Uranium Fever その5
あれは冬、学校から帰ると姉さんが俺と父親の夕ご飯を用意していた。
『お帰り、どうだった?』
「笑われた...」
『そっか...めげるな!』
優しい顔をしたと思うと次には目を滾らせている。
『いい?守!あんたはかっこいい!強い!無敵なのよ!』
「はいはい、まぁ響がああいう奴だって分かってたし、大丈夫だよ」
『強がるんじゃないの、この胸に飛び込んでおいで!そして今日だけは泣きなさい!』
強く俺を抱きしめその場で回る。
「もう恥ずかしいから!苦しいって!」
姉さんは時代も性別も違ったような暑苦しさと兄貴肌で、でも弟の俺から見てもとても綺麗で優しかった。
『お父さんそろそろ帰ってくるから早めにお風呂入っちゃって!』
物心つく前に母は他界し、姉さんが母替わりだった。大学に通いながらも毎日家事をこなしてくれている。
親父は出張も多いがいつも予定より数日遅れて帰ってくる。なのに姉さんは性懲りもなく夕飯を用意する。
『お父さん遅くなるって、先に食べちゃおう』
風呂から上がると姉さんは食卓に並んだいくつかのさらにラップを被せていた。
いつもなら夕ご飯を食べ二人で洗い物をした後は一緒にゲームをするはずが、姉さんは友達と用事があると自室で誰かと通話をしているようだった。
男だったら...そんな不安を持つ自分が気持ち悪くその日は眠った。
それから数日、取り立てて劇的なこともなく姉さんは死んだ。車による事故死で運転手は自殺。
当時のことは記憶が断片的で、響の母親がこの町から引っ越すと教えに来てくれたこと、父があまり家に帰らなくなったこと、
それぐらいしか覚えていない。
やっぱりこの話はよそう、今更振り返って変わるものじゃない。
俺と響は立ち上がり再び歩き出し、キルケーのメインコアは目前というところで通路には隔壁で遮られ遠回りを余儀なくされていた。
『やっぱり...』
考え込み黙っていると
『もっかいミラーかけて』
言うとおりに再びミラーをかけると響から接触通話のサインを受け、ヘルメットを合わせて話す。
『キルケーはわざと遠回りさせてる』
「なんでそんなこと...」
『さぁ....でも今はとりあえず乗るしかない』
そう言い迷路と化した船内をひたすら練り歩き、1時間ほどが過ぎ再び司令部へと戻ってきてしまった。
「おいおい、マジかよ」
『キルケー、見てるんでしょ』
響が見上げる先には半球のカメラが天井に備わっている。思い返せば通路の天井には要所要所この半球が付いていた。
〈はい、残念ながらメインコアへの道は閉ざされているようですね〉
〈船内に残ったエネルギーでの稼働は最小限に抑えれば168時間は維持でるでしょう〉
〈伝導管へのルートはクリアされています。この間、まずは主機関の接続を優先すべきです〉
『つまりエネルギー確保をしないとこっから出さないぞ、ってことね?』
キルケーは答えることなく黙っている。
突然響は舞台上のような立ち回りで壁に手を沿わせながら走り回り、すとんと船長席に腰かける。
『ok、じゃあ伝導管の接続を優先しよう』
「お、おい」
言葉を発しようとするのを指を突き出し遮った。
『行こっか』
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