第14話 王と近衛

 翌日は三人とも別行動だ。

 叔父ちゃんは朝一で家を出た。

 俺と曽祖父ちゃんはもっと後の予定だ。

 カララさんもキッチンで朝餉の支度をしている。本当に朝から晩まで良く働く人である。

 曽祖父ちゃんと居間で茶を飲みながら色々と話す。

 色々と叔父ちゃんの子供の頃の話など聞けて面白い。流石守護霊だった人、産まれた時から知っているらしい。

 他にも射撃のコツやら、大工のコツ等、色々と教えてくれる。

 何か楽しいひと時だ。

 そんなこんなの話をしている内にカララさんが朝食の支度をしてくれた。

 トーストに目玉焼き、バターとコンソメスープらしき物まで付いている。結構豪華。

 曽祖父ちゃんの方は目玉焼きの代わりに、何か瓶に入ったジャムらしき物が添えられていた。

 ん? と思い声をかけてみる。

 「カララさんは一緒に食べないの?」

 慌ててカララさんが、

 「いえ、私は使用人ですし…」

 と答える。

 「一緒に食べようよ。みんなで食べた方が美味しいよ?」

 言うとカララさんはキョトンとしていた。

 曽祖父ちゃんの方を見ると、小さくコクンと頷いている。

 カララさんは小さく、

 「…はい」

 と言って照れくさそうな顔をした。

 「あ、ついでにソース持ってきて」

 キッチンへ向かうカララさんの背中に声をかける。

 目玉焼きはソース派だ。

 と、そこまで思考を進めてから、ふと思った。この世界にソースはあるのだろうか?

 が、カララさんは、

 「はい」

 返事をしてキッチンへ消えた。良かったあるらしい。

 カララさんは、御盆に自分の食事とガラスの瓶を載せて戻ってくる。

 内容はほぼ同じ。目玉焼きではなく、スクランブルエッグになっている。

 席に付いた所で「「「いただきます」」」

 朝食が始まった。



 街は朝から賑わっている。この街を一人で歩くのは久しぶりだ。

 しかし昨日は久々に本気で飲んだ。ウオッカ一本に細々色んなのを一升くらい飲んだ。

 爺ちゃんも同じくらい飲んでいたような気がする。和樹も結構飲めるらしくグラッパとアルヒを一本ずつ飲んでいた。

 カララまで日本酒一升にワインを二本ペロッと飲んでしまった。かなり行ける口だったらしい。ついでにラムネも三本飲んでいた。

 気に入ったらしい。

 また作って置こう。とは言ってもラムネは簡単(炭酸と砂糖、酒石酸、もしくは柑橘果汁があれば良い、ラムネの語源はレモネードだ)なのだが、生ワインの白が面倒くさい。

 この世界には白ワイン用の白葡萄がないので、赤ワイン用のブドウの皮を剥いてから搾汁しないとならない。結構な手間だ。

 品種改良って簡単にできるのかなぁ? 戻ったら白葡萄の歴史を調べてみよう。

 そんな事をつらつらと考えながら歩いていると、ダラムの露店が見えてくる。

 露店を広げようとしている所だった。その脇にはバイラル老師もいる。

 はえ~な、オイ。

 少し足を速めて露店へと向かう。

 「おはよう!」

 二人に声をかけると二人がこちらを向く。

 「あ、旦那!」

 「待っておりました!」

 そんなに火急なのか?

