第15話 爺さんもてるw

 バイラルは険しい顔でポーションを作っていた。

 かなり特殊なポーションである。昔、自身が研究の末に作り出した物だ。

 切っ掛けは、撲殺の勇者様がモンスターの大軍を目にした時に「気化爆弾でもあれば楽なのに…」と呟いたらしい。

 それを聞いた者が自分に「気化爆弾とは何か?」と尋ねに来た事だった。

 「気化」も「爆弾」も知っているが、それを組み合わせた物は知らない。「気化」は液体が蒸気やガス状になる事、「爆弾」は爆発の魔法と同じ様な効果が得られる物質の事だ。主に鉱山開発や石切場で使われる。

 そこで、ふと思った。「何らかの気体が爆発すれば大群相手に効果があるのではないか?」と。

 もしかしたら魔王軍相手でも効果があるかもしれない、どうせ勇者様に貰った命だ、研究してみよう、と思い立った。

 数年の歳月を費やし、実験も成功した。凄まじい威力があって自分でも驚いたのを覚えている。

 実験した辺り一帯のモンスターが全滅したのだ。危うく自分も撒き込まれる所だった。

 その後、街に帰ると勇者様が魔王を倒したとの報でお祭り騒ぎが起こっていて、結局危険すぎるとの判断でお蔵入りにした物である。

 レシピは書き残すと危険なので自分の頭に秘蔵していた。

 それを思い出しながら、実験の結果も思い出して、近隣に被害の及ばないであろう量を調整しつつ作って行く。

 一本目の緑色のポーションが完成する。ちょっと特殊な形をした小型のポーション瓶にこれを入れ、入念に栓をする。

 別にこれ単体では爆発はしない。安全のためだ。

 粗熱を取る間に二本目に取り掛かる。

 丁度、一本目の粗熱が取れた頃に二本目も完成する。紫色のポーションだ。これも先程と同じポーション瓶に入れ入念に栓をする。

 この瓶は栓を外したり割ったりすると、中の液体が即座に気化する特殊な瓶だ。そして一本目と二本目の気体が混ざると即座に爆発性の気体になる。

 やはり粗熱を取るために作業台に放置。

 そして三本目に取り掛かる。

 これは粗熱など取れる前に完成した。白いポーションである。

 こちらは通常の小型ポーション瓶に入れ、これも入念に栓をしておく。

 これは遅発性の発火薬で、薪などにかけてしばらく置くと火が起きるポーションだ。昔、需要があるかと思って開発したが、ほとんど売れなかった。

 粗熱を取る間に、今度は箱の準備をする。物入れの中から探し出した。自分の物だと解る意匠の入っていない化粧箱である。

 埃を払って中に梱包材を敷く。そこに三本のポーションを入れ、上からも梱包材を入れて置く。これで割れる事は無いだろう。

 そして、紙にメモを書いて上に乗せ、蓋を閉めた。

 メモの内容は簡単、「先般は倅に素晴らしい指輪を賜り、ありがとうございます。細やかな礼の品です。中々に良い効果がありますのでご笑納ください。お使いの際は三本の栓を同時に開けしばしお待ちください。フォルモッサ伯爵様へ、バイラルより」

 別に嘘は吐いていない。詳細を省いてあるだけだ。

 紙であれば羊皮紙と違い爆発で消し飛ぶか燃えるかするだろうから証拠も残らないであろう。

 その小箱を手に、家を出て運送ギルドへと向かう。

 運送ギルドの窓口でフォルモッサ伯爵邸への配達を頼む。

 「一等街区ですか? 少々割増しになりますが?」

 と言われるが、笑顔で頷く。

 そして言われた料金より少し多めに払い、

 「中身はポーションなので事故の無いように頼む」

 言い置いてギルドを後にする。


 その夜、一等街区のフォルモッサ邸で謎の爆発が起こり、伯爵が亡くなったとのニュースが街を駆け抜けた。



 朝食を終え、茶を飲みながらまったりする三人。

 カララさんの淹れてくれるお茶はいつも美味しい。今日のお茶は叔父ちゃんの調達してきた「ホワイトティー」と言う物らしい。

 かなり色は薄いが、紅茶の様な風味とかすかな甘みがある、美味しいお茶だ。

 そのまま三人で雑談に入ると、程なく予定の時間になったので家を出た。

 カララさんからも、色々と話が聞けた。何と彼女は族長の娘らしい。

 跡取りとかは良いのか聞いてみたが、ハルルと言うお姉さんが居るので問題ないとの事。

 ちなみにエルフは男女関係なく長子が家を継ぐ風習らしい。下の子は分家になるのだとか。

 カララさんは成人した後、分家は作らずに里を出て冒険者になったらしい。彼女曰く「広い世界を見てみたかった」との由。

 そんな事を考えている内にダラム氏の露店が見えて来る。何やら品出し中だ。

 昼になろうかと言う時間なのに開店が遅かったのだろうか?

