第4話 蜥蜴が飛んでた

 結局、登録自体は簡単に済んでしまった。前代未聞と言うか、そもそも失われた大陸からの転移者と言うのが数百年ぶりだったらしい。

 数値に関しては極秘扱いとなったようだ。ただの「初級冒険者」と言う扱いにしてもらった。

 レベルは能力値が高すぎるので、生半な事では上がらないらしい。まぁ、分かる気がする。

 ビルボ氏に宿屋の場所を聞きつつ、ドロップ品の買い取り相場を聞いてみた。先ほどの商人に売ったのがギルドの買い取り相場と同じくらいらしい。需要によって上下するらしいが。

 あの商人、かなり真面目な商売をしているみたい。好感度アップだ。多分、ギルドから仕入れた場合、ギルドのマージンが乗るから儲けが少なくなるのだろう。

 もっとも、デッドリーベアを倒したからと言って、先般の様に色々とドロップするのは珍しく、もし心臓がドロップしていれば+大金貨5枚と言う額になったらしい。LACが大きかったのだろう。

 心臓のドロップと聞いて、草原に転がるドクンドクン動いている物体を想像して、ちと気持ち悪かったが。

 ビルボ氏に聞いた通りに街を歩いていくと、確かに宿屋が林立している街区に行き当った。安い所から高級な宿までより取り見取りな感じだ。

 余り欲張らずに中級程度に見える宿屋に入ってみる。

 「すみません」

 ちゃんとロビーカウンターがあった。カウンターの人がにこやかに迎えてくれる。

 「突然ですが、今日部屋あります?」

 カウンターの職員が「少々お待ちください」と言って帳簿だか宿帳に目を落とす。数瞬の後、

 「申し訳ありません。本日は満室でして…スイートなら有るのですが…」

 と、返事をした。

 「じゃあ、これで大丈夫かな?」

 門衛に貰った紹介状を差し出す。一瞬怪訝な顔をした職員は封を切って中を読む。

 「こちらでしたら喜んで」

 本気で嬉しそうな顔をしている。あれもレアなのだろうか?

 スイートルームに案内され、晩飯の事を聞かれたので「ルームサービスってあるの?」と聞くと、「はい」との答え。

 部屋は本気でスイートで落ち着かない事この上ない。

 寝室以外にリビングダイニングはあるわ、キッチンまであるわ、風呂やトイレはでかいわ、寝室のベッドまでトールサイズとか言う、シングル三っつ分の大きさがある。

 元の世界でも一度、泊まった事があるのだが、貧乏人には正直、広すぎて落ち着かない空間だ。

 その時は何か藁しべ長者のような状態だった。最初、禁煙ルームをを予約したのだが、ホテル側の手違いで禁煙ルームが無くなっており、喫煙ルームにチェックインしたのだが煙草臭い。

 若い頃は自分も煙草を吸っていて、後に禁煙したのだが、元喫煙者の方があの匂いには敏感な傾向がある。

 夕食を採りに出かけるついでに、フロントで「臭い消しを撒いといて」とお願いした所、夕飯を採って帰ったら「誠に申し訳ありません、臭いがどうしても取れないので部屋を移って頂けないでしょうか?」と言われたので了承した。

 そしてセミスイートに案内されたのだが、そこがまた煙草臭い。部屋に入った第一声が「煙草くせっ!」だった程である。

 ホテルマンも解ったらしく、電話で何かやり取りした後に案内されたのが最上階のスイートルームだった。

 「いいの、こんな高い部屋?」

 と聞いたら、

 「はい、当方の手違いですので…」

 と恐縮されてしまった。

 後で予約に使ったWEBサイトでベタ褒めしておいたのは内緒だ。

 ただ、TVを見るだけでリビングに移動しなければならないわ、ウエルカムドリンクは用意されているわ、風呂何かカーテンじゃなくてガラス張りだわ、落ち着かない事この上ない部屋だったw