 まだ何も商品が無い露店にポケットから出したロックウッドの樹皮を置く。

 「これ約束の品」

 「おぉ、乾燥具合も最高じゃ…」

 バイラル老師が呟く。

 「でも旦那、これ、取り扱いが少ないらしくて調べても相場が解らないんです…」

 ダラムが困った顔で言う。

 「聞けば?」

 言いながら老師を指さしたら、老師は、

 「全部言い値で買い取るから言え」

 無茶な事を言い出した。

 「急ぎなのか?」

 老師に聞くと、

 「せがれの容体が悪化して、今日明日が山なんじゃ…」

 あぶねぇ事を言い出す。

 「すまん、この店を通した事にしておいてくれ、あとで顔を出す!」

 言いながら樹皮をポケットに戻して老師に声をかける。

 「おっさん、おぶされ!」

 一瞬躊躇した老師だったがすぐに背におぶさった。

 「しっかり掴まってろよ!」

 言い置いて石畳を蹴って建物の屋根に上がり、走り出す。屋根を本気で蹴ると抜けるので、その辺の加減は忘れない。

 行先は老師の家。昨日和樹が貰っていた名刺を見ている。

 三分程だろうか、建物の屋根を走る、と言うより飛び跳ねつつ老師の家の前に着地した。

 何か背中から「…あぅ、あぅ…」みたいな声が聞こえてくるが気にしない。

 老師を下ろしてから、

 「しっかりしろ!」

 老師の目に一瞬で光が戻る。

 「あぁすまん。ちょっと驚いただけだ」

 言った老師はすぐに扉を開けて中へ入った。続けて自分も入る。

 入って二部屋目が工房だったようだ。すぐに続いて入りながら、樹皮を取り出す。

 老師は無言で炉に火を入れ、作業を始める。

 そして、急に口を開く。

 「すまんが、その樹皮を粉にできるか? 量はこれに一杯程度でかまわん」

 大型のお玉を見せる。

 「乳鉢は?」

 老師が指さしながら、

 「そこに並んどるのなら、どれを使っても構わん」

 指さす方を見れば、様々な大きさの乳鉢と乳棒が並んでいた。

 その中から、比較的大きな乳鉢と乳棒を持ってきて目の前に置く。

 樹皮を取り分けてナイフでコマ切れにして放り込むと、ゴリゴリと粉末にして行く。ちょっと力加減を間違って微細粒までやってしまったのは内緒だw

 その作業を、老師の言った分量を越えるまで繰り返す。作業自体は簡単だった。

 しばしして、色々と作業を続けていた老師が、

 「できたか?」

 言ったので、完成品を目の前に出す。

 「これで良いだろうか?」

 老師は刺してあった乳棒で軽くかき混ぜ、

 「充分以上じゃの。タケシ様は儂に弟子入りするつもりはないか?」

 振り向いて作業を続けながら言う。

 老師の作業は、一見するとかなりアバウトに見える。計量することなく材料を入れて混ぜていくからだ。

 ロックウッドも乳鉢から直に注ぎ入れて適当な所で止める。

 2、3度かき回すと、ほんのひとつまみを足した。

 「別に研究したいことはないしなぁ…」

 老師の肩がちょっと落ちた。

 老師がかき回している鍋の中の薬液は、段々と色が薄くなって行き、最終的に薄い緑色に落ち着く。

 やっと手を止めた老師は、手にしていた撹拌用の棒を鍋から出すと流し台へと持って行った。

 「そうか、それは惜しいな。タケシ様ならきっと稀代の錬金術師になれるぞ」

 別に錬金術師になる気は無いし、必要なポーション位なら作れる。

 「時に甥御殿はどうじゃろ?」

 あいつも結構、小器用だし覚えも早いのでなれるだろう。だが、

 「それは本人に聞いてくれ」

 としか言えない。

 親戚とは言え、他人の人生に口を挟むつもりはない。若い頃散々やられて嫌だった事だからだ。

 ライターの道を選んだ時も色々と言われた記憶がある。往時、家の周りが結構うるさい場所だったので夜中に仕事をしていた。

 初めの頃は雑誌記事くらいしか仕事が無く、当然俺が書くような雑誌は親類は読まない。親父だけは献本のあった銃器類の専門誌は良く読んでいたが。

 最終的に「甲斐性無しの蝙蝠野郎」とまで言われた。

 だが、仕事も増えて自分の名前で本が出版されたり、TV番組のエンドロールに名前が出るようになると、全員が一斉に掌を返す事になる。

 ついでに知らない親類や覚えのない自称友人が湧いた。お蔭でペンネームを使うようになったくらいだ。

 そこまで応援してくれていた姉や義兄と伯母、大叔父夫妻以外はすべて縁を切った。かなり心が軽くなって自由に仕事が出来るようになったのは副産品だろうか?

 食い下がってくる奴には「いえ、わたくし『甲斐性無しの蝙蝠野郎』ですので、と言うと皆黙ってしまった。

 そんな事を思い出していたら目の前にいる老師が立ち上がる。

 鍋の中を眺めて、

 「ん、もう良かろう…」

 どうも今まで煮詰める工程だったらしい。

 炉の火を落とし、ポーション瓶と片手鍋を手に大鍋に近づき、鍋で中身をしゃくってポーション瓶に注ぐ。

 一滴もこぼさないのはかなり器用だ。

 キュッと瓶にコルクで蓋をして急ぎ気味に部屋を出ていく。後に続いた。

 

 二階にある息子さんの寝室。

 ベッドの上に息子さんはかなり具合が悪そうだ。

 エルフは元々細面で色の白い人が多いが、頬がこけて青白い顔をしている。

 老師は瓶の栓を抜くと、自作のポーションを息子さんの口に流し込んだ。

 何かちょっと嫌な感じがしているので、探知系のスキルの全てを全開にして見守る。

 ポーションを口にした息子さんは劇的に顔色が良くなって行く。

 老師もホッとした顔である。

 「これで一安心じゃわい」

 言葉を発した老師を制して、

 「待て、何か変だ…」

 病気自体は治ったようだが、その病気の原因になっている何かが1%位残っていると、俺のスキルが告げている。

 全身をくまなく探索してみると、何かが左手の先の方にあった。

 左手を見ると中指に精緻な紋様が意匠された指輪があるのでそれを抜き取る。

 と、息子さんの異常はきれいに消えた。

 「これは?」

 指輪を見た老師が、

 「確かフォルモッサ家の当主から貰った物だと言っていたが…」

 見覚えがあるらしい。

 「フォルモッサってのは貴族?」

 首肯しながら、

 「確か伯爵家だったはず」

 その言葉に顔をしかめた。

 「これ、呪いの指輪だよ。息子さんの病気は全部これのせいで簡単には解らないように偽装してある」

 老師の瞳が見開かれる。

 「どうするね?」

 問うと、

 「錬金術師に喧嘩を売った事、後悔させてやる…」

 呟いた。

 「では、この指輪は預かる。後顧の憂いなく何でもできるように手配しておこう」

 言うと老師が頭を下げた。

 「本当に有り難い、何度も何度も命を救われた上にこのような事まで……」

 頭をなかなか上げない老師に向かって、

 「気にすんな、俺も気にいらねぇ…」

 言うと、顔を挙げた老師はニッコリと悪い笑みを浮かべていた。



 老師の家を辞去した俺は、急いでダラムの露店へと戻る。

 「よう! 待たせて済まん。色々あってな」

 声をかけるとダラムは、

 「あ、何が有ったか心配していました…」

 ホッとした様な顔を見せた。

 「まずこれ、バイラル老師から貰った売上代金」

 大型の革袋を差し出す。覗いて見たがおそらく大金貨で400枚前後だろう。

 受け取ったダラムは中を覗いて、

 「え、え、え?」と声を上げている。相場が思っていたより高かったらしい。

 「後、これ約束の品」

 言いながら枇杷の葉、枝、丸太を出して行く。

 「どこに置くね?」

 丸太が邪魔なので言うと、後ろから声がかかった。

 「俺が買うからそこに置いてくれ!」

 見ればドワーフだ。家具系の人なのだろう。

 が、横合いから次々に声がかかる。

 「卑怯だぞ!」「俺も買う!」「こっちにも寄越せ!」等など。

 ダラムに向かって、

 「処理できる?」

 と聞くと、小声で、

 「任せて下さい」

 言ったのでとりあえず辞去する。

 その足で一等街区へ向かった。余分な手間だ。



