Love Potion No.9 その3
「続きか.....一体どんな...」
『相変わらずのボンクラ具合だね』
声の主を見ずとも誰かはわかっている。
『いやー休憩ついでに様子見に来たけど、精が出るね』
「どなたでしたっけ」
『もしかしてまだ引きずってる...?』
わかってる、何も言うな。
顔を見ないようひたすらシャベルを振るう中、響は軽い足取で前へと回り込み、小さなヘルメットにぴっちりと身体に張り付いたような服で顔を覗き込んできた。
『あぁこれ?軽装用スーツなら船に何着かあるから後で持ってきてあげようか?』
「いらん...」
『拗ねるなよ~振られたからって友達までやめたわけじゃないんだからさ!』
依由ちゃんとは打って変わって奥ゆかしさを感じられない、少しはソフトランディングできないのかこいつ。
昔っから何も変わらない....とは言い難いほど身体は十二分に変化していることしている確認していると、頭を掴まれぐわんぐわんと揺らされた。
『セクハラだぞ~変わってないねぇ』
無邪気で強引で楽し気....童心の懐かしさに顔が緩みそうになり堪えるが、それを見逃す女ではなかった。
『あの時は...ごめんね?』
あざとく、そしてわざとらしい上目づかいで古傷を撫でる。
「謝るな!余計むなしくなる!」
『でも、こうでもしないと許してくんないじゃん?』
「別に怒ってるわけじゃない....」
どう接していいか気まずいだけだ。ということさえ見透かすように船へと戻ろうとしている響に言葉をかけた。
「響!あれから....どうしてた....」
振り返ることもせず立ち止まり、らしからぬ落ち着いたトーンで答えた。
『そっちと同じ、変わってないよ』
その意味を計りかねているうちに既に姿はなく数年ぶりに再開した彼女の内は変わらず掴めずにいた。
あいつは....乗り越えたんだろうか。三人で撮った昔の写真が脳裏に浮かぶのを振り払うようにして作業を続けていると、砂は黒い肌を覗かせた。
あとはこの黒い土を船へ運んで中で種を植えて....それからどうするんだ?
もしこのまま生き延びたとしても、何もないこの星で何をして生きていくんだ。
既に地球に戻れるのか、などという夢物語は頭になく不安だけが頭の中を支配したままシャベルを手に作業を開始してから既に5時間ほどが経っていた。
膝は笑いシャベルを投げ出し、その場に倒れ込み空を仰ぐと星雲に似た塊が羽のような形で漂っている。
この大地と同じ茶色とあの植物のような青のグラデーション、ここに来てから緑色を目にしていない。
無性に緑が恋しくなる、せめて腰に差しレイガンでもあれば、そしてそのマズルフラッシュが緑だったなら....
とりとめもなく広がる妄想にさえ疲れ、閉ざそうとする意識に影が落ちた。
『お疲れ』
流れていく羽を背に照美が顔を出した。
「天使....?」
『バカ....過剰なお世辞は逆効果よ』
相変わらず呆れたような声で顔を背けるとシャベルを拾い上げると、黒い土を掘り運んできたのであろう数台のキャスター付きのボックスに入れていく。
起き上がろうとすると言葉で遮る。
『あんたはそこで休んでなさい、あとは私がやるから』
カッコつけようとして外に出たらこうだ、結局誰かにして助けて貰うばかり....
照美は持ってきた全てのボックスに土を詰め込み船へ運びだそうとしている。
最後の力をふり絞り立ち上がり、ボックス携え走り彼女へ追いついた。
「まだ疑ってるのかよ」
『....まぁ、グレーね』
土を船内にあるプラントルームへ運びこむと依由ちゃんから通信が入る。
『すぐに機関部へ来てください!』
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