Uranium Fever その3
『見えたよ』
前方を顎でしゃくると、地平線の先には大きな船の半身が横たわっている。幸い白い船体をむき出しに余計なものが根を張ってはいない。
「そういやあそこで何するんだよ」
『とりあえず今後船で生活できるようにしたいから、その為の修理に使えそうなものとキルケーのメインシステムだね』
「メイン?あいつなら憎まれ口を平気で叩いてるじゃないか」
『あの子は今、人格データと簡単なコマンドターミナルしか扱えないの。コアと設備さえあれば3Dプリンターガンで船の修理から、食べ物の原子配列を並べ替えて別の味にだってできる』
「神様じみてるな....あいつが舐めた口きくのもわかった気がする」
探査用スーツを纏いギャリーを降りると、響は工具箱を小脇に抱えながらも照美と同じように船体のパネルを外し入り口を開けた。
『さぁ行こうかワトソン君』
「ダウニーか?カンバーバッジか?」
『カッシング』
薄暗く配線が所々が千切れ、時折火花を散らしスーツの表面を黒く斑点付けた。
「お前はあのソナーやらないのか?」
『構造は頭に入ってるからね、変な植物もないし、船も痛んじゃうしね』
すこし期待していたが残念だ。
うす暗い通路を通り、ブリッジに到着すると彼女はその場にあるあらゆる機器の配線を弄り回し、ものの数分で室内の明かりがともり船のあらゆる機械が動き出した。
「お前凄いな!」
あまりの手際に驚き称えるが彼女は何処か不満げなまま、船長席に腰かけ肘をつく。
『ねぇ、船が墜落する前ってどうだったの?』
「どうっていきなり無重力になって、俺と照美が浮いて...」
あの時を思い返し、照美の胸の感触が頭の中で反芻され表情が緩んでしまう。
『細かいことは後で聞くから今はマジに頼むよ』
「あ、あぁ悪い。それでまたすぐに重力は戻って時々揺れたぐらいか」
そう、と彼女は深く考えこみ振り返り言う。
『守、ヘルメットにミラーかけて合図があるまで何も喋らないで』
「あ、あぁ」
聞いたことのない響の真剣な口ぶりにただ従うことにし、ヘルメット内部を外から見えないようミラーをかけた。
それを確認するとひじ掛けを叩く。
〈スキャンします〉
突然ブリッジ内にキルケーの声が響いた。
〈認証 整備班 ID 049 遠山 響〉
〈おはようございます〉
『はい、おはようキルケー。調子どうよ』
〈あまり良くありません、破損箇所多数 欠損部位多数 ニューラルネットワークに異常あり〉
このキルケーの声には抑揚があり感情が籠っているようで、あの人を馬鹿にした様子もない。
まるで別人だ。
〈深刻な問題を検知 警告 主機関を確認できません〉
〈直ちに伝導管の再接続を行ってください〉
どうも船の半分が折れて無くなっていることを分かっていないようだった。
ここには存在しない主機関に、今や醜く大きな花を咲かせている主機関に繋がっているはずの伝導管がただ外れていると思い込んでる。
『うーん、とりあえず技術長権限。キルケーシステムのコアイジェクトを』
〈システムに異常はありません、伝導管の再接続をメインタスクに切り替えます〉
『いいよいいよ、コアを取り外せりゃそれでいいの』
〈取り外して何を?〉
キルケーは今までのような声から一変しトーンを落とした。途端に緊張感がブリッジに漂い、響もそれを感じ取っていた。
『自分の目で状態確認したいのよ』
〈かしこまりました、コアイジェクト プロセス開始します〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます