第3話

 ヴィミニーが立ち去り、あたしとファノンが残された。

「あれがヴィミの答え? 正解?」

 正解かどうかはわからない。

 あたし的には答えの出し方が簡単すぎると思えたけど。

「とにかく部屋、入ってみよう」


 美由のマンションは高層で、小ぎれいで、本人と同じに味もそっけもなかった。

 女二人はあろうことか、二人一緒に入浴していた。

 広めの、細長い浴槽の中に二人並んで体育座りみたいな格好で湯に浸かっている。

「まだ気が晴れない?」

 立木が聞く。

「晴れない」

 初めて聞く、美由の声。

 少しハスキーで暗めだが、きれいな声だ。

「泣いてわめいてたんだよ。惨めに。ハンサム台なしで。でもだめなの?」

「駄目とかじゃなくて……」

 初めて美由は立木を正視した。

「何で寝たりしたの?」

「それは……桜井を信じさせるため……と……」

 後半がじっと小さくなる。

「と?」

「男って……どんなもんかなって……」

「だと思った。あなたまだ覚悟ないのよ」

 美由がツンとソッポ向く。

 あたしは息をのむ。

 感情のある美由が、こんなにやわらかく美しいとは。

 では学校での、氷のような石のような美由は何?

 美由はいったい何なの?

「ユリだよユリ。あの二人できてるんだよ」

 ファノンは確証を得たように言い切る。

 そうね、近いかもしれない。

 でもまだ違う可能性もある…


 夜が明けた。

 地上に降り立ったのが昼頃だったから、あと三時間ほどしかない。

 二人は結局一つベッドに寄り添って寝たけど、別段アヤシゲなことも起きなかった。

「ユリじゃないのか」

 少し残念そうにファノンが言う。

「ユリであってほしかったの?」

「そうかも。だってわかりやすいじゃん」

 ファノンは深々ため息をつく。

「じゃあ何だろう。姉妹?」

「顔似てない」

「似てない姉妹もいるじゃん」

「いるけど」

 血のつながりとかでない、何か全く別のつながりを感じるといえば感じる……

 二人でああでもないこうでもない言い合ってる間に、立木と美由は学校ヘ行くための身づくろいを終え、二人してマンションのエレべーターを目指していた。

 はるばる一階からエレべーターが来る。

 二人を迎えに。

 二人を迎え、そのまま連れ去ろうとする人々を乗せて上がってきた……

 二人は黒背広の男たちに取り押さえられ、エレべーターに押し込まれ……


 二人はその日、終日学校には現われなかった。




 あたしとファノンは連れ去られる美由たちについて行った。

 着いたところは研究所みたいな施設だった。

 あたしたちに現世の質量があったら、決して中には入れなかったろう。

 それほどにセキュリティチェックは厳しかった。

 二人が連れて行かれた部屋には一人、既に初老の男が連行されていて、美由たちは彼を見てあっとなった。

「お父様。どうしてここに」

「あんたたち何でパパまで運行してるのよ」

 言ってから互いにあっとなる。

「パパ?」

「お父様?」

「何でこの方(この人)があなたのお父様(パパ)なの?」

 互いに完全に驚いている。

 ファノンが私を見る。

 姉妹じゃん。

 違う、と私は首を振る。

 もはやそういうレベルじゃない何か。

 この状況はもはや異常以外の何ものでもない。

 そこに桜井通も連行されてきて、男を見て戸惑う。

「父さんっ」

 美由たち再び唖然となるが、桜井の次のセリフを聞いて二人はもっと驚いた。

「あんたら誰だ」

 待てぇーッ!?

 ファノンもあたしもみたび、あっとなる。

 これは、つまり……

「ソウデス。ボクデス」

 しょげた態度でヴィミニーが現れた。

「魔法使った。メレディーツ、失格って。落第かくていしました。ぴいいいいっ」

 泣き声のヴィミニーはかわいそうだが、かわいそうなのは桜井通も同じだ。

「魔法は解けないの?」

「いったんかけたいじょうとりけせません」

「どういう理由で失格したの?」

「りゆーはぜんいん戻るまでゆえないそうです。でもヴィミニー、この大バカモノってゆわれました」

 大粒の涙をポロポロこぼすヴィミはおいといて、あたしは三人を見比べた。

 美由と立木と桜井。

 似てない三人があの男を父と呼ぶ。

 その謎が今、この場所で明らかになるのだろうか。


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