Canned Heat その3



一歩一歩に地響きが鳴り、リズムが掴めてくると奴の次の一歩で彼女は足元に爆弾を撒き、一斉に起爆するとワニは体制を崩し地面にのめり込んだ。


爆発し出来た穴に四肢がハマり、砂煙が立ち込め奴は動かなくなった。


バイクを止め照美とハイタッチを交わす。


「さっすが!!」


『ふふん、後で肩でも揉んで貰おうかしら』


「あいあいさー!」


ひとしきり盛り上がると依由ちゃんから連絡が届いた。


『充填完了です!退避してください!』




急ぎ離れると、数キロ先のデブリシューターは青く刺すように煌々と光りヘルメットには閃光防御フィルターがかかる。



倒れたワニは前方から溢れ出るエネルギーを察知したのか砲身に向け再び口から岩を吐き出した。


『発射!!』


響の掛け声と共にデブリシューターの先端にプラズマの輪が発生し、とてつもない勢いで放射される光は飛んでくる岩を砕き、ワニへ直撃し遠く離れたにもかかわらずその余波で飛ばされないよう踏ん張るので精一杯だ。




「やったか...」


『この岩全部回収して解析機送りね...まぁとりあえず船に戻りましょう』


そういい家路につこうとすると響に呼び止められた。


『ちょい待ち、奴さんも祝いに駆け付けたみたい』


相変わらず何を言ってるんだ響は、そう呆れる間もなく散らばる岩の中心には人影が。



その青い身体は逃げた時とは大きく様子が変わり、いたるところから根が大量に伸び、わずかに人の形を保っている程度だった。


『あいつ何する気!?』


そいつは両腕をバラバラの死骸へ伸ばすと、岩から岩へと根を張りどんどんと元のワニの形へと戻っていく。


「寄生...した...?」


それどころか根を岩に突き刺し、栄養を吸い取るようにして太く長く全体を覆い一回りさらに大きくなると、後ろ足だけで立ち上がり二足歩行へと変わる。



『そんな....』


依由ちゃんが絶念を漏らすと、地響きを立てながら先ほどとは倍の速度で船へと進行を始める。





『早い!もう一回足元を崩すわ、出して!』


エンジンをふかし、猛スピードで追いつこうとするが奴はくるっと振り返り、青い植物に覆われた顔は笑ったように見えた。


尻尾を振りバイクを跳ね飛ばされる既の所で俺は照美は突き飛ばし間一髪で逃がした。



『守!』



宙へ舞い上がった身体を短い腕で掴み、口の中へと放り込もうとする。



充分だ、あの日失くした自分をほんの少しここで、姉の代わりに3人の命を救えたんだ。きっと...姉さんも褒めてくれる...



憂いもなく死を受け入れ目を瞑る。手から口へと運ばれるその1秒間で全てがひっくり返った。死も切望もトラウマも。



柔らかくとても落ち着く匂いと共に、何者かによって奴の手は打ち切られ、落ちる身体を軽々と横抱きに救い出された。



か細い一本の腕で抱かれ、もう一方をワニへ向かって突き出し何かを掴むようにしてひねる。


すると奴の身体の中心には黒い穴がなんの前触れもなく現れ、巨体はその中へ渦を巻いて吸い込まれていく。



何事も無かったかのように辺りは静まり返り、俺を抱くその顔を見た。



何よりも先に涙が溢れ、泣きじゃくった。彼女の腕の中で泣くのは何度目か....



星野 まどか



姉さんはあの頃のままの笑顔で俺を見つめていた。

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