第4話 ニュータイプ母

 私は母親なのだろうか。母親ってなんだろう。


 そんな事をふわふわと考える。母親は母親でしかないだろうが、息子が生まれた日から単独でこの子の親である。この子にとって親は私のみだ。


 私が思う両親は飴と鞭。どちらも飴では虫歯になるし、どちらも鞭では痛いだけだ。厳しく叱りつけ、逃げ場となる、そのどちらをどうこなせばいいのか。そして、目も二つのように、二つの視点で子どもを立体的に捉え、あらゆる角度から「人」としての面を見れるのでは。そうしてこの子の持つ性質を見つけ出し、導く事ができるのでは……。


 そうなると、私は両方を持ち合わせなくてはならない。飴であり鞭であり、母親であり父親である、一人であらゆる側面を見れる人間でなくてはならない……。


「ママパパはどうだろう」


 真剣に考えた結果、呼び名を「ママパパ」とすればいいんじゃないかな、となった。


 バァバや友人や同僚、みんなに否定された。死んだ魚の目をされた。


 だって、私は母親だけど父親にもなりたい! この子にとって、父親でもありたいんだ! ニュータイプの親になるんだ!


 継母という言葉に似てるし、自然でいいんじゃないかな、ママパパ。


 そうだ、声も変えてみようか。母親役の時は裏声、父親役の時はテノール。服装だって、半分スカートで半分ズボンとかならいけるかな。(大昔、そういう仮装大賞を見た気がする)父兄参観の日はスーツで決めて舘ひろしみたいな渋かっこいい親父で参加するのはどうだろう。とても素敵ではなかろうか。


 なんだかんだでみんなに否定された。やめておいた方が子どものためと言われてしまえば、返す言葉もない。


 いいと思ったんだけどな、ママパパ。


 後に、「息子よ。実はお母さんはお父さんでもあるんだよ」と伝えてみた。すると、


「え……? おと……おか……え? おと……さ……ん……?」


 大変、混乱された。


 巧妙な手つきの手品師にでも遭遇したように、何が起こったかわからないと、息子の目の焦点がぶれた。こりゃいかん。


 息子の記憶に残らないよう、それから二度と言わないようにした。もちろん、ママパパとも呼ばせていない。


 息子が中学生になったらこの時のことを言ってみようか。そうしたら、息子はなんと答えてくれるのだろう。


 そんな母のくだらない妄想を笑って突っ込んでくれる、話の通じる男になればなと思う今日この頃だ。

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