Livin For The Weekend その3
『そんな...ロプロスごと...』
彼女は息を呑みポツリと漏らしこちらへ向けて続けた。
『船底から隕石群が衝突…F6からB8までが壊滅的な損害…』
どうやら既に運び込まれていたクルーはロプロスごと今の爆発に巻き込まれたらしい。
互いがショックを受け言葉を失い呆然自失。刻々と迫るタイムリミットを前に動けずその場に座り込んでしまう
しかし彼女はガタッと立ち上がるような音を上げ嬉々として叫ぶ。
『待って!ポッドの信号が残ってる、それも二つよ!』
それを聞くや否や立ち上がり、彼女から送られてきたナビゲートを辿りポッドの元へ向かう。
演算処理を担うスペース、その半分は先ほどの爆発で消し飛び崖状になっている、そこへかぎ縄のような形でポッドツリーの葉が引っかかっている。
葉に手をかけ持ち上げようにも簡単には持ち上がらず、そこかしこに配されたコード類を無理やり取り外し、ポッドツリーに括り付けるとコードを肩にかけ引っ張るがビクともしない....
二つの命...今は、今なら助けられるんだ。ここでやらないなんてあり得ない。自分の中の自分を奮い立たせ叫んだ。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
前へ大きく踏み込みポッドが少し浮きその勢いのまま引き上げると、そっとポッドの上に手を乗せ身体が少し軽くなる気持ちだった。
モニターに表示されているカウントが黄色から赤へと変わり残り五分を切ったことを確認すると部屋を出て
命の重みを背負い合流地点へ向かった。
船尾の艦橋へと辿り着くと、大きなリュックを背負った彼女は頭を壁に押し当て呪詛のようにボソボソと独り言を繰り返し考え込んでいるようだ。
「どうした、脱出の準備は?」
『さっきの爆発でどのビークルもおじゃんよ...』
フッと力が抜け膝から崩れ落ち、彼女のだらんと垂れた手を見つめながら自身の頭のなかを様々な後悔が駆け巡った。
せっかくここまで来たのに、助けられたのに、なにか変わる気がしてたのに。
「まだ」
『まだよ!』
無策のやせ我慢は彼女の一案に遮られ、ニヒルな笑いを浮かべポッドツリーを見つめている。
『強引だし危険だけど…もうこれしかない』
「何か手があるのか!?」
『その二人も私たちも生き残ってみせるわ、これでね』
彼女はリュックサックから小さな六角形の箱を取り出し自信ありげに見えたその顔は引き攣っていた。
彼女が言うにはポッドツリーにパラシュートを取り付け、それごと船から脱出するという素人目にも分かる、ずさん極まる計画だった。
「ほんとにこれで大丈夫なのか?」
まずツリーにワイヤーロープで俺と彼女を繋げ、幹の4か所にパラシュートを固定するための留め具を急ぎ打ち付けるが
取り合ってはもらえず、彼女は複雑なコマンドをひたすらコンソールに向かって打ち込んでいる。
〔地表衝突まで残り一分 地表衝突まで残り一分〕
ほんとうにこんなもので助かるのか、不安が頭を廻り再び彼女へ目をやるとこちらに気づき一瞥をくれ叱咤する。
『なにぼーっとしてんの!?死ぬわよ!』
「これじゃやりづらいんだ!!」
ごわついた宇宙服越しの手で慣れもしない作業を終えると既にタイムリミットは30秒を切っていた。
焦りエアロックのレバーの傍へ駆け寄ると、船体が裂け始めまともに立っていられるような状態ではなく、扉を挟みすぐそこには炎がこちらへ迫り来る。
大きな揺れに彼女はバランスを崩し倒れると、リュックの中身をまき散らしてしまう。
残り二十秒、慌てて散乱した荷物を二人で拾うが時間がない
折れたヘッドホンや様々な機器を拾い集める中
〔残り時間 十秒 退避してください〕
そのアナウンスを受け、荷物を諦め彼女の腕を強引に掴みレバーを力いっぱいに降ろすと壁の一部が剥がれ、激しい気圧変化によって船外へ飛び出し宙を舞う。
ツリーと繋がる命綱が吹き飛ぶ身体を留まらせ幹にしがみつきパラシュートを展開しようとするが隣に彼女がいない。ワイヤーが切れている。
辺りを見渡すと数メートル離れた所に気を失い重力そのままに落ちていく彼女がすぐそこに。
落下していく激しい音で声を出しても届かず、彼女との距離が少しずつ離れていく。
震える四肢を動かしポッドツリーを這うようにして進み、彼女へ手を伸ばし必死に息を吸い込み叫ぶ。
「行くな!」
彼女は息を吹き返すように咳き込むとすぐさま自らの状況を理解し、伸ばし合う手を繋ぎ抱き寄せスイッチを押した。
葉を上にしてパラシュートは展開しゆっくりと落ちていく中、一命をとりとめ全てを出し切っったことで言葉を失っている。
船は中心を境に分かれ、それぞれの方向へ落下していく様子を彼女は悲しげな顔で見つめいていた。
そうだ。
船を出る一瞬前に掴んでいたものを思い出し、折れた片割れのヘッドホンを差し出す。
「これしか拾えなかったけど…」
きょとんとした顔でそれを見ると船の中での時 同様に俯き震え、怒らせてしまった。
焦り取り繕おうとすると、リュックの中からもう片方のヘッドホンを取り出しこちらの手の上へ重ねそれごと両手で包んだ
『ありがとう...』
その笑顔は沈みゆく恒星に照らされ輝きに満ちていた。
見惚れていると恒星は沈み、空には煌々と輝くオーロラにも似た光が真っ黒な宇宙を彩っている。
「凄い…なんて綺麗なんだ」
『照美でいいわ』
「え?」
満天の夜空から視線を戻すと彼女は先ほどとはまた違った優しい顔で手を差し出した。
『葉山 照美』
「俺は…星野 守 」
改めて握手を交わし互いを見据えると何かが胸の奥から湧き上がってきた、長らく感じることのなかった熱い何かが。
しかしその正体を突き止めることは出来なかった。
背後に迫る大きな竜巻によって……
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