さっさと風呂は入れ、どうせやってあるんだろ?」


「ええ、じゃあ先に入れて来るわね。それとお母さん遅くなるってさ。」


「わかったよ。」


 今日もか……。まぁ、でも、父さんが死んだときみたいに毎日遅くなるなんて無理しなくなったよな母さんも。


 父さんか、久しぶりに思い出したな。まぁ、病気で死んじゃったんだからしょうがないよな。


 昔は思い出しただけで胸が痛くなって泣いてたのに今となったら、思い出しても泣かないしそこまで胸が痛くならない。やっぱり人間て便利に出来てるよな。


 悲しいことや嫌なことそれらを少しずつだけど、忘れていく。記憶をではなく、その時の感情の方を。人は感情に約7割りくらい左右される生き物だと思う。


 そんな生き物が感情を忘れていくとしたらきっといつの日か父さんが死んだことも悲しまなくなってしまうんじゃないかと、いつも、俺は考えてしまう。


「おーい、上がったからさっさと入れよ!」


「はい、はい。今いきますよ。」


 ただ、それでも俺は、いつか忘れても、父さんの事を忘れなければ感情なんてどうでといいと最近になって思っている。


「私は先に寝てるから戸締まりよろしく!」


「いや、まだ二十時なんですが。」


「教師の朝は早いのだ!なははは!」


 そう言って自分の寝室に入っていった宇治姉は本当にすぐに電気を消し寝てしまった。


 何故寝たかわかるかって?そんなのあれのせいしか無いだろ?あの、寝てるときに起きる大きな音を出す現象、イビキのことである。


「……宇治姉が結婚するときは来るのだろうか?」


 一人で呟き、風呂に入った。少しして俺も風呂からでて、二十二時くらいまでリビングで過ごしその後自分の寝室に入り、就寝した。


 ……………………………………………………


「お~い、起きろ!朝ですよ。」


 カーテンの隙間から差し込む朝日が顔を照らし、そして誰かに体を揺らされる。あれから2日たち今日からまた学校が始まる。


「あ?ああ、宇治姉か。」


「もう、6時半だから起こしに来てやったんだぞ。さっさと起きて飯を作れ!」


 朝からテンションの高いことで、後その態度絶対作ってもらう人の態度じゃないよね?


「それと弁当もよろしく!今日は金がないから!」


「……何に使ったんだよ。」


「それは………大人の秘密だ。」


 こいつまた、アーティストのCDに金をかけやがったな。


「……ま、いいや。顔洗ったらすぐに作るから出勤準備でもしてろよ。」


「は~い!」


 そう言い俺の部屋から立ち去った宇治姉を見て俺も重い腰をあげてベットから立ち上がった。


 それから飯を作り、弁当を作り、宇治姉のおやつまで渡し、宇治姉は走りながら学校に向かった。


「今時教師がおやつってどうなの?」


 ため息をつきながら宇治姉を見送ると俺はリビングに戻り自分の用意を済ませ軽く時間を潰して学校に向かった。


「あら、萩本君じゃない?奇遇ね。」


「お前と同じクラスなんだから奇遇では無いだろ。」


「そうだったかしら?影が薄いから一緒のクラスだなんて気づかなかったわ?」


 こいつもこいつで朝からテンションの高いことだ。しかも教室についてすぐに罵倒から始まるし。


「………なぁ、アレってマジなの?」


「マジ、マジ!写真だってあったし。」


「うわ、流石にそれはな………。」


 周りが何かをボソボソと呟いている。しかもスマホで何かを見せあいながら。


「ん?何かしらね。」


「どうせ、芸能人か何かのニュースとかじゃねぇの?もしくは、お前の噂とか。」


 青森は少し俺の言葉が気になったのかさっきのボソボソと呟いている女子の集団の中に入っていった。


「ちょっといいかしら?」


「え、あ、青森さん?何かな?」


「さっきから何かボソボソと話しているようだけど何のことかしら?」


 集団の女子達は顔を見合わせ一人がスマホを見せて説明し始めた。


「これなんだけど……。」


 スマホの画面には昨日の岬の写真が二枚載っけられていた。しかも十八禁のコーナーにいたときの写真とその後の変装を解いたときの多分俺と青森が一緒にいないときの写真が見えた。