 二等街区から一等街区への門衛は普通に通してくれる。

 武器は帯びていないし、ギルドの証明もあるからだ。

 そのまま歩いて王城へと向かう。

 城門へと向かう橋の手前に衛視が立っている。その衛視に、

 「私の名はタケシ・エビハラ、王への謁見を賜りたい!」

 宣言する。

 衛視が怪訝な顔をして応える。

 「痴れ者が、去れ!」

 カチンと来て宣言。

 「押し通る!」

 言い放ってから、そのまま進もうとすると槍を向けて来た。無視して進む。

 背中にツンツンと感触があるので、振り向き様に裏拳を放ったら二人が綺麗に消し飛んだ。

 橋を渡ると城門前にも何人かの衛視がいる。

 同じ宣言。

 「私の名はタケシ・エビハラ! 王への謁見を賜りたい! 文句があるなら押し通る!」

 全員が武器を構えた。

 自分の来ている服は、下手なフルプレートアーマーより防御力が大きい。通常の武器では傷も付けられないだろう。

 先程の様子を見ていた衛視たちは煮え切らない様子。

 なので、

 「やるのかやらんのか、はっきりしろ! 王に伝言できないなら殴り殺すぞ!!」

 大声で言い放った。

 全員が固まる。

 ちょっと待っても動きが無いので、

 「押し通る!」

 宣言して城門を蹴り飛ばした。

 ぶっ壊れた門扉が奥の方まで飛んで行く。色々と巻き込んだ様だ。

 そのまま無人になった廊下を進んでいくと、王の謁見室の扉が見えて来たので、その前で立ち止まりぶん殴って壊した。

 中に居た人間は呆然としている。

 なので乗り込んで大声で言った。

 「我が名はタケシ・エビハラ! かつて「撲殺の勇者」と呼ばれた者だ! 王への謁見を求めたら非礼の数々、何とするか!」

 玉座にいた男が一瞬で気を取り直し大声で叫んだ。

 「騙り者を殺せ!」

 面白い。近衛らしき奴らがワラワラと湧いて來る。

 数がそろった辺りで言う。

 「面白い、確認すらしないのか? 皆殺しにしてやろうw 死にたい奴から掛かって来い!」

 宣言してから棒立ちで待つ。

 数人の近衛が槍で突いて来た。が、槍は通らない。

 二人の兵は、すぐに槍を手放し剣に持ち替える。そして一人は脳天を、もう一人は首を狙ってきた。

 敢えて何もせず、そのまま受けてやる。

 衝撃音とともに二振りの剣がはじき返され、ついでに変な音が続いた。見れば頭に当たった剣の方は半ばから折れている。

 当たり前だ。前の大戦で俺の事を傷つけられたのはヒューマン、モンスター、魔族を含めて一種類だけだった。

 グレーターデーモンとか言う何処かのゲームで聞いた事のある、悪魔の出来損ないみたいな奴だけ。あいつの使う魔法、小型の核爆発を起こす奴は流石に火傷をした。

 「どうした? そんな物か?」

 言うと兵の顔に脅えが走る。

 委細構わずに右の拳に全力を載せフックを放つ。

 目の前にいた、俺を攻撃してきた兵達が衝撃波に巻き込まれ、鎧ごと挽肉になりつつ左手の壁に叩きつけられる。

 ついでに轟音と共に壁に大穴が開き、余波で室内にいる俺以外が尻もちをついていた。

 俺に敵意を向けたヒューマンに関しては別に何の痛痒も感じない。

 「で、貴様も挽肉になりたいわけだ?」

 近付きながら言うと、王の顔が赤蒼を行き来している。

 「人の事を騙り者とか言いやがったな、このべらぼう野郎。この城まとめて更地にしちまおうか? 舐めてんじゃねぇぞこの餓鬼が!!!」

 怒鳴った瞬間、王と側近、室内の兵が気を失った。やりすぎたかしら?



