第10話東方瑠璃光世界
夕霧に煙る川面に舟すべらせて、祈りの形に手を合わせ、遊女がひとり売られてゆきます。親を恨めど甲斐なくて、兄の遺した水晶の数珠を胸にかけ、袖を濡らす涙も乾かず、ふるさとの景色が隠れてゆくのを打眺め、ここは冥土へ渡る舟の上と思い定めて、数珠をしかと握りましたところ、彼方より琴笛の音が鳴り響き、空には天女が舞い降りて、うつつとも思えぬ眺めに船頭は腰を抜かしました。遊女の衣は朱の地に鶴の舞う裲襠に変じて、舟は川をすべり、遥かなる浄土へと流れてゆきます。あれに見える国に兄はいますかと遊女が訊くと、兄上様は月光菩薩におなりです。貴女様は日光菩薩となって薬師如来に御仕えなさいましと天女は歌うのでありました。
第四十八回Twitter300字SS お題「霧」
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