 しかもそれはこの学校のLINEアカウントに載っけられていた。


「………これはどういうことかしら?」


「私岬さんの事嫌いだったんだよね。しかもこれってエッチなゲームでしょ?マジでキモいんだけど。」


 その言葉を聞いた瞬間周りは一斉に笑い始めた。しかしその中で唯一笑わずに最初の一言を言った女子を睨み付けている青森がいた。


「……おい、青森行くぞ。」


 流石にこのまま青森をあの集団にいさせるのはまずいよな。多少目立つけど連れてくしかないよな。


 そう思い、強引に腕を掴み歩き出した。周りは少し驚いたような表情を見せたが青森は気付いたようですぐに手を引き剥がし自分で歩き始めた。


「………どうしたものかしら。」


「何がだ?」


「だから、岬さんの件よ。このまましておくつもり?」


「昼休みでも聞いてみるしか無いだろ?もし、何かするにしても。」


 青森は頷き、昼休みになるまで待った。それまでの間ずっとクラスでは周りが岬の件をブツブツと話していた。途中、廊下を教師と一緒に岬が通る所を見たが顔色が凄く悪かった。


「行くわよ。」


 そう言って俺の席の前に来た青森は片手に弁当箱を持ち岬の所に行くように促してきた。


「わかってるよ。俺も多少なりと気になるしな。」


 ま、一度知り合った仲だしな。友達じゃないけどね!


 岬のクラス一年三組につくとそこは自分のクラスよりも酷く噂になっていた。


「………ごめんなさい。少し岬さんに用があるのだけど。」


 青森は廊下に一番近い席の女子に話しかけ岬を呼ぶように促した。


「…え~と、ちょっとそれは……。」


 ま、確かに話題の中心に話しかけるなんて無理だよな。


「それはどういう意味かし」


「おい!岬ちょっと用があるから来てくれ!」


 青森が何かを言うのを阻止するように俺は少し大きめの声で岬を呼び出した。周りはその瞬間一度こちらを向くとすぐに窓側の席にいる岬の方を向いた。


 岬は一度こちらに振り向き、顔を下にしたまま近づいてきた。


「……なに?」


「ちょっと話があるのだけど。場所を変えましょうか。」


 周りを青森が睨み付けるとそのまま岬を連れて歩き出した。


 それにしたって美人てずるいよな。だって睨んだだけで誰もついてこなくなるんだから、凄い影響力だよな。


「……で、何のよう。」


「その、貴方の噂なのだけど。」


「それが?」


 さっきから思ったけど、明らかに態度が変だ。二日前まではあんなに仲が良さそうだったのに今は淡白な受け答えしかしてない。


「あの件だけれども、その……。」


「はっきりしてくれないかな!!さっきから何!?よそよそしくしてさ!」


 大声で怒鳴り散らし始めた岬は涙目になりながら青森にあたりはじめる。


「そ、それは」


「どうせ、あんた達が流したんでしょ!?あの写真!」


「ち、ちが!」


「うるさい!私……信じてたのに。初めて……私の趣味を知ってもつきあってくれる人達を見つけたと思ってたのにそれなのに、こんな、こんなのってないよ!!!!!!」


 岬は一向に青森の言葉を聞こうとしていない。いや、聞こうとしていないと言うよりも聞こえていないといった方が正しい。


「岬さん、ちょっと落ち着けよ。まずは青森の話を聞いてやれよ。」


「うるさいうるさいうるさいうるさい、どうせまた騙すんでしょ!それにどいつもこいつも私の話なんて聞いてくれない!確かに十八禁のコーナーにはいたことは確かだけど、盗んでなんていない!」