 家具に傷をつけないように気を付けないと、特に筋力が半端じゃない数値になっているみたいだし。

 ちょっと気になって、部屋に有った重厚な木製のテーブルに手をかける。そのまま持ち上げてみると片手でヒョイと持ち上がってしまう。重さは特に感じない。

 本当に半端じゃないなこれ。

 自分で呆れながらそっと下した…



 飯を食おうと(昨夜から食べそびれていた)電話を探すがそんな物があるわけもなく。

 が、船にある伝声管の様な物が目についた。

 そこまで行って蓋を開け「もしも~し」と声をかけてみる。

 すかさず、

 「ハイ、御用は何でしょう?」

 返事が返って来た。

 「食事が採りたいんだけど」

 言うとすぐに、

 「少々お待ちください。部屋にお持ちします」

 返事が返って来た。ルームサービス何か初めての経験だ。

 ややあって、ノックの音。ドアを開けると、いかにもメイドさんと言う風情の人がワゴンを押して3人ばかり控えていた。

 招き入れると、先ほど持ち上げたテーブルに料理を出してくれる。

 スープから始まるフルコースの様だ。前菜、サラダ、メインと続きデザートまで。先ほど露店で見ていた料理とはかなり違う。高級な料理なのだろうか。

 片付けをしているメイドさんに、思い立って声をかける。

 「そうだ、これ…」

 言いながらポーチから銀貨を取り出す。穴が開いているので大銀貨と言う奴だろう。最善の取引の端数だ。

 「チップね」

 と言って一枚ずつ渡しておいた。

 メイドさん達は粛々と礼をして受け取り、後片付けを終える。

 その後、辞去して部屋を出、ドアが閉まった瞬間。

 「すごーい! こんなに貰ったの初めて!」

 と騒いでいる声が聞こえてくる。1万円のチップは流石に多かったかw

 ちなみに、メイドさん達に聞いてみた所、この部屋の宿泊料は一泊金貨一枚らしい。

 東京の高級ホテルよりはかなり安い。しばらく拠点に使っても良いかもしれない。

 まぁ、腹がくちくなって考えるのが面倒なのでそのまま寝た。


 ◇


 翌朝、かなり早めに目が覚め、何をするか考えてみる。

 王宮は何か面倒な事になりそうだし、今の所指針もない。

 ギルドで相談してみるのも手なんだけど…

 考えていると街中が何か騒がしい。カーテンを開けて外を見ると人が右往左往している。何だろう?

 部屋を出てフロントへ。フロントで「ちょっと出てきます」と言って鍵を預ける。

 その足で冒険者ギルドへと行って、受付で聞いてみる。

 「何事ですか? この騒ぎは?」

 昨日と同じ受付嬢が、

 「城外に亜竜が現れました。討伐クエストも出ていますが、受けられますか?」

 との返事。詳しく聞けば亜竜とやらが二匹、草原で暴れているらしい。

 「それって強いの?」

 試しに聞いてみた所、この街でクエストを受けた冒険者はいないらしい。

 「なら受ける」

 言い置いて受付を後にした。

 受付の方から「頑張って下さい…」と小さな声援が聴こえる。心強い。

 昨日、入った城門から外に出ると、二頭の飛行生物が飛び回っていた。

 高いよアレ。ちょっと届かないだろうあの高さ。

 どうするか迷った末、大声で威嚇してみる事にする。

 「オラァァァァァァァァ!」

 飛んでいる上空に向かって大声を張り上げてみた。と、上空を旋回していた亜竜が落下してくる。

 落下地点に走って行くと、二匹は結構驚いた顔をしていた。

 見た目は羽の生えた巨大トカゲ。

 面倒くさいので速めに済ませようと、走り出したら向うも反射的に口を開いた。横っ飛びに回避したら火を吐きやがった。ブレスと言う奴だろうか?

 ちょっとムカッと来て鯉口を切った刀を真っ向唐竹割に叩きつける。

 結果、そいつを真っ二つに切り裂いた。本気で切れるな、この刀。

 残る一匹。着地の足を踏ん張ってとびかかってみる、

 結果、首を切り落とし、胴は四つに刻んでしまう。つばめ返しや三段斬りと言うのは聞いた事があるが、五段斬りってどうよ? 完全にオーバーキルだった。

 二匹の亜竜の体が、熊と同じように霧散して、いくつかのドロップ品が残る。ポーチに突っ込んでから城門へと戻った。

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