第4話
突然本格と言い出したメサに、アタシはちょっぴり違和感を覚えた。
それが何かはわからなかったけど、アタシは自分が違和感を感じる時の、特別な感触を信じていたから、早速あれこれ調べ始めた。
メサを調べるにはまず、祖国のファルルフを知らなければならない。
調べてみるとその国は、隣国ファヌ・ン・レと、交互に災害を受けていた。
地震、暴風、洪水、津波、干魃、そして飢餓。
これでもかというほど起きている。
まさしく災害のオンパレード。
だがここ数年、災害は圧倒的にファルルフに偏っており、ファヌ・ン・レの繁栄と対照的に、ファルルフは衰退の一途を辿っていた。
そしてもう一つ、メサについてのアンダーグラウンドな情報が、裏の世界から上がってきた。
メサは食いつめた、貧乏人の小倅ではなかった。
ファルルフの、没落した神官一族の庶子か、王族の第十一王子。
(どっちだ?)
どっちにしても食いつめて、日本くんだりにまで、相撲修業に来る立場ではない…
秋の興業で、早くもメサはデビューした。
四股名は瑪沙。
音通りだ。
とても小さいのにすばしこく、大柄な力士たちをきりきり舞いさせる。
人気が出た。
ちょっとした瑪沙ブーム。
うちは早くからかかわっていた分、士幌山部屋の覚えめでたく、クリスマスを前に、瑪沙の写真集を刊行出来ることになった。
年末年始の印刷休業に引っかからないように社員総出で校了日程が組まれ、全社一丸となって作業してる時、カメラマンのボヤキが聞こえた。
「何で左から撮らせないんかな。左顔のがかわいいのに」
アタシははっとなった。
レポートや記事に写真つけるときも、そういえば全部右だった。
タッチライターに窓を聞き声をかける。
「ファルルフ、左」
『神聖。禁忌。左耳の後ろに神のみに見せる本当の姿が出るため。』
!
やはりメサには何かある。
タッチライターで記事を漁る。
瑪沙。
左顔。
ない。
一件もヒットしない。
そんなバカな。
公共放送は全方位カメラだし、その辺のコドモだって瑪沙を撮る。
何故写らない!
しばらく茫然となったけど、気をとりなおして別の角度から攻める。
同様の事例…
一件ヒットした。
やはり相撲。
濡錦関は右顔像が…ない…
濡錦。
いつ来日した?
どこから来た?
モンゴルになってる。
でも前から思ってた。
モンゴルっぽくない…
ヌレニシキ。
ヌ・レ。
ファヌ・ン・レ…
突然タッチライターがロックした。
向こう側から“見られ”た。
画面が割れ状態となり、逃げ出す前に社内にホルダーが侵入してきた。
「レイコ・キシロ。拘束シマス。罪状・過剰アクセス」
いきなりキューブに閉じ込められてしまった。
「何しでかした」
デスクが禁煙パイプをめちゃめちゃ振り回す。
「何も! 相撲しか調べてませんっ」
「わかった。何も言うな。とりあえず完黙だ!」
とりあえず完黙って…
大昔の、体制派ジャーナリズムじゃあるまいしっ!
慌てふためくアタシ入りのキューブが護送車へと誘導される。
せっかくのクリスマスを、監獄で過ごす羽目になるなんて。
キューブの中で膨れっ面してたら、突然護送車が急停車した。
事故?
ではなかった。
覆面の男たちが五人ばかし、護送車を襲ったのだ。
「キューブをこちらにっ!」
きびきびした男の声の指示に従って、アタシのキューブが別の車~昔でいえばバンとか、ワンボックスカーとか呼ばれるタイプのそれだ~に積み込まれた。
車が走り出す。
これ何?
どゆこと?
アタシどうなるの?
これでも一応記者だから、バカみたいに怯えてるわけにもいかず、さりとてタッチライターとは引き離されてしまってる。
外部にアクセスする術がない。
しょうがない。
アタシは数を教え始めた。
7383数えたところで突然車は止まった。
「そんなことしても、車ごとワープホール通られたらわからんだろう」
声とともに扉が開いた。
そこにいたのはアタシの前任者、ロシアに栄転したはずの、八木沢慎一郎だった。
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