Love Potion No.9 その2

ただひたすらに一点を掘り続けること一時間、人一人がすっぽりと収まるほど掘って気づく。



これ以上掘れないことに。



もしこの光景を彼女たちに見られたら....



誰かが来る前にと、急ぎ穴から出ようと手をかけると崩れ、周りの掘り出した砂が雪崩落ち首から下までが穴に埋まり身動きが取れなくなってしまった。


〈無知は獄門ほどの罪でしたか、データを修正しておきます〉


照美達の手伝いをしているはずのキルケーからの通信は、嘲笑っているように聞こえる。


「うるさい!助けなんて呼ぶなよ、自力で抜け出してやるからな」


闇雲に動かそうとするが、その度に少しづつ穴の下へ下へと沈みまるで底なし沼のようだった。


文字通り手も足も出ない状況にキルケーが見かね助け舟を出した。


〈お力添えしましょうか〉


「....どうするんだよ」


そう答えるとスーツの脇が細かい振動を起こし高っていくと、タイヤパンクのような破裂音の後に身体が飛び上がり穴から飛び出し、放物線を描き地面に打ち上げられた。


「事前に説明するぐらい....いや、もういい」


〈恐れ入ります、それでは作業に戻ります〉


唸りを上げ穴に落ちた砂をかき出し、もっと掘る範囲を拡げなければならないことを今になって気づき辟易とする



それでもと車一台分ほどのスペースまで広げ、この調子なら自力で


そう意気揚々とシャベルを振り下ろすとガチっ!と鈍い音にぶつかる。


手に取ると珊瑚の死骸のような白い塊が埋まっていた。


一体これがなんなのか、考えることもせず後ろへ放り投げると黄色い悲鳴が上がった。


『きゃっ!』


振り返るとそこには依由ちゃんが困惑した表情で立っている。



「ごめん依由ちゃん!大丈夫?」


『大丈夫ですよ、びっくりしただけです。』


既に白い塊は砂の大地に紛れどこかへ消えてしまう。


『守さん、少し休みませんか?』


ウィンクし手招き、ギャリーへ誘われる。


「で馬鹿みたいにまっすぐ掘って行ったら周りが崩れてさ、首から下が埋もれてまるで獄門だよ」


『それに加えて島流しですもんね』


「もうやってらんないよ~」



取り繕うように繰り出す慣れぬ笑い話も、打てば響く彼女の反応のまえでは充足感さえ覚えた。


その上、手にできたマメに絆創膏を貼り優しく揉みほぐしてくれる。



二人きりのリビングで団欒を楽しむこと1時間、ピピピとアラーム音が鳴り依由ちゃんは名残惜しそうに両手で覆いギュッと力を込め立ち上がった。



『続きはまた夜に』



唆る口ぶりに逃げるようにしてその場を後にし、その場にポツンと残るこの顔はあらぬ期待で鼻の下を伸ばす。


シャベルを握るその手の痛みは鈍化し、作業効率は上がりついに見えた目的の黒い土をよそに、依由ちゃんの最後の言葉を膨らませていた。

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