第6話 叔父ちゃん現る
曽御爺ちゃんは、この街に家を持っているらしい。
来いと言うので付いていったら結構な豪邸だった。しかもどう見ても日本家屋だ。周囲から浮いている事甚だしい。
そう言えば大工さんだったんだっけ。
「どうだ、わしの建てた家だぞ」
得意そうに言う。
この「わしが建てた」は文字通り自分の手で建てたと言う意味だろう。親類にとび職の人も多かったみたいだから土台から行けるはずだ。
ちなみに父は内装業の会社をやっており、叔父ちゃんは電気工事士の資格を持っている。今はフリーのライターだけど。お爺ちゃんも大工さんなので「後は屋根屋が居れば親戚だけで家が建つな」等と冗談を言っていた位だ。
お邪魔すると屋内も立派な作りだった。
欄間など、見たこともない様な凄い物が使ってある。
見惚れていると、お手伝いさんらしき人がお茶と茶菓子を持ってきてくれた。何故かメイド服である。
「あの…さっきの話なんですけど…」
こちらを一瞥した曽御爺ちゃんが、
「敬語なんぞ使わんでも良いぞ。忠なんぞタメ口ききよる」
叔父ちゃんと連絡が取れるなら、こんなに心強い事は無い。あれほど無駄に物を知っている人は滅多にいない。TVに出てくる雑学王とやらは比較にならない程だ。
「まぁ、忠に連絡じゃろ? 今やってる」
変な所で察しが良いのは親子代々と言うより家系か。
無言でコクコクと頷いて見せる。
しばし、うつろな表情を見せていた曽御爺ちゃんの目に生気が戻る。
「少し待ってろと言っておった」
忙しいのだろうか?
1時間ほど経った頃だろうか、一瞬だけ視界がゆがんで目の前に白い靄が現れる。
それが、やがて人型になり人間が現れた。見慣れた叔父ちゃんの顔だった。
「この! 馬鹿っ!」
そして思い切り怒鳴られた。怒った顔は滅多に見せない叔父ちゃんなのに。
良く見れば喪服姿だ。ご丁寧に黒いネクタイまでしている。
「てめぇの葬式が終わって帰った所だよ!」
また怒られる。返す言葉もない。
「姉さんも義兄さんも泣きっぱなしだったんだぞ! こっちゃ爺ちゃんから連絡があったから大体の事情は分かったけど、説明のしようがねぇだろ、こんなの!」
叔父ちゃんは怒ると微妙に江戸弁が出ると言う話は聞いていたが、聞くのは初めてなので驚く。
と、叔父ちゃんが拳を振り上げて鉄拳制裁! こちらに来てからの経験で大した事は無かろうと高をくくっていたが、目の前には大量の星が飛んでいた。
痛い。
「…い、痛い…」
口から洩れた。すかさず、
「ったりめぇだ! そんなもん! 親より先に死ぬような親不孝にはもう二三発くれてやるか!」
曽御爺ちゃんが必死にとりなしてくれている。
怖いよ叔父ちゃん…
◇
やっと落ち着いた叔父ちゃんと話が出来た。
叔父ちゃんの話によると、この世界の歴史で600年ほど昔に一度こっちに来たことがあるらしい。
二つの世界の時間差が大きいのでそうなってしまうらしい。
曽御爺ちゃんは既に死んでいたのだが、叔父ちゃんの守護霊となっていたので、この世界で実体化してしまったとか。
そして最大の収穫が、実は自分が住んでいた世界は色々な意味で極限状態、こちらの世界の住人からすれば煮えたぎるマグマの中か、超高圧の深海で生活しているような物だと。
なので、あちらの世界の住人がこちらに来ると、それだけで超人状態らしい。スターウルフかよ。
ついでに600年前の出来事はこの世界の歴史に残っているらしい。
叔父ちゃんと曽御爺ちゃんの二人で、この世界に現れた災厄「魔神」とやらを殴り殺したとか。武器使わないのかよ?
