第17話 無題

間が空いてしまい申し訳ないです。

入院したり色々とあったもので…

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 工房としてはかなり立派な作りだ。地上四階建てになっている。

 ビルボさんがノックすると中から返事が有った。

 「はいよ~、開いてるよ!」

 威勢の良い感じだが、何か聞き覚えが…

 ビルボさんが中に入るのに続いて叔父ちゃん、俺が室内に入る。

 中に居たのはドワーフ。しかも先日のドワーフだった。

 向うもこちらを見た瞬間に、

 「げっ!」

 言って顔が蒼くなる。

 叔父ちゃんは察したらしく、

 「何かあったの?」

 小声で聞いて来た。

 掻い摘んで事情を説明する。

 目を白黒させるドワーフに怪訝な顔を向けながら紹介をするビルボさん。

 「こちら鍛冶ギルドのマスターでラスチャック氏、こちらは我がギルドに所属しておられるタケシ様とカズキ様、お見知りおきを」

 それにしても、やっぱり名前が斜め上すぎる。傷ついた獅子賞とかの勲章を持っていたりしないだろうな?

 その言葉を聞いたラスチャックさんの顔が蒼から白へと変化して行った。おそらく叔父ちゃんの名前に聞き覚えが有ったのだろう。

 人の顔色ってこんなに変わる物なのねw

 「あぁ、すまないんだけど、鍛冶設備と道具を貸して欲しいんだけど?」

 叔父ちゃんがにこやかに言う。何か企んでいる時の顔だ。

 「は、はい! 喜んで!」

 殆ど脅迫だw

 「あ、時にラスチャックさん、あの刀、まだ見たい?」

 ラスチャックさんの顔が蒼、白、赤を行ったり来たりしている。面白い人かもしれない。

 「い、いえ……はい!」

 どっちだよw

 面白いので無言で近付き、佩刀を鞘ごと抜いて差し出してみる。

 「あ、いえ、これは持てないので…」

 言った途端に叔父ちゃんが畳み掛けた。

 「多分、大丈夫だと思うよ」

 半信半疑な表情を浮かべるラスチャックさん。恐る恐る刀に手をかける。

 そこで手を放してみた。

 別に何事もなく持てている。

 「その刀、女神の加護があるから、おそらく持ち主が許可した人間以外持てないのだと思うよ」

 叔父ちゃんの解説が有った。俺も知らなかったよ、そんな性能。

 好奇心に満ちた目で眺めまわすラスチャックさん。やがて刀を抜こうとして頑張っているが抜けない。

 ドワーフって結構力があるんじゃなかったっけ?

 「あ、それ、そのままじゃ抜けないです。鞘の上端、金属で覆いがしてある所を思い切り握って親指で鍔を押し出して下さい」

 日本刀を使う上での基本動作、鯉口を切ると言う奴だ。意外と知っている人が少ない。もっとも日本刀なんて使わないもんねw

 言われたラスチャックさんはそのままやってみる。と簡単に鯉口を切った。

 そのままスラリと刀を抜いてしげしげと眺める。

 「素晴らしい…」

 えっ? そうなの?

 「この辺と言うかヨーロッパ全般の剣は鈍器なんだよ」

 叔父ちゃんが言う。

 「この地肌に入っている細かい紋は?」

 「それは普通の鉄と玉鋼と言う特殊な鋼鉄を張り合わせて何度も折り畳んでは伸ばしを繰り返した跡です」

 「この刃先にある白っぽい模様は?」

 「製法的に先に刃を付けるので、それが鈍らない様に粘土を水に溶いて塗ってから焼き入れをします。その跡です」

 「この溝は?」

 「血抜きと言って、切った相手の血液や脂で切れ味が鈍らない様にするための溝です。そこに集めて刀を振る事によって全てを振り落とします」

 聞いていて俺でも参考になった。知らなかったよそんな事。この人、刀の作り方も知っているんじゃないだろうか?

 「う~む、それにしても解せぬのはこの柄にある木釘、これは何なのか?」

 「それは目釘と言って、それ一本で柄と刀身を止めているんです」

 叔父ちゃんが言うと、

 「ほ、本当か!?」

 何か食い付いた。

 「折れそうに思うのですが、戦闘前に水や酒、何もなければ唾液で濡らせて置けば意外と折れないんです」

 目を丸くしたラスチャックさんが、

 「ぬ、抜いて見ても良いか?」

 そう言えば中子を確認した事は無かった。なのでコクリと頷いた。

 「お~い、誰か釘絞め…」

 言った瞬間、

 「ありますよ」

 叔父ちゃんがポケットから目釘打ちを取り出した。専用の道具だ。

 ついでに玄翁も渡す。

 「それで目釘を打ち抜いて、ゆっくり」

 言うとラスチャックさんは結構器用に目釘を抜く。

 「利き手の反対側で刀を持ったら水平にして、利き手で自分の手首を叩いてください」

 ラスチャックさんは言われた通りに左手で刀を持って、その手を左手で叩く、チャッっと音がして拵えが緩んだ。

 おいおい、それ、俺がまともにできるようになるまで何週間かかかったんだぞ?

 「そのまま刃の反対側を持って引き抜けば刀身が抜ける、間違っても刃の側を持つなよ。指が無くなる」

 叔父ちゃんが言うと、ラスチャックさんの手が一瞬止まった。

 だが、一瞬の事で後は躊躇なく引き抜く。鯉口と鍔が落ちるが、

 「気にしなくて良い」

 叔父ちゃんの一言で、ラスチャックさんは繁々と刀身を見ている。

 「こんな剣、見た事が無い……」

 そして中子を見た瞬間自分の声が漏れた。

 「あ、銘がある」

 何かが彫られているのである。

 普通は、造った刀匠の名前が彫ってある部分だ。

 「どれ…」

 叔父ちゃんが手を出すと、ラスチャックさんは名残惜しそうにソレを渡す。

 叔父ちゃんが手にした刀の中子を見る。そして裏返した瞬間、

 「プッ…」

 楽しそうに吹き出した。

 「見てみ」

 手渡されたので、受け取って確認する。

 刀匠名は「創世神」裏には「銘両断丸」と、ご丁寧に漢字で刻まれていた。

 自分もニヤ付きながら、ラスチャックさんに刀を手渡す。

 当のラスチャックさんはキョトンとした表情だ。当然漢字何か読めないだろう。

 「いや、なに、そこに刻んであるのは作った者の名と、刀の銘なんだが、我々が産まれた国で使われていた文字で、読めないだろう?」

 「は、はぁ」

 ラスチャックさんの頭の上に疑問符が見えるような気がする。

 「作った者の名は『創世神』で刀の名前は『両断丸』だそうだw」

 ラスチャックさんは、一瞬手にしている刀を取り落としそうになった。

 確実に女神の悪戯だろう。お蔭で意に沿わない二つ名を貰ってしまったわけだが。

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若輩勇者の冒険記 原 聖 @HaraTakashi

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