幸せ

めるえむ2018

第1話

 魔法学園8年生になった。

 来年は卒業年だから、就職活動もしなければならない。

 となると課題は今年のうちに済ませなければ。

 あたしは人間界に降りた。


 今地上には一二〇億人類がいるらしい。

 その中からたった一人選んで幸せにしなければならない。

 より好みは出来ない。

 自分の魔法の杖を投げてその杖が心臓にささった相手を必ず幸せにしなくてはならず、猶予はその瞬間から二十四時間、使える魔法はたった一つだ。

 まあ、あたしは、魔法学校の優等生だから、チョチ∃イのチョイで出来るだろう。

 降り立った第六中学校。

 相手は女教師沢村美由。

 漢字の名前、漢字の職場。

 日本という国らしい。

 待てよ教師って。

 どういう願いを持っている?

 担任のクラスの生徒全員の幸せとかだったらどうしよう。

 一つの魔法で足りるのか?

 去年失格したファヴィユは、とある国の為政者引き当てた。

 このバカが全国民を幸せにと願い、ファヴィユはあろうことか、まんま杖に願った。

『全国民を幸せに』。

 魔法とは、能力と、願いのサイズがつりあって働くものだ。

 もともと能力の低いファヴィユが大きなカを放つわけだから、効力は薄~くペラペラの紙みたいになった。

 その国の全員がそこはかとない幸福感だけを持つ静止状態となり……

 先生がたがもとに戻すのに二百二十日と千魔力を要したそうだ。

 あたしは同じミスをしたくない、というか、ファヴィと違ってあたしはもうちょい用心深い。

 さあ沢村美由。

 あなたを幸せにしてあげるわ!

 あたしは美由の心の中にダイブした……


 美由の心の中はまっ暗だった。

 生徒も日常も、ペットの犬すら見えなかった。

(美由がペットを飼っているかは全く知らないのだが)

 真っ暗闇の中を手探りで進むと、そこにーつのことばがあった。

 『立木里沙なんて死んでしまえ』。

 ずっ、ずいぶんな願いだな。

 でもこれが彼女の幸せなら、かなえなければならない…

(それも二十四時間以内に)

 まずは立木里沙をさが……

 いた。

 保健室医か。

 狭いっ!

 ものごと狭すぎる!

(けど広かったら移動だけでも魔法使わなきゃならなくなる。

神様ありがとうございます。ぺこり)


 そっと保健室を覗くと、ドクトレス立木は診察席に坐ってデスクに頬杖。

 美由と同じくらい憂鬱な表情をしている。

 もしやこっちの心の中も…

 と覗きたいけど、担当でない人間の心を覗くのは魔法。

 使ったら一つ終了だ。

 さあどうする。

「協力するか?」

 この声。

 まさかファノン!?

「当ったりィ」

 みどりの髪、みどりの目。

 ツインテに結んだ偉そうな…

 ファノンはカラカラと陽気に笑った。

「偶然は怖いねえ。アタシが立木の担当で、アンタが沢村の担当だなんて。何か関係あるでしょこの二人」

「とても深く」

「心読むのにひと魔法使うの惜しいじゃん。教えたげるからそっちも教えて」

 それは確かに得かもしれない。

 同じだとわかりやすいし。

 神様神様、二人とも同じ内容でありますようにー。

 せーの、はあたしが言った。

 けど内容は揃わなかった。

「沢村美由に許してもらいたい」

 え?

 あたしと同じくらいファノンは驚いている。

「死んでしまえなの?」

「許してほしいなの?」

 二人してうーん…と唸る。

 そして二人ともぽんと手を打つ。

「仲直りさせれば幸せになるんじゃない?」

 友情修復魔法一発で全解決?

 それも確かに幸せっぽいけど……

 ファノンはすっかりその気だ。

「仲直りの魔法かけるよ。エニウスハルファーハルモルテネレヌ…」

「だめえええっ」

 『エトウ』で完呪文だったけど、どうにか防いだ。

「何で止める」

「簡単すぎる。今年の設問メレディーツだよ。こんな簡単なわけない」

「メレディーツだってたまには簡単な問題出すでしょお」

 ファノンンンーっ。

 このお気楽魔法使い(未満)っ!

「とにかくこれは絶対引っかけだ。この食い違いのもとがある筈だよ」

 と、デスク上を食い入るように見つめていると、3Dスタンドのスイッチが切ってある。

 立木里沙はこっちを見ていない。

 今がチャンス。

 スイッチをオンにすると、きれいな3Dフォトが立ち上がった。

 立木と美由と男が一人、一緒に映ってて、三人楽しげに笑っている。

 と、立木が気づいてスイッチをオフした。

「オートにしてたっけか?」

 そこに生徒が入ってきた。

「先生指切ったあっ」

「だから彫刻刀は気をつけなさいって……」

 ガミガミ言いながら立木が手当てをしてる間に、外してあった指輪フォンの着信履歴に目を通すと、桜井通、桜井通、桜井通、桜井通、桜井通、桜井通……

 同一着信が二十七件もある。

 一通返すと、すぐ先方が出た。

「里沙。よかった、式場予約今日までなんだよ。このままだと流れる…聞いてんのかよ。里沙? 里沙っ?」

 切ってやった。

 ネタは挙がってんだ! の気分。

 あたしはファノンと顔を見合わせ、頷き交わしてそこを出た。


 


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