 「こんちは!」

 声をかけると、すぐにダラム氏が振り向いた。

 「あ、旦那いらっしゃい!」

 愛想の良い笑顔で言う。

 「今日は遅いの?」

 聞いたら、ダラム氏が簡単に説明してくれた。

 「実はタケシ様が午前中に持ち込んだロックウッドのせいで店が大混乱になりまして…初めはドワーフ連中が奪い合いをしていたんですが、その内店先で勝手にオークションまで始めやがって、揚句に噂を聞き付けたドワーフまで集まって来て大騒ぎで…この街の木工ギルドの職人のほとんどが来てたみたいです」

 聞くだに大変そうだ。

 「お蔭で大金貨700枚もの売り上げでしたw」

 すげっ! 材木だけで7000万かよ…ロックウッド恐るべし。

 「もっとも、近来希に見る大きさだったみたいで…」

 「あ~、やっぱアレってデカかったのね」

 思わず口から洩れた。

 「はい。ドワーフの木工職人が言っていました、この数百年見た事の無い太さだと」

 そんなにレア物だったのか…

 「ついでに、戻って来たタケシ様から樹皮の代金として大金貨400枚程頂きました。すべて老師のお買い上げだそうで」

 「ぶっ!」

 思わず噴き出した。木一本で一億一千万? どうかしている。

 つか、露店で扱う金額か? この世界の常識を疑ってしまった。

 別れを告げて、今度はギルドへ向かう。

 受付で挨拶をすると、

 「ようこそ、丁度叔父様がおいでです。いつもの部屋へどうぞ」

 とニ案内しようとしたので、

 「場所は解りますのでそのままで」

 言うと、ちょっと残念そうな顔をした。何だろう?

 部屋の戸をノックして引き開ける。

 「失礼します」

 言いながら部屋に入った。ソファーで何やら相談していたらしい叔父ちゃんとギルマスの視線が一瞬こちらに向く。がすぐにテーブルに視線を戻して相談を再開した。

 「丁度良い、お前もこっちに来て座れ」

 叔父ちゃんが言う。

 どうやら金属の調達の話らしい。

 素材に関してはギルドで賄えたようだ。

 後は借りられる工房の選定らしい。色々二人が相談して決まった様だった。

 「一緒に来るか?」

 との叔父ちゃんの問いに、二つ返事で首肯する。何をやるのかを見てみたい。

 そのまま、ビルボさんの案内で工房へと向かった。

 「ねぇ、カララさんて叔父ちゃんに惚れてるの?」

 道すがら聞いてみる。

 「違うよ、ありゃ爺ちゃんにぞっこんだよ」

 即答されたw

 「無理もないか、曽祖父ちゃん若く見えるし格好良いし、穏やかだし…」

 会って見ての感想を言ってみる。

 「騙されるな、若いのは一度霊になった時の年齢だし、あれ700歳近いはずだぞ。穏やかなのだってその年月で穏やかになっただけで、若い頃は親父を差し金(大工が使う直角出しや寸法を測る工具の事だ)で引っ叩いたらしいし、今でも怒ると凄いぞ、俺なんか目じゃない」

 怖い事を聞いた気がする。叔父ちゃん、怒ると物凄く怖いんですけど?

 「大体、格好良いって、俺も親父も爺ちゃんも同じ顔だろうにw」

 そうなのだ。曽祖父ちゃんより前の事は解らないが、この家三代続けてほぼ同じ顔、同じ声だった。

 電話を掛けた時など爺ちゃんか叔父ちゃんかで混乱する事がある。

 古い写真を見せてもらった事があるが、正直三人が同じ年齢だったら見分けが付かないかもしれない。

 「人の事より、お前はどうなんだよ?」

 唐突に言われて少し焦った。

 「え? 俺もてないし…」

 慌てて言う。

 「嘘こけ、ギルドの窓口嬢が片っ端からお前にコナかけてるじゃないかw」

 あら? もしかしてさっきのって…

 「あれってそうなの?」

 聞いてみると、

 「「気付いてなかったのか…」」

 ビルボさんまで声をそろえた。結構恥ずかしい。

 「ギルドで噂になっていますぞ。誰が落とすか賭けまで始まっているらしいですし」

 ちょっ! おまっ! 余計恥ずかしくなるじゃないか!

 「そう言う叔父ちゃんこそどうなの?」

 照れ隠しに細やかな反撃を試みる。

 「ん? だって俺、妻帯者だもん」

 軽く流された。

 「え? 離婚したんじゃ?」

 聞いてみると、

 「あぁ、向うもこっちも忙しくてまだ離婚届を出してない」

 との返事。三年越しかよ…

 そうこうしている内に工房に着いた。

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