第3話 熊が高かったのと自分も高かった

 冒険者ギルドの場所を聞いてダミド氏に礼を言い、街へと促された。

 街並みを眺めながら散歩気分で歩く。人や荷車、馬車なんかが行き交うかなり繁栄した街だ。だが、15~16世紀位のテクノロジーと言ったはずなのに、どう見ても中世ヨーロッパだぞ、これ?

 そこらじゅうに露店も出ている。通りすがりに値段を覗くと大体の物価動向が解って來る。

 銅貨の下に小銅貨と言う物があるのも解った。多分小銅貨十枚で銅貨一枚だろう。

 食べ物に関しては小銅貨から銅貨の範囲内。武器防具はかなり高い。いきなり銀貨になっている。需要が大きいのだろうか?

 武器防具の中にはワンドやタクト、つまり「杖」が混じっている。魔法が普通にあるのね。ゲームみたいだ。モンクもいるのだろうか?

 それ以外にもポーションらしき物やアクセサリー、正体不明の素材の様な物、角や牙みたいなモンスターのドロップ品なども売られている。

 最善手に入れたドロップ品と同じ物が売られている露店の前で足を止めてしまった。

 「どうだい兄さん! レアなデッドリーベアのドロップだよ! この辺じゃうちが一番安いんだ!」

 得意げに言う店主。

 値段を見ていただけなのだが、声をかけてくれたので応える。

 「いや、持っているから良い…」

 驚いた顔でこちらを見返す店主。

 「こ、これ持ってるのか!? あるなら売ってくれ!」

 本当にレアらしい。

 「あぁ、構わんよ。君の売値の七割五分でどうだ」

 言いながら、ポーチから牙、目玉、毛皮、爪、そして肝臓らしきものを取り出す。

 「お、おぉ……」

 何か言葉にならないうめき声をあげる店主。意味が解らない。

 「あ、あんた、もしかしてデッドリーベアを倒したのか?!」

 聞かれたので正直に答えてみる。

 「あぁ、さっき草原で。大して強くは無かったぞ?」

 気が付くと周囲の人がほぼこちらを注視していた。

 「本当に売値の七割五分で良いのか?」

 確認する店主に、

 「もちろんだ」

 短く言う。

 店主は慌てて銭函と思しき物を探り、大金貨五枚と数枚の銀貨を差し出した。

 ちなみに「七割五分」と言うのは東京で商売をする時の一般的な仕入れ値だ。

 関東では掛け値なし、言い値で販売が普通。関西では値引き交渉が出来るらしいが、それは掛け値があるからである。

 関東での値引き交渉は特殊な交渉になってしまうので、電気屋で高い物を買う時や不動産売買の時にしかやらなかった。

 この世界がどっちなのかは解らない。まぁ、慌てて金を出してきたので相場よりは安いらしいとは解るが。

 「お、すまないね」

 言いながら金を受け取りポーチに入れる。

 「あの、旦那!」

 あんたから旦那にクラスチェンジしたよw

 「良かったら、ドロップ品があったら俺に売ってくれないか? 俺は毎日ここに店を出してるから!」

 かなり良い取引だったらしい。先ほどから相場を見ていたが、大金貨って百万円位だよね。露店で五百万円を簡単に出せる資本力ってのも凄いけど、商才があるのだろうかこの人。