「え、盗んだ?どういうこと?」


「あんた達が流した噂に尾びれせびれがついたせいで盗んだなんて言われはじめて、でも、先生はレシートを見せたら信じてくれた。けど、生徒の方は誰も信じてくれない。」


 涙を流しながらその場に倒れこんでしまった岬に青森が近寄る。


「……もう嫌だ。なんで、なんで、信じてくれないの。それになんで、気持ち悪るがられるの?もう、やだよ。」


「私でいいなら力になる。だから、ねぇ、これからどうするか考えましょ?」


 手を握り優しい声音で岬に喋りかける青森だが、そもそも、受け入れられる筈がない。だって岬は完全に勘違いをしているのだから。


「近寄るな!あんたなんて嫌い!信じてたのに!裏切って!もう、来るな!」


「み、岬さん……。」


「おい、青森行くぞ。」


「な、何をいってるの!?岬さんはどうするのよ。」


「ほっとく。」


「な!貴方は!」


「ほら、やっぱり。私のことなんてどうでもよかったんだ。」


 呆れたような声を発してこちらの方を見てくる岬を見て俺は笑った。


「は、そんなこと言って最初っから信じてなかったんだろ?」


「信じてたよ!私の趣味を認めてくれるひとなんていなかったから!」


「……じゃあ何で写真をばらまいたのが俺たちだと思ったんだ?」


「そんなの!二日前に一緒にいたのなんて二人くらいしか。」


「俺達は十八禁のコーナーに入った覚えはないぞ。あの時制服だったからな。」


 そう、俺達は制服だったのだ。つまり絶対に十八禁のコーナーに入れるわけがない、少なくとも一枚目は俺達ではないそして、二枚目の写真は一枚目の写真を出したアカウントと同じアカウントから貼られていた。


「確か、あの写真は同じアカウントから貼り出されていた筈、ま、確かにアカウントは消されてはいたけど。それにしたって俺たちじゃないことくらい、よく考えればわかるはずだよな?」


「………それは。」


「これでわかっただろ?お前は最初から俺達を信じちゃいないかったって事だ。それなのに信じてたとか言って、最低だな。」


 俺はそのまま振り返り教室の方に歩き出した。


「ちょっと、待ちなさい!」


 後ろから青森の声がしたがそのまま振り返らずに歩みを進めた。青森も俺の後を追うように岬から離れた。最後にチラッとだけ岬の方を見たとき手をこちらに向けて泣いていたのが見えた。その時に奥の方にいる人物の姿も見えていた。


「で、青森はどうするんだ?」


「………この写真をばらまいた犯人を探すわ。」


「何でだ?ほっとけばいいじゃねぇか。最初から俺達を疑ってたんだぞ?調子のいいことだけ言って。」


「確かにそうかも知れない。けど、それでも最後の表情を見てしまったからには助けたくなるわ。」


 このお人好しが、そんなお人好しならもっと俺にも優しくしろよ!俺の方がもっとデリケートなんだぞ!


「貴方の方は……とは聞くまでもないかしらね。さっき、ほっとくと言っていたのだから。」


「………いや、俺多分犯人が分かったわ。」


「は?え、何故分かったの?」


「いや、さっきさ、見たんだよな。影に隠れてこっちを観察してる人を。多分だけどそれが犯人だと思う。」


 それに観察してた奴の顔が笑っていたしな。


「で、誰なのよ?」


「あ、それはまだ言えねぇよ。確証とかないし。」


「……なら、いいわ。どうやって助けるか考えましょう。」


 そう、それが問題だ。例え写真を公開した人が見つかっても根本的か問題が残ってる。


「……助けかたを選んでる暇はないよな。」


「何か言ったかしら?」


「ああ、ちょっといい考えが思い付いたから手伝ってくれ。」


 現実は非常だ、なら、非現実は優しいのだろう。なら、やはりゲームの世界は優しいと言うことだ。


 しかし、俺の世界はリアルだ。非常と言うのなら、やはり相手にも現実の非常が訪れないとおかしいではないか。


 だから、俺は俺のやり方で、相手に非常を与える。

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