Uranium Fever その4

船長席から立ち上がりブリッジを出てると合図を待ちかね響の肩を叩いた。


『あぁ、もうミラー解除していいよ』


「ふぅ、あれはほんとにキルケーなのか?随分と雰囲気が違うようだけど」


『本来キルケーは一人しかいない、なのに今あの子はギャリーとこの船に二人いる』


「どういうことなんだ」


『精神分裂....かもね』


「AIにそんなこと起きるのかよ?」


『詳しいことはわかんない、今はとりあえず急いでコアを取りはずしてここを出よう』



そう言い目的のキルケーのメインコアを目指し通路を歩いていく。


中はもう半分と同様の有り様であり、所々火花が散りはするものの青い植物がないだけで白を基調とした飾り気のない一本道は、歩いているだけでも美術館を歩いているような気持ちにさせる。


初めてこの船にいた時には持ちようのなかった余裕に気づき自分の成長を感じ足取りが早まった。


響を意識し前へ出て言う。


「よし、さっさと済ませよう!」


意気揚々と進もうとすると突然頭上の隔壁が下り、あわや押しつぶされそうになる寸前、響が腕を掴み手前へと引き込んだ。


「痛ったた...」


打った腰をさすっていると響は互いのヘルメットを外し、力いっぱい俺の頬を殴りつけた。


『馬鹿!!』


その大声は船を名前の通り響き渡り、初めて聞いた彼女の叫びに身体は委縮し殴られた痛みさえ感じない。



『守まで...姉弟揃って!!!!』




『お願いだから...もう耐えられないから....』




ひょうきんで長身のはずの彼女は小さくカタカタと震え、涙を流す小さな女の子だった。


「ごめん、そうだよな」


自然と彼女を抱き慰めるようにして大丈夫、もう大丈夫だから。そう言い続けた。



俺だけじゃなかった。何事もなく姉さんも俺も忘れてどこかへ行ってしまった、それを責めようなんて思わなかったが....彼女もまた逃げていたんだ。


でもきっと響は逃げながらでも前に進もうとしてたんだ、だからここにいるんだ。


どうしていいかさえわからなかった俺とは違って.....






少し昔話をしよう、なんの変哲もない姉弟の話を。

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