The Girl Is Mine その3

姉さんが一人戻ってくると、どこからともなくティッシュを取り出す。


『昨日のこと思い出した?』


鼻に詰め、血が止まるのを待ちながら話を続ける。



「....なんであんなこと」


『あれぐらいしないと前に進まないでしょ?それに私が入れたのは''スパイス’’だけ』


いや、スパイスとは聞こえはいいが大方LSDやメスカリンの類でも入れたのではなかろうか....



『とりあえずあの子たちは何も無かったことにしようとしてるみたいだから』


「...なら俺もそうしよう」



姉さんは意味ありげに目尻を上げ『ふーん?』と鼻で相槌を打ち


『よし意見も一致したところで』


指を鳴らすと照明は目まぐるしく色を変え、縦横無尽に入り乱れると、一斉に道を照らしシンセサイザーの音がフェードインし始め、激しい重低音でEDMが鳴り響き始める。


一体彼女たちに何を吹き込んだんだ....そう考え込む間もなくマイペースにファッションショーを始めてしまう。


『まずは世界の民族衣装からウクライナ!』



どこからか取り出したマイク片手に身を乗り出して叫ぶと、ランウェイの奥から鋭い眼光でもって照美がまっすぐこちらへ歩いてくる。


『ブゴビナ様式のソロチカでありながら、柄は花札にアレンジ!下には青のタイトなロングスカート、腰には朱色の長ながーいベルト』


先端まで来ると俺に見せつけるようにポーズを取り、得意満面の顔で言った。


『どうよ』



「....似合ってるよ!」


この衣装はもちろん、白い服に対する艶のある赤毛と、その間に空いた撫でたくなるようなデコルテライン。これらに心底胸が高鳴っていた。


さっきまでの異様な距離間はなく、むしろ近づいてくるような印象で照美はたっぷりと満足げな顔で『よし』と言い、奥へと戻っていくと入れ替わって依由ちゃんが俯きがちに出て来た。


『リトアニアからマルシュキニアイ!』



頭には丸帽子を乗せ、袖回りには刺繍の入ったシャツにネイティブ柄のベストと腰紐に前掛け。


依由ちゃんの牧歌的な可愛さがいかんなく発揮されている。



しかしどこか身の置きどころがないような彼女を見かねてエールを送った。


「可愛いよ!」


そう言うと顔はぱぁっと明るくなり前へ出ると、こちらへ胸の前で小さく手を振る。



ターンしてお次は響が出て来た。




『エジプトからガラベーヤ!』


前開きの服は谷間からへそまでが露わになり挑発的な視線と水色の服で目の前で立ち止まり一回転し、大きく広がった広袖を舞わせウィンクすると響は引き返す。




後ろで鳴る音楽は静まり、ライトは壁を照らしている。


どうしたのか、口をあんぐり開けた俺の困惑っぷりに姉さんは肩に腕を回して言う。


『こっからは衣装チェンジ。どう?楽しい?』


「そりゃあもちろん....でもこれは...」


不安に駆られ分かりやすく顔を困らせると、頭を撫で優しく続けた。


『大丈夫、このまま流れに身を任せればいいの。今は』



足を組み、虚空を見つめるその目はここではないどこかを見ているようだった。



〈準備ができたようです〉


『ん、それじゃあ第二部行こうか!』


キルケーからの報告で気を取り直すかのように元気に拳を突き上げる。


バックで流れるEDMは再び音を上げ、照明が動きランウェイには3人が一斉に並んで出て来た。



『今度のコンセプトはカジノだぁ~』


人差し指で頬をぐりぐりと差しこちらを煽ってくる中、真っ先に目に飛び込んできたのはバニーコートを着た依由ちゃんだった。


実物から取ってつけたようなウサギの耳に、曲げる余地のない腰。そして陶器のごとき足に張り付いた網タイツ。先ほどとは比べ物にならない露出にも関わらず依由ちゃんは『どうですか?』と視線を飛ばしている。



その隣では真っ黒の生地に深紅のバラの花びらがあしらわれたパーティドレスを着た照美が。


響はシャツの上から、豊満なソレを強調したオーバーバストコルセットとベストを身に着けたディーラー風に構えている。



3人の煌びやかな衣装の後ろにはもくもくとカジノのセットが浮かんでくるようだ。





『さぁお次はラッパーファッションだ!』


「おー!!」


こちらもボルテージが上がり意気揚々と拳を突き上げると、音楽と照明が消え、警告灯が青い光を発する。

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