第二話 仲間との出逢い
儂の眼前に今広がるは、
ただし、儂がかつて縦横無尽に駆け回っておった戦場と異なるのは、戦う者達が皆異形の武士であることであった。
しかと目を凝らせば、頭に角を生やし紅や薄藍色の体をした鬼共が二手に分かれて戦っておるようだ。
弓矢の類をつがえる者は見当たらず、鉄砲を構える姿もない。
陣形も取らずただただ刀や槍でぶつかり合い、多くの命が刹那に散り、血の臭いが立ち込める。
何のための戦なのか。
誰のための戦なのか。
其は儂にはわからねど、腹の底から湧き上がる愉悦から、知らず笑いが漏れてきた。
面白い!
冥界の戦場で、儂も存分に暴れてやろうぞ!
四つん這いのままで駆け出そうとした刹那、儂の背後から聞き覚えのある声がした。
「お
儂を左様に呼ぶのは近しき家臣に限られるはず。
懐かしき声に振り向けば、そこには頭巾をかぶりし小さき男の姿があった。
「うう……っ。よもや儂の願いどおりに、お館様に再びお会いできようとは……!」
「その声……。もしやお主は “猿” か?」
儂の驚く声に、秀吉はこくこくと頭巾ごと頭を揺らしたかと思うと、おもむろに頭巾を脱ぎ去った。
「ぬおっ!? お主、冥界にて
声は秀吉、顔つきも儂が “猿” と呼んだに似つかわしい面影そのものであるのだが、顔の周りや首、腕などに毛がびっしりと生えておる。
「お館様、何を驚かれますぞ。お館様こそ
「わ、儂が小犬となっ!?」
儂は己の体を慌てて見回した。
確かに体じゅうに狐のような柔らかな毛が生えており、尻の辺りにはふさふさとした尻尾がゆらゆらと揺れておる。
試しに念じてみると、儂の意のままに左右に動く。
犬畜生に成り果てたなど信じられぬと立ち上がらんとするも、四つん這いのまま手のひらを地より離すことができぬ。
この冥界にて起こりしことにただ呆然としておると、「あっ! ヒデ
見れば桃色の甲冑を身にまとい、高く結い上げし黒髪を揺らす
その
「おぬし……帰蝶か!? なぜ
「帰蝶? 誰それ? ってか、まさかそのチワワちゃんがヒデ吉達が召喚した信長さんなの? 可愛すぎて頼りないんですけど」
儂の正室、帰蝶の若かりし頃に瓜二つの女子が眉をひそめて何とも残念そうな声をあげた。
「お館様になんと無礼な! このお方こそ、【天下布モフ】を成し遂げる力のある方であらせられるぞ」
【天下布モフ】……?
儂の掲げた【天下布武】の聞き誤りか?
猿が仰々しく言い放つと、その桃香とかいう女子は忌々しげに儂らを睨みつけた。
「確かにあたしの望むこの戦いの終わりは、かつての戦乱の世を平定した猛者を召喚することで叶うと聞いていたけれど……。それにしても、なんで三人が三人とも転生したら動物の姿になっちゃうわけ?」
「話にとんと見当がつかぬが、三人ということは儂らの他にも獣の姿にて生まれ変わりし者がおるのか?」
「左様にござります。お館様もよくご存知の御仁にござりますぞ」
儂は戦場をぐるりと見渡したが、獣が紛れている気配はない。
「さ、とにかくこれで三人? 三匹? もうどっちでもいいや! が揃ったんだから、殴り込みに行くわよ!」
桃香が腰の刀を抜き払い、ぐっと正面を見据えた。
「お館様! 儂はお館様と再び戦場に立てて嬉しゅうござります! 久方ぶりに存分に暴れましょうぞ!」
猿もまた混乱する戦場の中へと目をやる。
「うむ……! これは楽しみじゃわい」
武者震いが沸き起こり、儂の全身の毛が逆だった。
彼方を見据えぶるりと体を震わす勇ましき儂の姿に、桃香が「やだノブちゃん鬼カワー!!」と意味の分からぬ歓声をあげた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます