第2話

 校庭の桜の木の枝に並んで坐る。

「桜井問題だね」

「桜井問題だ」

「男だね」

「男だ」

「そりゃあ死ねだわ」

「そりゃあ許せだわ」

 では、幸せは?

「仲直りか?」

「破談か」

「宝くじでも当ててやるか」

「あまりにも漠然でしょうそれ」

「当てることは出来るよ? フィニー、フィニフィー、フィリフィフィー……」

「ストップ!」

 あたしはファノンを激睨む。

「お金じゃない」

「お金だよー」

 誰、か、わかるこの声……

「ヴィミニー?」

「当ったりィ」

(何でみんなこのリアク?)

 上の枝からぶらんと、鉄棒ぶら下がりの要領で現われたのは、あおの髪、あおの目、ヴィミニー31世だ。

「ボクの担は金ほしくってうずうず」

「何でここにいンの」

「担がもうすぐこっち来るから。あ、来た」

 あたふたと走ってくる、スーツ姿の男。

 顔見てあたしとファノンがあっとなる。

 桜井通……!


 金がほしい桜井通。

 結婚せかされてる立木里沙。

 立木恨んでる沢村美由。

 この図式。

 こんどこそ事情は明々白々だろう。

「ヴィミニーは金の呪文。うちらは仲直りの呪文でどお」

「ファノンは破談にもちこみ、あたしは美由に新しい男。これでどお?」

 よさそうには思える。

 けど……

 あとからあとから情報が出る。

 簡単に判断するなってコトなのかも知れない…

「金と破談と新しい男でいいのかもしれない。でも違う側面が、あとから出たらどうする?」

 ヴィミニーとファノンが顔見合わせる。

「三時間待とう。三時間経って新展開なければ、金と破談と新しい男でいこう。それでどお?」

「意議なあし」


 とりあえず各々の担に張り付く。

 沢村美由を見守る。

 あらためて思う。

 すごい美人。

 立木なんて足許にも及ばない。

 でも心映えが黒い。

 一瞬もゆるがず立木を恨んでる。

 それも『こんな美人のアタシを振って!』ならまだ可愛げがあるけど、ーもニもなく立木が憎い。

 どういう心理構造してるのか。

 生徒が生活日誌持ってきたが、そこ置いて、みたく場所を示しただけで、顔つきさえ変わらない。

 生徒……好きじゃない?

 学校は?

 自分の職業は?

 沢村美由、あんたどーゆー人なのよ……


 見ているだけでは何もわからないので、とりあえず立木たちの方を見に行った。

 ファノンとヴィミニーが手招きする。

「修羅場修羅場」

 まじで?

 並んで覗くと、うん、確かにそこは修羅場だった。


 桜井通と立木が言い争ってる。

 だから私は美由を泣かせてまで、結婚なんかしたくないの。

 そんなこと言ったって、俺たち約束したじゃないか!

 ごめん私、あなたと結婚できない。

 ていうかしたくない。

 あんまりだ!

 俺めいっぱいあいつになじられたのに。

 甘んじて受けたのに。

 里沙、おまえってサイテーだよなっ!

 なじってなじってなじり倒して、桜井通は去って行った。

 殊勝な顔をしていた立木が、つと顔を上げる。

 笑っている。

 満面の笑顔だ。

「やったああっ! 電話電話!」

 指輪フォン手にする。

「コール短縮01」

 呼び出している。

 相手が出た。

「美由~! OKだよ。今日行っていい?」

 美由!?

 返事もなく相手は電話を切ったが、立木の笑顔は全然崩れない。

 あたしたちはただ茫然とうかれる立木を見ている。

 三時間後なんて生ぬるい。

 もっとじっくり見ないと……


 夜半。

 あたしたち三バカトリオは美由のマンション前に再集結した。

 その時間までには、相当なことがわかっていた。

 主としては、フラレ男の愚痴からだ。

         *

「美人二人だから目移りするの当然じゃんか。それでもちゃんと選んだんだ。美しいだけの陶器人形より人肌元気女。式場まで決めたのに、女ってやつはよォ……」

         *

 泥酔の愚痴をたっぷり聞いてきたヴィミニーは、肩をすくめて言った。

「ボクあんたらから離脱っ。失恋の痛みとか忘れさせてオッケーにする」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る