第12話 バイラル老師
茶を飲んで一息つくと叔父ちゃんが、
「さて…」と言って立ち上がりながら、
「ちょっと付き合え」
俺に向かって言った。
「どっか行くのか?」
曽祖父ちゃんが叔父ちゃんに向かって言う。
「こいつの靴買ってくる」
あぁ、と言う顔の曽祖父ちゃん。
ついでにと言う感じで立ち上がる。
「暇だから儂も行く」
と言った。
考えてみれば三人で出歩くのは初めてかもしれない。
三等街区の一角、靴の工房が何件か見えている。
その中の一件に叔父ちゃんが入っていくので後から入る。
「ごめ~ん」
声を上げる叔父ちゃん。すかさず「は~い」と返事が返ってくる。
程なく若いドワーフが出て来た。
「すまないが、冒険者の靴が欲しいんだが」
そのまま親指でこっちを指す。
「こいつのなんで、サイズを計ってやって」
ドワーフが笑顔になる。
「こちらへどうぞ」
言われて指示された椅子に腰かけると、
「靴を脱いでこちらに足を載せて下さい」
言われた通りにメジャーの付いた板に足を載せた。
「29.5ですか…有ったかな?」
正直、足は大きい。普通に靴屋に行ってもそんなサイズは無い事がある。
この世界ではかなりの偉丈夫だ。何せ叔父ちゃんより背が高い。
程なくして店員さんが戻って来た。
椅子の前に編み上げのブーツを置いてメジャーの付いた板を取り除く。
「こちらを試してみて下さい」
見た目は所謂長靴で叔父ちゃんが履いている物とよく似ている。日本で言う安全靴みたいな外見だ。
足を入れてみると、何やら中敷きは絨毯の様な踏み心地。しかもちょっと踏んでみたら靴底はゴムで作られていて日本の靴の様だ。
つま先に至っては安全靴の様に鉄板か何かが入っているらしく、かなり硬い。これなら蹴りに使っても大丈夫だろう。
靴底も見てみるとブロックパターンでかなり頼もしい。発勁を使っても堪えそうだ。って、叔父ちゃん何度かやってるな。スゲーなこの靴。
「すごいピッタリ…」
言葉を漏らしたら、店員さんが破顔した。
「じゃ、それ下さい」
叔父ちゃんが言いながらポケットに手を突っ込んで金貨を二枚、出して店員さんに渡す。
店員さんも受け取って「有難うございます~」とか言ってるし。
それにしても靴一足20万かよ?
◇
その後、三人で街を散策。
夕刻も近くなったので、ダラムさんの露店の方に足を向ける。
丁度、店じまいの支度をしている所だった。
「よう!」
叔父ちゃんが気軽に声をかける。
振り向いたダラムさんが、
「あ、旦那方!」
陽気な声を上げた。
「今日は旦那方のお蔭で大繁盛でした。あっという間に売れちゃって…お蔭で掛売の分も払えます!」
言ったダラムさんを叔父ちゃんが手で軽く制する。
「慣例通り掛売の清算は年末で構わんよ。商売の種銭に使いな」
叔父ちゃんの言葉にダラムさんがびっくりした様子だ。
そうか、この世界は晦日商売があるんだ。
晦日商売とは、日本の古い風習で毎月月末に纏めて代金を払うという物である。本当に信用のある人はお盆と正月、年に二度の支払いで良かったらしい。
「よ、よろしいんですか?」
言ったダラムさんに叔父ちゃんは、
「信頼しているから大丈夫だよ」
と一言。すかさず、
「有難うございます!」
とはダラムさんの返事。
「でも今は、そんな話じゃないんだ。君、ロックウッドの皮、樹皮って何かに使えるか知っている?」
叔父ちゃんの問いにダラムさんは考え込む。
「ロックウッドの皮ですか…」
と、思わぬ方向、後ろから答えが返って来た。
「使えるぞい」
振り向くと、魔術師らしき装束の老人。
