The Girl Is Mine その6



『美味しい!』



響は皿の上に山と積まれたきつね色に焼かれた肉を頬張りながら、カロリーなど考える余地もなく味わっている。



〈鼻の先からつま先に至るまですべて可食です〉



『キルケーの作るお肉はイマイチで単調でしょ?だからちょうど良かったわ』



〈それは私の落ち度ではなく、JAの規制法による既得権益によって高品質の組成は〉



キルケーの必死の釈明を遮って照美は訝しげに呟く。



『なんて都合のいい....まるで私たちに媚びてるみたい』



疑る目で豚を見つめる照美は何かを考え込んでいるようで、机の下で姉さんが俺の脚に脚を絡ませ合図を送ってくる。



「ほら!照美も食べてみろって、すっごい美味しいんだよこれ!」




フォークで刺した肉を照美の口元へ近づけると、照れつつ観念したように最小限に口を開け、ゆっくりと中へと入れた。



彼女の恥ずかしそうにする様にすっかりいい気になるが、



しかしどういうわけか照美は既に舌に肉があるにも関わらず、わざとねぶる様にフォークを口から離して挑戦的な顔で肉を食べ始める。




昨夜の混沌とした光景がフラッシュバックし彼女が桃なら、こちらはチェリーのように赤く返されてしまった。



どぎまぎして食事に手を付け、平静を装ってていると皆がばくばくと肉を食べていると依由ちゃんだけがコップ一杯の水を飲み何処を見るわけでもなく座している。




森でのこともあり、こちらから話しかけることはしづらく、何か話題をと思いつくまま切り出す。



「あのさ!そういえばこの星に名前つけてなかったよな?この機会に今決めないか?」



〈天体の命名権は発見者にあります。この場合は守または葉山 照美にありますが、誰かに寄与することも可能です〉




依由ちゃんは今までよりもグッと近く身体を、胸を寄せて尋ねてくる。



『守さんは何か思いつきますか?』



「...切り出しといてなんだけど、なんにも思いつかないな」



どうにも歯切れが悪く二の句が出ず、照美へ話を振ろうとすると『こっち見んな』と、依由ちゃんが抱き着く腕目掛けて


刺さる鋭い目つきがそう語っている。



「ひ、響はどうだよ、お前こういう名前考えたりするのは好きだよな」



『....うーん、さっきからずっと考えてるんだけどさ、デューンとかジャク―?いやいや在りものってどうなの?』




ブツブツと妄言を繰り返し話にならない、ああいうマインドに一度入ると響は納得するまで考え込むときが過去何度かあった。



「姉さんは何かいい案はある?」



うーん、とわざとらしく考えるそぶりを見せはするが、すぐに立ち上がって人差し指を下唇に当てた後、天高く突き上げる。



『照美ちゃんの言った通り【媚びる】でフラター....惑星フラター!これでいいんじゃない?』



よく言えば誰も文句はなく、悪く言えば誰も興味はなく、既に住み始めてから数週間にもなるこの星の名前が決まった。



〈ではこの星を太陽系外惑星第三千五百五十一、惑星フラターと名付けます〉



〈そして只今をもって脱出艇の修復準備が整いました。現在地の座標及び燃料の問題を覗けば修復次第、地球への帰還が可能です〉



『まるで先が見えないわね』



照美は首を振りながら言うと、俺は姉さんのほうへアイコンタクトを送った。



彼女はすっかり落ち着いて、まるで知らない人のようで、この先に起こる’’何か’’に途方もない不安に襲われた。





そして、腕に抱き着いていた依由ちゃんの力が少し強まったのを、この時もっと気にしておくべきだった。

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