第5話 ドラゴンスレイヤーと曽祖父ちゃん

 何か門衛が蒼い顔をしているよ?

 近付いて声をかける。

 「どうしたの?」

 門衛は震え始めた。

 「………こ…声だけで亜竜を…落とすとか…まして剣の一撃で、一刀両断等…人とは思えません…」

 最後の方は何とか気を取り直しつつあるようだ。もう一人の門衛も同じような状況なのでそう言う事らしい。

 「失敬な。ちゃんと人間ですよ~だw」

 笑顔で言ってみた。

 門衛さんは気を取り直したように。

 「しかし、もしアレが街を襲えば、真っ先に死ぬのは我々なので助かりました。感謝します」

 死ぬのが前提かよ。トカゲ二匹で。

 一瞬、城門閉めて逃げれば良いのにとは思ったが、飛んでるんだから関係ないか。それにしても仕事に命かけてるのね。止めた方が良いと思うよ、そういうの。大概報われないから。

 「あ、時に…」

 門衛さんからギルドへの討伐証明の方法を聞いた。どうやら数の分だけ同じドロップ品があれば種類は問われないらしい。しかもそれは報酬に上乗せだとか。

 アバウトなシステムだとは思ったが、まぁ本体が消えてしまうので仕方がないか。


 ギルドへの道すがら、街が徐々に平常に戻っていくのが確認できた。

 ついでに、昨日の商人が露店を出していたので声をかける。

 「よう!」

 熊のドロップ品は既に売り切れている様子だ。凄いな売れ行き。

 「あ! 旦那!」

 元気な声が返って来た。

 「さっき亜竜が来た時はどうしようかと思いましたぜ。上手く退散してくれたようですが」

 一応訂正しておく。

 「退散なんかしてないよ?」

 「へ?」

 「俺がぶち殺した」

 半径3メートルくらいが急に深となった。

 「ほれ…」

 言いながらドロップ品を取り出して見せる。

 「買う?」

 「勿論!!!」

 間髪を入れずに応える。

 何かこの一角にいる人間の動きが止まっているんですが、気のせいでしょうか?

 「あ、討伐証明の為に、一番売れない奴を残しといてね。報告に行くから」

 何か頭の中で計算している様子の商人に、一応声をかけて置く。

 「じゃあ、鱗を除いてこの位で…」

 大金貨11枚と大銀貨が数枚。こいつ、露店でそんな大金持ち歩いて大丈夫なのか?

 「レートは昨日と同じです」

 にこやかに言った。

 ちょっと疑問に思った事を口にする。

 「鱗って売れにくいんだ?」

 何となくドラゴン類の鱗ってゲームだと高級素材だったような気がする。

 「あぁ、エルダードワーフでもないと加工できないんで、需要が無いんですよ」

 なるほど。加工の都合か。

 「そう言えばまだ名乗って無かったよね。俺はカズキ、駆け出しの冒険者。君は?」

 聞いてみる。

 「ハイ! ダラム・ズバと申します。商家の三男で修行に出ています!」

 元気な答えだった。

 「良いパートナーになれそうだね」

 言った瞬間、ダラム君の顔が笑顔とも泣き顔ともつかない変な顔になった。

 それにしても、どこかで聞いた名前ばっかりだ。次はギジェでも出てくるのだろうか?



 そのまま、ギルドに行って清算してもらう。ついでに討伐証明の鱗も買い取ってくれるらしい。

 結果、大金貨20枚と金貨数枚になった。日給でかっ!


 さて、本格的にやることが無くなったと思いながら宿への道を歩いていると、何やら特徴的な服装の人物が視界に入った。

 こちらの世界に来てからも、元の世界でも、まず目にしたことが無い。でも自分は知っている服装。

 カーキグリーンの上着とズボン。襟に襟章とバッジ。バッジは二丁のライフルがぶっ違いになっている。どう見ても旧帝国陸軍の制服だ。

 慌てて走り寄り、後ろから声をかける。

 「ちょっとよろしいでしょうか?」

 振り向く男性。その顔を見てポカンとしてしまった。

 爺ちゃんや叔父ちゃんにそっくりだw あそこの家は代々同じ顔らしいけど。

 馬面で優男、だけど目が怖い。

 「何か?」

 男性が言葉を発する。叔父ちゃんにそっくりな声。

 気を取り直して言葉を発する。

 「ちょっと、込み入った話になりそうなので、茶店などいかがでしょうか? 勿論代金は私が…」

 男性は一瞬考えてから、

 「あぁ、うん…」と。


 近場に有った喫茶店で腰を落ち着け、男性にメニューを差し出す。

 「お好きな物をどうぞ」

 言うと、男性はクリームあんみつらしき物とアイスクリームを頼んだ。聞いていた通りだ。

 自分はお茶を頼む。

 注文の品が出てきたので、口火を切ってみる。

 「あの…日本人ですよね?」

 あんみつを頬張りながら男性が頷く。何か色合いが違うけど、ちゃんと寒天なのだろうか?

 「それにしても不味いな、この寒天…」

 ぼそりと言った。やはり違う物らしい。

 「よろしければ、お名前をお聞かせ願えないでしょうか? 私は野末和樹と申します」

 男性が食べる手を止めて、こちらをふと見る。

 「お前も日本人か…、こんな場所で難儀な事だ…」

 呟くように言った。

 気を取り直したように、

 「俺は海老原佶三、陸軍の一等射手だった」

 完全にビンゴ!

 「1000mで盃を撃ち抜いたと言う…」

 試しに言ってみる。

 「なんだ、そんな事が語り草にまでなっているのか?」

 涼しい顔で言ってるよ、この爺さん。

 語り草にしているのは爺ちゃんと叔父ちゃんなんだけど、叔父ちゃんに至っては3000mで同じ事が出来る化け物だ。叔父ちゃんによると、当時の銃で1000mの精密射撃はほぼ不可能らしい。叔父ちゃんは「俺の場合は銃が良いだけだよ」と笑っていた。

 覚悟を決めて話を進める。

 「実は、息子さんの一さんが私の祖父になります」

 言った途端に佶三さんの手が止まった。

 御存じ無いかも知れませんが、一さんには二人のお子さんがいらっしゃって、上が静子、下が忠さんと仰います。そして静子が私の母です」

 何か複雑な表情を見せる佶三さん。

 「セキはどうした?」

 死んだ曽婆ちゃんの名前だ。

 「享年92、大往生だったそうです…あ、晩年は嫌いだった生き物も好きになり、飼い猫に看取られたとか」

 何だか知らないが笑顔で涙をポロポロ流しているよ、この人。

 「サト子さんは?」

 聞かれたのでお婆ちゃんの事を話す。

 「未だご存命でとても良くして下さいました」

 そして叔父ちゃんから聞いていたおじいちゃんの馬鹿話をしていると、佶三さんは再三頷いて「あいつらしい」と言っていた。

 叔父ちゃんの話になった時、佶三さんが「あ、あいつの話は良い。連絡取れるから」

 とんでもない事を言い出した。

 え? え? え? 叔父ちゃんと連絡取れるの???

 「お、叔父ちゃんと連絡できるの?」

 不思議な顔を見せる曽御爺ちゃん。

 「お前は取れんのか?」

 反対に聞かれてしまった。

 「あいつは変な力があるらしく、結構簡単に話が出来るぞ? …わしが死んでいるからかなぁ?」

 いや、俺も死んでるし。

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