 王が目を覚ます。俺はすぐ側でそれを見下ろしていた。かなり冷たい目つきだっただろう。

 慌てて起き直った王が凄い勢いで土下座する。ちょっとカチンと来て頭を蹴り飛ばしたくなったが何とかこらえた。

 謝るなら初めからやるなよ。

 「……も、申し訳ない! よもや本物の勇者様とは思わず…」

 更にカチンと来て、無言で相手の両耳を持って持ち上げる。

 俺の方が背が高いので、王の足は床から10cmばかり浮いていた。

 「…ぁ…ぅ…ぃ…」

 何やら声にならないうめきを上げている。人間、本気で痛いと声が出ない物だ。

 「何を上から目線で物をくっちゃべっている? 餓鬼! そんなに殺されたいか?」

 言いながら手を放すと、膝と腰が砕けて尻もちを付いた。腰が抜けたと言う奴だろう。

 「今日はちょっとした話が有って来ただけだ…」

 言うと王はコクコクと頷いている。

 ポケットから指輪を取り出し王の前に投げる。

 「フォルモッサの当主から、バイラル老師の息子に送られた品だそうだ」

 王が手にとってしげしげと見る。結構好奇心は旺盛なようだ。

 「あまり長く持つなよ、呪いの指輪だから」

 言うと王が慌てて投げ出した。

 「その指輪をはめると、病を招いて人には解らない様に相手を殺す事が出来る物だ」

 「何と!」

 間髪を入れずに王が返事をした。

 この国では呪いの類は禁忌である。使った物は死罪になるのが普通だ。

 「ではフォルモッサを死罪に…」

 顔色を変えて言う王の言葉を遮って、

 「いや、バイラル老師に考えがあるらしい。今後フォルモッサの家に何が起こっても一切口出ししないで欲しい」

 言うと、何とか立ち上がった王は蹲踞の礼を取りつつ、

 「あい解りました…」

 約束してくれた。

 「それにしても伝承に残る撲殺の勇者様、なかなかに凄まじい。何かあった時は連絡が取れるのでしょうか?」

 こいつ、切り替えが速い。頭が良いらしい。

 「俺の祖父の家は解るか?」

 「はい存じています…」

 やっぱ知られているか。

 「そこに連絡をくれれば何とかなる。今は甥もいるし」

 言い終えて王に起立を促すと後で大声が聴こえた。

 「貴様! 何奴!!」

 一秒かからずに背後まで来て剣を抜いたのが解る。

 「ま、待て…」

 王が慌てていた。

 背中にかすかな衝撃があった。三つ位のスキルが乗っている様だ。

 「背後からとは騎士の風上にも置けぬ卑怯者、名を名乗れ!」

 ゆっくりと振り向きながら一喝する。

 一瞬怯んだ様だがすぐに立ち直り、

 「ルクク・キルだ痴れ者!」

 和樹じゃないけど斜め上が出てくるよな、この世界の名前。

 「面白い、相手をしてやろう! 下へ下がれ」

 言うと素直に玉座近くから下のフロアに降りた。当然俺も続く。

 「そ! その者は…」

 言おうとする王を左手で制する。

 「好きに掛かって来い、小物」

 言い放つと、一瞬怒りの表情を見せたがすぐに元に戻り、切りかかって来た。かなり速いので余裕で避ける。

 避けまくっていると「この卑怯者!」と言ったので「受けて欲しければ受けてやる」と言って立ち止まった。

 相手の息は多少切れているが問題ないだろう。

 「来い…」

 静かに言うと今まで以上の速度で詰め寄って来る。別にこの程度なら問題は無い。

 多分だが、必殺の一撃的な物が右上から来た。渾身の一撃なのだろう。

 なので、それを右手で無造作に掴んで見せる。そのまま握ると押すも引くの出来ない様子だ。

 「どうした小僧? 何も出来んか? こんな事も出来るぞ?」

 言いながら、相手の剣を掴んだ右手に握力を込める。握った所がバラバラに崩壊して剣が折れた。

 「お前に本物の剣技を見せてやろう…」

 言ってから尻のポケットから大太刀を取り出して抜き放つ。

 そして無言で振ってから鞘に戻した。

 ポケットに太刀を戻している間、相手も何が起きたのかは解らなかったらしい。

 ルククがちょっと動いた瞬間、身に纏っていた鎧兜が四散する。

 「王が、お前の命は助けてくれと言ったので、特別に目こぼしだ。だがお前、武器防具に頼る癖がある。それでは王など護れんぞ」

 静かに指摘してみたら、ルククが崩れ落ちた。

 尻のポケットから、同じタイプの剣を一振り取り出し、ルククの目の前に放り出す。

 「くれてやる、それがまともに振れる様になったら声をかけろ。防具もくれてやる」

 「だが貴様、武器防具に頼り過ぎだ。もっと己を鍛えろ!」

 後に「ば~か」と言うのが付いていたのは内緒だ。

 王はほっとしたように蹲踞の姿勢で言う。

 「この度は非礼の数々の上に、我が配下の将軍にまでご指導の義、感謝のしようも御座いません。数々の御無礼も大恩を持ってご容赦の程、感謝に堪えません」

 何か解りやすい奴で助かる。

 「そこまで畏まらなくても良いよ。まぁ、友人として接してくれればありがたい位だよ」

 王もルククも結構びっくりしていた。

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