Uranium Fever その7

煮え切らない思いをそれから5分ほど、狭い換気口で四肢を痛めながら飲み込み、コアの元へと辿り着いた。



部屋の中心にはソフトボール程度のオレンジに光るコアが、液体で満ちた2mほどの丸底フラスコの中に浮かんでおり、容器からは大きなチューブが何本と伸び、どこか心臓めいている。



『さぁ摘出手術といきますか』


響は嬉々としてフラスコについたチューブを外し始めると室内の警告ランプが灯りビープ音が鳴る。


『ほら守も手伝って!』


見よう見まねで次々と接続を切っていくとフラスコの内容液がブクブクと泡を立ている。


〈警告 今すぐ行動を止めコアを正常に戻してください〉


「聞いてくれキルケー!俺達はお前の敵じゃない!」


〈このままでは航行が止まりあなた方も死んでしまいます〉


「もうこの船は動かないんだよ!」


〈なぜ自殺行為を?理解できません〉



既にキルケーに声は届いておらず、チューブが全て外れ内容液は蒸発し切った。



〈乗組員二名による造反行為により航行不能、ネクローシスプロトコル発令します〉



船は地鳴りのような揺れと共に、内部の至る所で爆発が始まった。コアを盗られ死ぬぐらいならば船ごと自爆を選んだようだ。



「キルケー...」


しかし今考えるべきは船からの脱出方法だ。


「響!ここから出ないと!」


『出ないよ』


背後から聞こえてくるはずの声はなぜか上から聞こえる。


『その逆』


見上げると響はフラスコの口におり、飛び込むと身体をくの字にしてすっぽりと入り込んでしまう。


「何してんだよ!」


爆発音が近くまで迫り、まるでこの星へ来た初日を思い出すような状況に、手足が震える。


『早く!巻き込まれるよ!』


既に長身の響とコアでいっぱいいっぱいフラスコの中へ入ると、余りに顔が近く身体の位置を変えようとすると手が滑り、彼女の腹を撫でるような手つきで触れてしまう。


『んっ!』


「変な声出すな!」


『狭いんだから余計に動かないでよ』


「こっからどうするんだよ!」


『こんなこともあろうかと』


響は工具箱の中からスプレー缶を取り出し、入ってきた穴へ吹き付けると薄い膜ができ密閉してしまう。



「なにしてんだよ!助かったって窒息死じゃねぇか!」


『まぁまぁ』


手を扇ぎごまかそうとしている。


「なんでそんな落ち着いてんだよ!さっきまでわんわん泣いてたのに!」


『そーいうのは黙っとくのが男なんじゃない!?』


顔を赤らめ恥ずかしがる響の可愛らしさもお構いなしに船は丸々爆発しフラスコごと吹き込んだ。



とてつもない勢いと衝撃で船外へ吹き飛び、地面にぶつかるとフラスコは粉末状に割れ俺と響は転がり倒れた。





「なんて呆気ない...」


燃え上がり、崩壊していく船の半身を呆然と立ち尽くし見上げていると響は目の前に立ちコアを見せる。


『コアはちゃんと無事だよ』


「そういう問題じゃ....」


キルケーだって出来ることなら...


『あぁするしかなかったし、過ぎたことを考えても仕方なーい!』


強く背中を叩き、燃え崩れ跡形もなくなる母船を背にギャリーへ乗り込もうとする。


「はぁ...もういい、疲れた、帰ろう」


『なんにもしてないくせに~』





とぼとぼとギャリーへ向かうと何か硬いものを踏んだ。


拾い上げるとまたしても珊瑚の死骸のような白い塊が。


『守~早く乗って!』


もしかしたらなにかこの星のことが分かるかもしれない、そう思い白い塊を握りしめ帰路へついた。

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