Accidentally In Love その3
葉山は一瞬こちらを見てはまた逸らし、彼女もまた一息吸い込むと切り出した。
『あのヘッドホン、この船に乗るときにママが渡してくれたものよ。
小学生の頃、この赤髪が原因でクラスメイトから馬鹿にされてた。
恨んだわ、あの人じゃなく別の人がママならって。それからわけのからない逆恨みのまま中高一貫の寮生活で何年も会うこともなかった。
でも地球を出る前に会った時、遠くに行ってもなにか家族を感じられるものを、ってあのヘッドホンを渡されたの。
結局、意固地のまま...謝れなかったなぁ....』
思いをはせるかのようにして上を向き話す葉山の顔に、今更ながら取り返しのつかないことをしてしまったと、顔と胸が絞られるような感覚に陥り彼女の元へ駆け寄った。
「本...当に....本当にっ、ごめん」
『...泣いてんの?』
「だって、そんな、大切ものを...」
『あんたが壊したわけじゃないでしょ!なんで泣くのよ!』
「俺が...俺が直すよ!ヘッドホン!」
『いいわよ!それに修理なんてやったことあるの!?』
「ない!けど絶対に直すから!」
彼女は呆れたように、しかし笑いながらヘッドホンの修理を了承してくれた。
何の気なしに彼女の隣に座り、今思うことをただ口に出した。そういう、気分だった。
「気付いたらあの船にいて、顔を蹴られて、墜落する船からスカイダイビングして、嵐に巻き込まれて、放浪して死にかけて、青いゾンビに襲われて、暴走するAIに殺されかけて、なんでこんな目に。って思ってた」
「でも今は楽しいよ、響と再会して昔を懐かしんで、依由ちゃんには優しくしてもらって、葉山とはこうやってじっくり話して、あのまま地球で腐ってたら俺は誰とも関わらずに自分から....死んでたかもしれない」
「俺はここで生きたい、ここが俺の星なのかもって今、思い始めてきた」
『やっぱりいい』
ヘッドホンのことで気が変わったのかと慌てて隣を向くと、この部屋に入ってやっと目が合った。
『葉山じゃなくて照美でいいわ』
彼女は初めてこの星に来た時の、あの空と同じように手を出していた。
『今までごめんなさい。仕切り直しよ、これからよろしくね守』
壁のタオルを取り手汗を拭くと、照美の手を強く握る。
照美の赤みがかった髪は美しく、それはそのまま言葉になった。
「その髪、すごく綺麗だよ」
驚いた顔で彼女は照れ、取り繕おうと早口で喋る。
『この髪を褒めてくれたのはママだけだった、から......ありがと』
うす暗い部屋の中でもあの空の時と変わらず、光輝いていた。
嵐に巻き込まれる寸前、心に湧き上がってきたものの正体にやっと気づく。
恋だった。
『ちょっと、なんでそんなに見つめてるのよ!』
恥ずかしがる照美は止まっていた鼻血再び流れシーツに垂れてしまう。
『あぁっ!』
彼女は慌ててシーツを取ろうとすると纏っていたせいか足が引っかかり俺を押し倒す形で馬乗りになった。
すると部屋の電気が点き、扉が開くとそこには依由ちゃんと響が、困惑した表情で立っている。
彼女らがなぜこんな顔をしていたのかハッとして気付いた、若い女がシーツを纏いそこには血の後が....しかし襲っているのは照美。
「そういうんじゃないんだ!!」
『この血は私ので...!!』
俺と照美は二人して言い訳をするが、依由ちゃんの顔は真っ赤に火照り、響は眉を顰め気まずそうに扉を締めた。
「『誤解なんです!!!』」
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