まぁ、この人、柔術は皆伝持っているしな…
柔術は元々、無手で鎧武者を殺す技、今の空手と柔道の原型だ。
「あの…冒険者ギルドで見たニキシ管て…」
「あれ、まだ使ってたのか? 進歩が遅いなこの世界…」
何か、いきなりのオーバーテクノロジーだったので記憶に残っていた。やはりこの人だった様である。
他にも、我々の居た世界からこちらの世界に転生した者はエルフなどよりはるかに寿命が長い事。死んで転生した者は元の世界には帰れない事。叔父ちゃんはかなり特殊な例らしい。
そして叔父ちゃんは神龍を殴り殺した事もある事。
「神龍ってボールを7つ集めると…」
言った瞬間
「そっちじゃない。竜の髭落とす方」
と言われた。
怖いよそれ。普通一撃で全滅するでしょ?
叔父ちゃんは曖昧に笑っている。
◇
結局、直接の連絡は無理だけど、曽爺ちゃんを通して呼んでくれればすぐに來ると約束してくれた。
曽爺ちゃんも「久々に体を動かそう」と言って同行を約束してくれる。
ただ、難しい顔をしていた叔父ちゃんが、
「弾が買えるかどうか…」
呟いた。
聞けば、曽御爺ちゃんの主力武器は38年式歩兵銃と言う、古いライフルらしい。ただ、これの弾は現在国内で生産されていなく、アメリカでの生産だとか。
輸入品を買う事はできるらしいのだが、叔父ちゃんはその銃を持っていないので、銃刀法上は購入が難しいみたいだ。
「まぁ、何とかしてみらぁ」
叔父ちゃんが軽く言う。困った時の特徴だ。ただ、これで何とかならなかったことが無いのが凄いのだが。
お茶を飲みほして立ち上がる叔父ちゃん。
「じゃいったん帰るわ。じっちゃんも元気でな」
明るく言い置いてから、ふっと振り向く。
「そう言やこれ…」
尻のポケットから「そこには入らないだろう」と言う大きさの革袋を取り出した。
「好きに使えや」
目の前に革袋がドンと置かれる。
振り向いて手を振りながら消えていく叔父ちゃんが消えた後、革袋を確認してみる。
曽御爺ちゃんと中を観たら、どう見ても大金貨が1000枚以上。
あの人、何者?
◇
翌日、宿へ行って部屋を引き払う。
と、言っても食事代の清算だけで荷物は無いので簡単な物である。
フロントの人は「もうよろしいので?」
と複雑な表情だ。
「ん? えぇ。住むところが決まったので」
と言ったら残念そうな顔になった。表情が読みやすいなこの人。
「あの手紙、どこかから宿代が支払われるのでしょう?」
聞けば政府から支給されるらしい。
「残りの日数、部屋だけキープしといて請求しちゃえば?」
目を白黒させるフロント。
「よ、よろしいので?」
小声で聞いて来る。
「怖いなら正式に依頼しようか? 日数いっぱいまで部屋をキープしておいて。念のために」
言ったら深々とお辞儀をされた。この国にも結構あるのね、お辞儀の文化。
ついでに、ダラムの露店に顔を出し、高く売れて近場で狩れるモンスターの情報を聞く。
「聞きましたよ、カズキの旦那。亜竜を剣の一振りで斃したとか。街中で噂になってますよ」
ヤバイ、顔とか割れてないだろうな?
ちなみに亜竜は、高く売れるのだが年に一回飛来すれば多い方らしい。レアモンスターだな。
更にその足で冒険者ギルドにも顔を出す。と、ギルド内にいる人間の視線が自分に集中した。
顔が割れてたよ…
まぁ、黒髪で黒い瞳は珍しいから仕方がないか。
この国の歴史資料の場所を訊ねると「王城の近くに王立図書館があります。冒険者なら有料ですが利用できます」との答えだった。
一等街区か。面倒が起こらないと良いけど。
この街は一等街区、二等街区、三等街区に分かれている。三等街区はスラムを含む下街だ。ダラムはここに店を出している。
二等街区は曽祖父ちゃんの家がある辺り。金持ちや大商人が家を構える区画。この二つは自由に行き来できる。
ただ一等街区は王城の周辺で王族や貴族の屋敷があるので、一般の人間は足を踏み入れないし、警護の兵もいる。
色々と良い予感はしない。
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