 「解った。贔屓にさせて貰うよ」

 言いながら、手を振って店先を離れる。後ろで店主が頭を下げているのが解る。

 上客認定されたらしい。


 そんなこんなで冒険者ギルドとやらにたどり着いた。

 思っていたよりは大きくない建物だが、頻繁に人が出入りしている。

 踏み込んでみると、入り口の先にロビーといくつかの窓口が見える。それとは別に入り口の脇にも窓口がある。多分案内だろうと当たりを付けてそこに声をかける。

 「あの、すみません」

 「ハイなんでしょう?」

 窓口の女性が、打てば響くと言う感じで返してくれた。

 「冒険者登録をお願いしたいのですが…」

 「それでしたら、こちらで出来ます」とニッコリ笑いながら言ってくれた。

 「ではこれを…」と、最前貰った推薦状を差し出す。

 受付嬢は怪訝な顔を見せつつ受け取り、封蝋を確認、ちょっと驚いた表情になる。

 何度か確認した後、封を切って中を読み始める。次第に表情が変化していく受付嬢。見ていて飽きない。

 「しょ、少々お待ちください…」

 言いながら立ち上がって奥へと消えた。



 ややあって、窓口の女性を伴って、若い男性が現れた。長くて美しい髪と尖った耳、エルフなのだろう。初めて生で見たよトールキン先生。

 「はじめまして」

 そのエルフが深々と礼をする。また良い男だと声まで良いよこの人。

 「こちらこそ」

 日本式の45度の礼を返してみる。クライアントとの折衝や会議などもあるので、一通りの礼儀は身に付けてはいる。

 「私、当ギルドのマスターを務めております、ビルボと申します」

 トールキン先生! 種族が違います! その名前…

 「ノズエカズキと申します。カズキとお呼びください」

 「それではカズキ様、登録手続きを別室で行いたいのですがよろしいでしょうか?」

 別に断る理由もないので「ハイハイ」と答える。

 案内された先は、結構豪華な応接室のような所だった。何やら変な機械らしき物が置かれているのが興味を引くが。

 「まずはレベルの確認からお願いいたします」

 言いながら一枚の紙を差し出して來る。思わず受け取ったが何も書いていない白い紙だ。

 と見る間に、その紙が空色に変色する。

 ビルボ氏は小首をかしげているが、何なのだろう?

 「レベル1…」

 手元の書類に何か書き込んだビルボ氏が

 「能力値の精密測定をしたいのですが、よろしいでしょうか?」

 と。傍らに控えていた受付嬢が、先ほどから気になっていた機械の方へと向かった。

 「ハイ、お願いします」

 自分の能力に少し興味がある。

 「こちらへ…」と言って機械の前に案内された。どうやら能力の測定器らしい。

 ビルボ氏が取っ手に手をかけて持ち上げると、まるで日焼けマシンの様に蓋が開く。

 「こちらに横になって下さい」

 言われるままに寝転がると、蓋を閉められた。とは言っても横にかなりの隙間があるので閉塞感は無い。

 そのまましばし待つと、体中に探られているような違和感、って探ってるんだろうけど。30秒と待たずに違和感は消えた。

 すぐにビルボ氏が蓋を開けてくれて外に出た。機械の方は何やら集計中の模様。

 ビルボ氏はふたを閉めなおし、上についているカウンターのような部分を注視している。

 勿論、こちらの世界の文字らしく、英字やアラビア数字ではない物の何故か読める。女神様本当にありがとう。

 と、次々に数字が確定して行った。どうでも良いけど、これニキシ管だよね? 変な所でテクノロジーレベルが高けぇなあ、この世界。

 地球じゃ20世紀の発明だぞ、真空管は…

 「これは…」

 絶句した様子のビルボ氏。見ればSTR7420、AGI6952、INT9230、等と数字が出ている。ゲームの通りならそれぞれ筋力、素早さ(命中率)、賢さになるはずだ。

 ただ、個人的に相対基準を持っていないのでどの位なのかが解らない。

 「高いの? 低いの?」

 質問しながらビルボ氏の方を見た。生まれて初めて「目を丸くする人」と言うのを見てしまった。あれ、目を大きく見開いた上で、瞳孔が全開になるのね。

 「ひ、ヒューマンではあり得ない…」

 とうとう人間扱いされなくなったよ。

 「高いんだ…」

 ボソッと呟くと、ビルボ氏はこちらに向き直った。

 「高いどころかこのストレングス、オーガやジャイアント、おそらくエンシェントドラゴンより…」

 おいおい。

 「アジリティは見たことのない数値、全ての生物の限界を超えているとしか…」

 まてまてまて。

 「インテリジェンスに至っては、もう神の領域です…」

 女神様、やりすぎ! 嬉しいけど。

 つか、そんな物計れる機械もどうかと思うんだが?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る