「ありゃ、ちょっと特殊なポーションの材料になる」
簡単に解説してくれた。
「丁度、儂が探しておった物なのじゃが、あるかの?」
聞いた老人に、
「多分明日には乾燥が終わると思いますが、この店に持ち込んで置くので買ってやってください」
叔父ちゃんの機嫌が悪そうだ。
「これは失敬をした。儂の名前はバイラル・ジン、エルフの錬金術師じゃ」
丁寧な自己紹介が有った。つか、名前それかよ、斜め上すぎるわw
◇
聞けばジン氏は病気回復用のポーション材料を探していたと言う。
「ロックウッドがなかなかなくて困ってなぁ…しかし助かった、感謝しかない」
ジン氏の言葉に叔父ちゃんは、
「いや偶然ですよ。お役に立てて良かった」
軽い調子で応える。
「…それにしても、お前様方、何か見覚えが…」
老齢のエルフであれば知っていても不思議ではないだろう。
叔父ちゃんと曽祖父ちゃんの顔を交互に見比べている。
と、急に立ち止まり、
「も、も、もしやタケシ様にキチゾウ様では?」
叔父ちゃんが慌てて口の前に人差し指を立て、シーッ! とやっている。
「止めて下さい往来で」
小声で制した。
結局そのまま冒険者ギルドまで付いてきてしまったジン氏である。
受付嬢はこちらの顔を認めると、
「少々お待ちください」
と言って奥へと消えた。
程なくしてビルボ氏が現れる。
「いつもの部屋へどうぞ。丁度良かった、バイラル老師もご一緒下さい」
すぐに応接へと通された。
すかさずお茶が出てくる。そしてお茶を出してくれた受付嬢はすぐに、
「失礼いたします」
と言って部屋を出ていく。
「こちらが、紹介させて頂こうと思っていた錬金術師のバイラル老師、こちらは…ご存知でしたね?」
叔父ちゃんとジン氏を交互に見た。
「先ほど気づきましたわい、これで命を救われたのは三度目になりまする」
こちらにペコリと頭を下げる。
「ん? 三度?」
叔父ちゃんが不思議そうな顔をする。
「アレじゃ、ギルドから依頼された商隊の護衛。あの中に有った顔だ」
曽祖父ちゃんが言った。
「あ~、あの時の!」
叔父ちゃんが膝を打つ。
「それで、何か儂の様な者で役に立てる事があるなら何でも言って下され。喜んで協力しますぞ」
話がどんとん拍子に進んでいる。
「バイラル老師はこの国でも最高位の錬金術師です。きっとお力になって下さると思います」
ビルボ氏が言う。何か凄い人が出てきちゃったよ。
「あ、こいつは自分の甥っ子でカズキと言うんですが、錬金術師さんに聞きたいことがいくつかあるらしく…」
叔父ちゃん、丸投げする気満々でしょ?
「カズキ様、東洋の言葉で一つの木と言う意味ですか? 素晴らしい御名だ」
ジン氏が言う。スゲー物知りだこの人。合ってるよw
ジン氏は名刺をくれた。この世界にもあるんだ、名刺。
「いつでも訪ねて下され、何なら呼び出してもらえればすぐに駆けつけますじゃ」
気軽に言ってくれているが、流石に年長者を呼びつけるような非礼は働きたくない。
「いずれお邪魔させて頂きます」
とだけ言って置いた。
「で、材料揃いそう?」
叔父ちゃんがビルボ氏に聞く。
「ハイ、明日の午前中には揃うかと」
ビルボ氏が応える。はぇ~なオイ。
「あと、何処かミスリル以上の精錬が出来る工房で借りられるところって当てはある?」
叔父ちゃんがビルボ氏に聞く。
ビルボ氏は、
「はい、何件か。今夜のうちに打診しておきましょう」
と請け負ってくれた様子。
「じゃあよろしく」
叔父ちゃんが話を〆た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます