第一話 異世界召喚

 燃え盛る紅蓮の炎の中より出でし冥界の使者。

 その巨体が我が肉体を飲み込み、噛み砕き――


 如何ほどの時が流れたのかは定かではないが、儂は目を覚ました。


 視界が白い。どうやら儂はしとねの上にうつ伏せで眠っていたらしい。

 体を起こそうと腕を立ててみたが、如何したものか、起き上がることができぬ。

 犬畜生のごとき四つん這いから立ち上がることができぬのだ。


 あの異形の使者に喰われたことで四肢がおかしくなったのであろうか。


 そのまま辺りを見回してみる。

 南蛮の調度品らしき物がいくつか置かれている上に、この館そのものも南蛮式の造りのごとき面妖さである。

 天井近くより垂らされた薄衣のごとき布が風に揺れており、その隙間から外の景色が見えるのであるが、そこには儂の見たことのないような世界が広がっておるようだ。


 南蛮を一度訪れてみたいとは思うておったが、冥界というのは彼の国に似たところなのであろうか。


 儂が寝ておった褥は台のごとき物の上に敷かれているらしく、石造りの床はだいぶ下方に見える。

 四つん這いのまま飛び降りるべきか否か思案しておった時――


『おお、勇者殿よ目覚めたか!』


 儂の魂に直に届くような言葉を発する者が現れた。


 見上げた儂の目に映りしは、まさに南蛮人そのものの容貌をした男であった。


「おぬし……。もしや我が友ルイスが師と仰ぐ伴天連バテレン、ザビエル殿か」


 豊かな口髭と顎髭、何より特徴的なのは月代さかやきのごとく頭頂を剃り上げし黒髪。

 現世の友人たる伴天連ルイスからザビエル卿の聖画と呼ばれるものを見せてもろうたことがあるが、そこに描かれし姿と酷似しておる。


『ザビエル……? 誰じゃ、それ』


 首を傾げた男はすぐさま気を取り直し、厳かな声で儂に告げた。


『ここはオトギ大聖堂。そなたは元の世界での天命を全うしたことを機に、この世界 “オーニガーシム” の危機を救うべく召喚されたのじゃ』


「……おぬしの言うことはよくわからぬが、儂が家臣である日向守光秀に敗れたのは儂の天命であったということか。すなわち、この冥界を救うのもまた儂の天命であると」


『うむ。さすがは勇者殿。状況を飲み込むのが早いですな。では早速仲間の元へと馳せ参じて欲しいのじゃ』


 伴天連風の男は分厚い書物を取り出し、異国の言葉のようなものを読み上げた。


 その刹那、体からまばゆい光が溢れ出し、堪らず儂は目をつぶった。


 如何程の時も経ってはおらぬはずである。


 然れども、次に我が目に映りしは、鬨の声を上げておのこ共がぶつかり合わんとする、まさに戦の風景であった。

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