第2話 カウフマン大佐とタイナ
僕達情報員が本社と呼ぶ軍事情報局は戦前と戦時中に陸軍のあちらこちらに出来た幾つもの情報機関をまとめてして統合運用する目的で創設された比較的新しい情報機関だった。一応参謀本部の直轄組織なのだが組織の特殊性から参謀本部自体には連絡室しか設置されておらず、本社そのものはベルリン市内の購入した小さなビルだった。
当然僕も軍服など着用はせずネクタイもしっかり付けた普通のスーツ姿だ。こんな何もない所で軍刀をぶら下げていたら普通に怪しまれるだろう。目の前の上司ももちろんスーツだ。
「それでルツ君、ニュースはみたかね?」
「はい大佐、悲惨な爆発が発生したとは聞きました。しかし僕がここに呼ばれたという事はあの爆発はやはり政治的な要素が絡んでいたと見てよろしいですね?」
机越しに腰を掛けていた中肉中背の中年男は僕の上司にあたるカウフマン大佐だった。眼鏡の位置をクイっと指で直しながら僕の話を聞いていたようだ。
「残念ながらそう・・・と言わざるを得ないね。」
「今のマスコミには伏せているが爆発が起きたのはまさにステージ。憲兵から提供された情報では30人の死傷者には将官3名と護衛の兵士2名に加えて近くにいた民間人3名が死亡した事が分かっている。意味は分かるね?」
「設置した爆弾を使ったわけですか・・・」
「爆弾その物は大した事がなかったんだねこれが。ステージの真下に設置したせいで被害が余計に大きくなった。」
「大佐殿、犯人は逮捕されたのですか?」
僕のこの問いにカウフマンは本気で聞いてるのか?とでもいいたげな呆れた顔を僕に見せたおかげでドイツ警察がいかに優秀であるかを思い知らされた。
「犯人は地元のエルザス人の跳ねっ返りだったよ。20年前の軍の対応の不手際 を未だに根に持っていた奴の様だ。尤もこんな事件を起こしては地元のエルザス人からも同情なんてされないだろうがね。」
カウフマンの話だけを聞けば事件は解決したように聞こえる。
「大佐殿、自分がここに呼ばれたという事は他に事情がありますね。」
「その位の理解力が無ければそもそもお前はここにはいなかったろうな。」
そう言ってカウフマンは開けた引き出しから写真を僕に渡す。見ろと言う事だろう。写真は現場で用いられた爆弾の様だ。しかし様子が変である。
「これはフランス製ですね?」
「その通り。こいつはフランス製の迫撃砲に使われるのを改造した即席爆弾だ。ドイツ国内ではこれは製造を一切行っていない。つまりフランスの誰かがこのエルザス人に渡したと言う事だろうな。」
やはりそういう事か。僕は即座に理解した。
「ルツ、唐突で悪いがお前にはすぐにフランスのアストレーヌと言う場所に行って欲しい。」
カウフマンには軽く謝罪をされるが僕は気になどしない。諜報員とこういう仕事なのだろうとはとっくに予想できたのだ。初任務にしては少々重すぎると思うが・・・。
「しかし心配するなよ。
カウフマンが僕の後ろに指さした。僕が振り向くといつの間にか真剣な顔のメイドの少女が立っていたのだ。
「ルツ、こいつはタイナだ。タイナ、こいつはルツだ。二人ともこれから仲良くな?」
先輩にしては少々若すぎやしないか?
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