Accidentally In Love その2


赤みがかったウェーブの髪を揺らす後ろ姿。それだけで人を魅了するのは充分な力を持っている。


『まず何一つ技術的なことができないだろうから家事洗濯をやってもらうわ』


「はぁ...」


確かに何ひとつ分からないし単純作業ぐらいしかできることはないが、どうしてこうも彼女は俺へ当たりが強いのか見当が付かずにいる。



『ここがリネン室よ』


四方の壁には棚がありタオルやシーツが綺麗に並んでおり、中心には焼却炉のように大きく口を開けた穴がある。


『そこに使用済みを入れれば、自動で洗って乾燥から畳むまでしてくれるけど乾燥からは壊れてるから。じゃあ次ね』


葉山は部屋を出ていこうとすると電気が消えてしまった。


『痛っ!』


彼女は鼻を抑え呻いている、どうやら自動で開くはずのドアが動かず鼻をぶつけたらしい。


「停電か?」



照美は扉を力づくで開けようとするが、ビクともしない。



『あー、あー』


響の声が天井のスピーカーから流れてくる。


『ごめんねーコア取り付けようとしたら拒否反応出ちゃって、機能がマヒしちゃった』


続けて依由ちゃんの声が。


『ごめんなさい、復旧の目途は1時間ほどだそうなのでそれまではお待ちください』


マイクを切ったのかブツッと音を立て部屋は静まった。


『嘘でしょ....密室で二人きり?信じられない』


そんなに嫌かよ、と言いかけ身体を動かすと、彼女はすかさずムエタイのような体制で身構えた。


顔まで上げた拳の間から見える鼻からは血が垂れている。


異様なほどの警戒心に野生動物と対峙するかのように後ずさりし距離を置くと彼女は構えを解き男らしく手首で血を拭った。


中心の洗濯機を挟み壁にもたれ座り込み、彼女はこちらの顔も見ようとせず棚のシーツを取り身体を覆うようにして纏う。



「葉山さん、もしかしてまだ俺のこと疑ってるのか?」


『もう疑ってないわよ』


「じゃあ、なんでそんな...」


『当たりが強いのかって?そういう人の反応伺いながらの話し方、なんでも指示待ち、まるでここにいるのが迷惑みたいな態度、みんな死ぬほど勉強してこのスーペリアに乗りこんだのに生き残ったのは冴えない男。死んだ人達が可哀そうよ』



ここ数日で溜まり溜まった何かが切れ、壁に拳を叩きつけた。


「俺だって!変われるなら....変わってやりたかったよ...」


驚き身体を強張らせる彼女にハッとして謝る。


「ごめん....」


最低だ、女の子相手に怒鳴り上げるなんて....



それからは言葉もなく互いに目を背け、尾を引く歪な沈黙に耐え兼ね彼女へ話しかけた。



「最初に会った時ヘッドホン壊して本当にごめん、大切なものだったんだろ....?」




『あれは....』


少し言い淀み、続ける。


『別に、勝手に押し付けられた余計なものだから』


「でもあんなに怒って...」


『もういい、事故みたいなものだし』


どこか投げやりな言い方が気にかかる。



『それより、なんで向こうの船で響を泣かせたの?』


葉山は下を向きながらこちらへ話かけてきた。


「聞いてたんじゃないのか」


『音消してたわよ、盗み聞きは趣味じゃないからね』


『でもこれからここで共同生活をするなら、互いのことを知っておくべきでしょう』


自身の話題は避けたにもかかわらず、こちらの過去を詮索してくる態度は腑に落ちないが、彼女も少しはこちらに歩み寄ろとしてくれているのかもしれない....


一息吸い込み、心を整理して出来るだけ簡潔に済ませようと話す。


「昔、俺には姉がいて響とも仲が良かった。でも姉さんが死んで響が引っ越し、ここで感動の再開。どこにでもある話だよ」


人にこの話をするのは初めてで、気分はあまり良いとは言えない。


『ごめん...』


「いや、いいんだ。誰が悪いわけでもない」

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