Uranium Fever その2
揺れる車内で初恋相手と2人きり、こんな状況誰でも一度は憧れるだろう。
だというのに....この女はスピーカーに繋いだプレイヤーから流れるリズムにノり歌を奏でている。
ギャリーの運転席で響がハンドルを握り、俺は助手席で気まずさのあまり口火を切ることも出来ずにいた。
通る澄んだ声で歌う横顔をつい見つめてしまい、それに気づいた彼女は得意げに笑う。
『この曲覚えてる?ゲームで流れてた曲。探すの苦労したよ、タイトルも歌詞も覚えてなかったからさ~』
「なら俺に聞きゃよかっただろ...」
『引っ越してからドタバタしてたからね』
「年賀状ぐらい送ってこれただろう」
彼女は答えることなく再び鼻歌を挟み仕切りなおした。
『そうだあんた彼女できた?』
正直なところ期待しないわけではなかった。大体この手の質問は相手に気がなければすることもないだろう?
しかしこいつはこの単純さを手玉に取った上での質問だと気づき逆手に取る。
「さぁ?」
煽り笑いを含ませると響はすかさず返す。
『なんだ、ダブルデートでもしようかと思ったのに』
吹き出しに感嘆符が出ようとするのを寸前で止め落ち着いたフリで答える。
「嘘だろ」
『バレたか』
唇を突き出しお道化る響の、この小学生の頃からこの何一つ本音の見えてこない飄々とした態度、これにヤられてしまったのだ。
しかし、かつての初恋は既にノスタルジーの仲間入りを果たし、かつての悶えるような熱情は無くなっていた。
それからは二人、他愛のないことを身の上話を続ける。
最も話すべきことを避けて。
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